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熊の手

熊の手

僕の住んでいる「阿仁」という場所はマタギ文化の発祥の地と言われています。香川県高松市生まれの僕は、この「マタギ」に惹かれて阿仁にやってきた移住者です。マタギと熊は、かつみとさゆりくらい切っても切り離せない関係で(なんでこの例えが思い浮かんだのだろうか)、曲がりなりにも阿仁の絵をこれから見せていくものとして、熊を見せねばお話にならねえべ、と言われてしまうようなそれくらい特別な生き物なのです。

マタギをやっていると自然に熊に対して興味が湧いてきます。山の急斜面をその手足で駆け上がり、ガシガシと爪を立てて木に登ったりする。かと思えば器用に筍の皮を剥いたりもできる。いずれも人間が道具を使わないと出来ないようなことを、かれらは地肩で全部やってのけてしまう。山に生きるという観点で言うと、人間って熊よりも圧倒的に劣っているよなあ、と思わざるを得ません。
そんな熊の手や足に触れられる機会が年に数度あります。それはマタギの猟で熊が仕留められた時。マタギは古くから熊を狩ることを生業にしてきました。今、生業にしている人はいませんが、熊を狩る文化は受け継がれています。そんなマタギの猟に僕自身も参加させていただいています。この熊は「タカクラ」と言われている場所で仕留められた熊です。なかなか出来ない体験をできていることに感謝しかない毎日です。

熊の手足の肉球は「柔らかいけど硬い」んです。大地をぐっと踏みしめるために柔らかく、身を守るために硬い。自然の中を生きるためにはどちらも必要なんだろうなと感じます。肉球にはカサブタがあるときもあって、肉球の上にブツブツゴツゴツしたものが覆っていることがあります。熊がここらへんの山をこの手足で歩いていたんだ、とそのカサブタのようなものを見ているとより実感するんですよね。自分がスパイク付きの長靴で、長袖長ズボン、帽子は必ず被る。リュックには無数の道具、リンリンとなる熊鈴、その横には熊スプレー、山の近くまで車で走る。そしてやっと山に入る。装備がないと人間は山に入れない。こいつらは生まれ持ったものだけで山にいる。こいつらみたいに山を歩けたらいいなあ、ああいいなあ、と何度思ったかなあ。この熊の手の絵は僕にそういうことを思い出させてくれる絵です。

ということでここまで読んでいただき、絵を見ていただいて、ありがとうございました。また明日も投稿します。

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秋田県の阿仁という地域の絵を「狩猟採集民の絵」として載せています。 さっと見ていってください。 6月16日〜7月15日まで、毎日朝7時更新…

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