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しどけとわたし

しどけとわたし

しどけを採れるようになったなら大したもんだよねと褒められる。生えているところにはたくさん生えるのだけど、なかなか見つけられない貴重な山菜だ。それに加えて猛毒を持つトリカブトという植物に似ていて、単純に危険でもある。まだ山菜を採ることに慣れていなかった時には、師匠に必ず確認してもらっていた。間違えてトリカブトを採るなんてことはこれまでなかったけれど、油断はできない。シドケを採る時はかなり注意深く個体を見ながら採っている。
まず茎の根元の方が紫がかっている。これがシドケの特徴だ。紫と聞くと毒のように思えるかもしれないけど、この紫の茎部分にシドケならではの風味が溜め込まれている。手でパキッとちぎり採る。そして匂いをかぐ。するとふわっと山の少し苦い風味が漂ってくる。おいしい。もうおいしい。トリカブトの茎を折ったことがないので分からないのだけど(毒持ちの植物の液体が手袋なんかに付着したら危ないっすもんね)、きっとこんなかぐわしい香りはないのではないだろうか。
そして葉っぱ。葉っぱは特にトリカブトに似ている。形は言わずもがな、若干ぬめらっとしているように見える艶?のようなもの。トリカブトのほうが若干乾燥しているように見えるけれど、そうではない個体も見つけたことがあるので、そこでの判別は危険だ。生えている場所が似ているときもあるので、やっぱり茎から葉っぱまでをしっかり見て採らないといけない。

師匠には、小さいもの(出たてのもの)を選んで採れよ、と言われている。山のものは大抵そうなのだけど大きいものよりは小さいもののほうがおいしい。大きいものは硬くなっている場合が多いのだ。あと、おそらくなのだけど、この縛りは代々続いているもので、そういった縛りを設けることで山のものを採りすぎない為の枷を自ら強いてきたのだと思っている。山を守るための知恵だ。僕もできればそれを守りたい。
と、かっこよく書きたいところだけれど、僕がそれをするにはまだ修行が足りない。というのも、小さいシドケ、師匠で言う食べ頃のシドケだけを採るというのでは、ぜんっぜん量が集まらないのだ。雪解けの具合を毎日見ながら、このくらいだったらあそこにはいい具合のシドケが生えているなあってことが肌でわかる感じ。それができれば僕も自ら枷をつけたいところなのだけど、僕にはその能力がないので、行き当たりばったりで見つけるしかない。運良く見つけられたとしてもそのシドケはもう少し大きくなってしまっている。大きくなったものも食べられはするのだけれど、やっぱり小さいもののほうが柔らかくて食べやすい。旅館を何十年も自分の採ってきたもので回してきた人だからこその技術。僕はまだまだだ。これから少しずつその背中に近づいていきたい。

シドケは茎を食べると言われるけれど僕は葉っぱも食べる。僕の中では割と苦労して手に入れるもの、という認識なので葉っぱを捨てるのはもったいないなあと感じてしまう。葉っぱにも、あの独特の風味が少しだけ混ざっていて良い。
アク抜きはあんまりしないでもいい。そのアクこそがシドケの味だとも言える。さっとゆがいて生で食べる。飽きたらポン酢やマヨネーズなどをつけて食べる。茎の皮は剥いたほうがいいと教えられたけれど、僕はどちらでもいいと思う。面倒はできる限り排除して、やりたいようにやる。山菜をたのしむコツ。

・・・

しどけについてはいつも気をつけながら採っているので、他の山菜との距離感はちょっと違うかもしれない。もしかしたらこいつは自分を殺すかもしれないと思いながらじっと観察しているので、適度な距離感を保ちながら愛でているような感じ。まだちょっと心が開き切れてないなあ、と思う。味は本当に一級品だと思うし、山菜の中でも人気があって、あげたら地元の人にも喜ばれるようなものなので、できる限りたくさんの人にお渡しできるようにしどけ採りには力を入れたい所存である。

というかんじでいつもの通り書き散らしていたら1600字。もう少しだけ。
今日はマタギ関連のミーティング。テンカラ釣りが海外でブームとのこと。去年あたりから絶対マスターしたるぞーと意気込んでいたところだったので、お金にもなるのなら一石二鳥ですよね、ということで今年はテンカラ釣りをマスターすることを超念頭に置いて活動しようと思った。
テンカラ釣りというのは、毛鉤という擬似餌で魚を釣る古い漁法。用意した餌で釣る餌釣りと違って、自分で作った毛鉤で魚を騙さないといけないので、より魚との一騎打ち感が強まる。この地域でテンカラをやっている人は僕が知っている中では1人しかいなくて、まあ教わらなくても、自前でなんとか身につける。なんでもまず1人でやってみて無理なら聞きにいく。そうじゃないと何も始まらない。

と、そんなことを書いてたらいつもの2000字だ。それではまた、明日も書きます。

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