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アイコとわたし

アイコと私の関係について

アイコは2度輝く。
アイコと呼ばれている植物がいる。ミヤマイラクサという名前の通り深い山に自生するイラクサ。深い山と言っても、こちらはデフォルトが深いので、割とすぐ近くに生えていたりもする。杉林や渓流沿いに生えていて、去年、アイコの収穫場所をたくさん記録した。一つ生えていたらその周辺にもたくさん生えていることが多いのでコツを掴めば割とたくさん手に入るのがアイコのいいところだ。
しかし採るのには注意が必要。茎にはチクチクする儚い棘が付いていて素手で採るのはよほど手の皮が分厚くないと厳しい。僕は大抵ゴム手袋をして山のものを採っている。ふつうの手袋でもアイコの棘は貫通しない。そこまで鋭利でもないのだけれど、素手となると痛い。それくらいの棘なのだ。さくっさくっと採っていく。アイコは葉っぱも食べるという人もいるけれど、僕は食べない。これはひとえに師匠が食べないと言っていたからで、師匠が食べる人ならば僕も食べる人になっていたと思う。最初に教えてもらったことというのは、その後の人生を決定づけるものなのかもしれない、などと大袈裟なことを思ったりもする。
どこを食べるのかといえばそのチクチクのある茎である。葉っぱは山にいる時点で取ってその場に捨ててくる。帰ってきてゴム手袋をしたまま皮を剥く。コツがあるのだけれど文章で表現するのは難しい。手慣れてくると楽しい。すっすっと剥いて、生剥きアイコができる。
アイコの味というのはこれまた表現することが難しい。お味噌汁に入れて食べることが多いのだけれど、ウドやふきのとうのような山菜の独特な香りがあるわけではないので、山菜を食べているという感覚は薄いかもしれない。でも底の方からジワジワとおいしさが湧き上がってくるような感覚がある。僕は滲み出る滋養だ、と思っている。アイコのことを思い出すとき、滋養エキスが茎から滴り落ちるほど溢れ出ているアイコを、生でしゃぶりついているようなイメージでアイコのことを思い出してしまう。誇張した表現と思われるかもしれないし、こんなイメージをしているのは僕だけかもしれないけど、なんだかそういう風に感じてしまうんだよなあ。見た目は地味かもしれないけど奥底にとんでもない力を秘めている山菜なのだ。

そしてアイコは2度輝く。春のアイコは食べる用。秋のアイコは糸を紡ぐために採取する。noteで何度も書いているけれど鹿角市に拠点を置いている天羽工房さんに教えてもらい、アイコの繊維から糸を紡ぐ、というものすごくやばいことをやっている。食べる時と同じ容量でアイコの皮を剥く。皮には薄い繊維がある。ヘラでこそぎとるように採ると、皮から繊維が取れる。それを繰り返し繰り返しすると、繊維の塊になる。その繊維から糸を紡いで自分の作りたいものに使ったりしているのだけれど、このはるか昔から続く作業に僕はものすごく尊いものを感じる。やることはめんどくさい。糸なんて買ってくれば百円で大量のものが手に入るからだ。でもその糸、果たして自分で作れるのか?というともちろん作ることはできない。ヤギやら羊やらから毛を刈らないといけない。その前にヤギやら羊やらをどこで手に入れるんだ。毛を刈った後もゴミを取り除いたりその毛をちゃんと糸の状態に撚り合わせる人がいたりする。そういう一連の作業があることはあんまり可視化されない。百円なら百円くらいの価値のようについつい考えてしまうのだけど、糸を作るのってほんっっとうに大変なことなんだ(全部人力で1人でやってる、というのはもちろんあるけれど)、と思えるだけでも、今まで見えていなかったところに目が向くようで嬉しい。値段=価値という考え方ではなく、値段は価値の一つの要素で、もっともっと大切なことがあるはず、とずっとずっと考え続けたい。だから僕は今年も糸を紡ぐ。買った方が楽だけど、買っても手に入らない何かがそこにあるからだ。

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今日もまた、山菜の話から大きく脱線してしまったし、もう一回くらいサラピンの状態で書きたいくらい書き足りてない感がある。また書くかも。
アイコは僕の中では特に大切な植物で、いろんな人との縁を繋いでくれたなあという感謝もある植物なのだ。味もおいしいし、糸も美しいし、いつか僕も習ったことを他の人に伝えたいなあと思う。自分1人だけが独占していい情報ではないと思うから。

アイコ以外にも山菜のことを書く、この勝手な連載だけど、もっと自分じゃないみたいな文章を書いてみたいなあ。最初に私、なんて書いてみたのも一人称が変わったらちょっと変わるかなとかって思って書き出したけど、書いてるうちに「僕」になっていて、ああ、もう戻れないわ、と最後まで書いてしまった。僕とか俺とか私とか、いろいろ実験も兼ねて書きまくってみます。
ということで今日も読んでくれた方がいればありがとうございました。また。

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