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熊の皮をどうするか。 2

続き。

アイコの糸紡ぎワークショップに参加して、糸の紡ぎ方を一通り学んだ後、いざ実践ということで山からアイコを採取。食べごろを過ぎたアイコは茎が太くイガイガもたくさんあったのだけど、そういうアイコこそいい繊維が採れる。その繊維を乾燥させて糸を紡ぐ。紡いだ糸で熊の革を縫う。

一番最初に作ったアイコ熊革

財布や名刺入れのように何かしらの「機能」を持ったものを作るというよりは、ただただ熊の革をアイコの糸で縫ってみたかった。その結果、なんなのかよく分からないものが生まれた。正方形の熊革。なんなのかはよく分からないけど、獲れた熊に、自分で紡いだ糸が縫われているというのは、すごいことなんじゃないか、みたいな気分になった。これが売れるとは全く思わなかったのだけど、ものは試し、売ってみることに。
妻に「これはなんて名前を付けたらいいんかな」と相談すると「キーホルダーじゃなく、チャームという括りがあるらしいよ」と教えてもらって、この商品を熊革チャーム、と言うことにした。これを500円という値段で売ってみた。正直全然期待はしていなかった。

で、このチャームが割と売れたのだ。たしか16個くらい売れた。自分で作っておきながら、なんの機能も持たないこれを買ってくれる人なんているのかなあ、と思っていたのでかなり驚いた。熊の革というものの希少性と、アイコの糸という希少性、そしてそれにしては安いのかもしれないと思わせる値段が、色々マッチしてくれたのだと思う。僕はこの時の経験で「熊の革というのは、それ自体が既に誰かにとっての欲しいものなのかもしれない」と考えるようになった。であれば、それを加工して「使えるもの」にするという方向で考えるのではなく、この革そのままをアピールすればいいのではないか、と考えるようになった。

こういう考え方の変化があり、妻の助言でピアスとイヤリングを制作。チャームよりもかなり高い値段だけれど、買ってくれる人がいた。きっとその人たちは僕がどういう意味合いでこれを作っているのかを理解しようとしてくれた人たちだと思う。全員にバシバシ売れるものではないのだけど、でも買ってくれた人にはしっかりと自分の思いのようなものが伝わっている。この辺からまた少し、自分がこの活動をやっている意味が変化し始める。

そして今現在。僕は「熊のかけら」という300円くらいの商品を作った。今日、駅やスキー場に持って行き、置いてもらえるように交渉した。近日中にいろんな場所で販売されると思う。



この熊のかけらという商品は、たくさん試作を作ったときに出た熊革の切れ端で作ったキーホルダーだ。切れ端なのではっきり言って普通は捨てられる。でも、熊の革となるときっと欲しい人もいるはずだと思った。イベントなどで販売してみて実際に売れもしている。僕がいない委託販売で、これがそれなりに売れるとなると「熊の革」の現状がかなり鮮明に分かってくる、と思った。つまり、熊の革自体が現状で相当希少であるということ。もちろん売れるかどうかはわからないけども。

・・・

この希少性、商売をする上ではかなり有利に働く。珍しいと、値段が上がるのが資本主義社会の原理。
でも、やっぱりこの原理はおかしいと思う。なぜならこの希少性は、年間で500頭くらいの熊が殺処分されているのにも関わらず、皮が革になっていないからこそ生まれる希少だからだ。ただ殺されてこの世からいなくなるだけの熊がたくさんいる。

皮を革にしたからと言って、死んだ動物たちが報われるのかというと、たぶんそういうことではない。皮を革にするのなんて、ただの自己満足で、捨てられることや燃やされることと、大して変わらないのかもしれない、とも思う。でも僕は自分自身の感覚を信じたい。この現状はおかしいし、なんか嫌だ。
使えないから、お金に変えられないから、面倒だから、いろんな理由で、皮の利用は進んでいない。そこで、僕はちょっと大きく夢を持つことにした。熊革が秋田県人にとって当たり前のものになること。今は希少で珍しいものかもしれないけど、めちゃくちゃ当たり前に、狩猟をしているみんなが皮を革にしていること。そしてそれがきちんと職人の手で加工されて、世の中に販売されていること。
一気にはできない。でも一歩目は切れている。熊を鞣した、加工した、販売した。それをやっていたら、自然とレザークラフトの職人さんとも繋がることができた。この人たちと一緒に今年は指で数えられるくらいの熊の皮を革にすることが目標。そしてそれを使って商品にすることも。

それでまた何かしら状況が変わるだろうし、新しい考え方も湧いてくると思う。でも大元は、殺されているだけの熊が多い現状が嫌!!というところがスタート。これを少しずつ改善していく、という気持ちで今年一年、できることをやっていく。
なんかmorohaを久しぶりに聴いてしまい、熱い。

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