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鹿皮鞣し記録

マタギの師匠がいるのだが、その師匠に「おめならなんとかするべ」と鹿の皮と角をいただいた。師匠の息子さんが岩手で手に入れたものだという。
なんとかするやつ、と思われてるのが嬉しくて受け取ったけれど、さてこれどうする?となり、テンの皮をなめしたことのある友達に相談した。
使えるサイトなどを案内していただき、これならできるかもしれないな、という方法で鹿の皮をなめしてみることにした。

熊の革を東京のタンナー(鞣し業者)さんに送る時と大体同じ手順だった。まず塩漬けしておいて、長期間保存できる状態にしておく。鹿の皮をもらったのは3月の初旬。かなり大事な仕事があったので、すぐにはできないなと思ってとりあえず大量の塩で漬けておいた。これで余裕のあるときに鞣すことができる。ありがたいことにそこまで忙しくないので、約2週間後の昨日と今日に作業に取りかかった。

まず、全体にまぶされている塩を落とす。同時に皮に付いている汚れも落としていく。僕の家には外付けの水道がないので、近所のおじさんの家で洗わせてもらった。気軽にこういうことをお願いできる人が周りにいないと、僕には何もできないので、ほんとうにほんとうにありがたい。生かされている。

鹿の皮。立派だった。その近所のおじさんには「ほんとに鹿か?カモシカでね?」と言われた。
違いますよ〜と答えたけれど、それを言われてからほんとに鹿か・・・?笑
いやカモシカだったら笑い事じゃないんだけど。
裏面。若干取りきれていない肉はあるものの、ものすごく綺麗に肉が取られている。
僕は絶対にこんなに綺麗にとれない。こういう仕事を見ると、ああすごいなあと感心する。
水を含んだ皮は異常に重い。
肉が残っているので、カラスなどにつままれないか心配しつつも、1日外で干した。

写真のような形で、水洗いして塩を取り、それを干した。皮は水を含むとものすごく重くなるし、かつものすごく伸びる。ぐでんぐでんになるという感じ。こんなに毛はついていないけれど、自分の皮膚だってだいたい同じような構造だろう。どこまでも伸びる鹿の皮を見て、思わず自分の皮膚をつねった。

二日目、鹿の皮の裏面についている脂を取る。写真ではわかりづらいかもしれないが肉のほかに脂がついている。この脂を取り除かなければならないようだ。原理などまったく調べずにやってるのでここで詳しい説明を書くことができないのが申し訳ないのだけど、とりあえずこの脂が残った状態で鞣すと、最終的な完成形にビロビロの脂が残ってしまうことになることは間違いない。それはあんまり見た目がよろしくないよね、だから脂は取りましょうね、ということなのだろう。脂だけでなくもちろん肉もとる。

友達に「洗剤を使うと脂がとりやすくなるよ」と教えてもらっていたので、まず皮全体に中性洗剤をかける。環境への負担は忘れずに。かけてしばらくするとたしかに脂が浮き上がってくる。でも手で擦ったくらいではとれそうにない。手でちぎり取るようにして脂をとっていたのだけど、これでは丸2日くらいかかりそうである。どうしたもんかなあと考えて、一か八かナタで擦ってみることにした。ナタの切れ味次第では皮に傷がついてしまうだろう。
写真のように刃を斜めに当てて、奥から手前へかなり力を入れて擦る。かなり心配したけれど、結局自分のほぼ100%くらいの力を込めても皮は破れなかったし、手で取る何倍も効率良く脂を取ることもできた。これなら1日で終わりそうだ。

ナタで脂を取り始めて1〜2時間後くらいの皮の様子。背中についていた肉もこそげとることができたし、大体の脂を取ることもできた。脂を取った鹿の裏面はものすごく美しい。せっかくなのでアップで。

美しいなあと思う反面、薄気味悪いなあとも思った。
なんだろう白は白でも生々しくて。

大体取り終わったかなと思い、仕上げにもう一度中性洗剤をかけ、水ですすぐ。すると取りきれていなかった脂がまた浮き出てくるではないか。それはないぜ・・・と思ったのだけどここで妥協したらたぶん後悔するなと思い、水から取り出して浮き出た脂を取り除き始める。一旦終わったと思った作業をまたやらないといけないのはきつかった。ラジオをききながら、しんどいしんどい言いながら、やっとのことで脂取りが終わる。おそらくまだ少し残っている部分はあるのだけど、まあもう十分だ、と見切りをつけ、昨日のようにまた干した。

という感じでとりあえず大事な二工程を終わらせた。
大変すぎて、こんなこと引き受けるべきじゃなかった、と思った。笑
でも、やっている最中は近所の人と話したり、友達とも高圧洗浄機がいいんじゃないかみたいなことも喋ったりできて、やっぱり何かをやってみるというのは、おもしろいことだなと思った。明日は別の工程がある。さてこの鹿の皮、一体どうなるのか、完成するのか。もしご興味ある方がいれば今後の行く末を見守っていただければと思います。それでは。


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