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連続小説MIA (83) | Chapter Ⅴ

口に酸っぱい不快感が広がり、涙に悶えた。ふと人の気配を感じ振り返ると、そこにいたのはクロエの妹、オリビアだった。大の大人がぼろぼろと泣いていることの恥ずかしさから、その場を立ち去ろうとするがオリビアは僕の前に立ち尽くした。仮にもオリビアは16歳である。高校生の女の子に本気の嗚咽を聞かれたと思うと恥ずかしさで僕はどうにかなりそうだった。なぜ、ここにオリビアがいる?みんないい気分でソファに居たはずでは?そうだった、オリビアだけは酒を飲むことのないようにみんなで約束を守ったのだった。彼女はきっと、この状況をとても奇異なものとして受け取っただろう。僕は再度この場面から逃げ出そうとしたが、オリビアは進路を譲ろうとしない。説明をせずに逃げ出すことは、余計な心配をかけてしまうだろう。しかし、うまく英語で話せるのか?自問した。僕は目頭を拭き、一つ呼吸を整え、笑顔をつくりオリビアの顔を見た。すごく心配そうな顔で僕を見ていた。僕は、ちょっと飲み過ぎてホームシックになったんだよ。心配かけてごめんね、と説明する。僕の英語は、合っているのだろうか?不安になり、えーと意味伝わった?と訊くと、オリビアは黙ってハグしてくれた。僕はこの状況を理解できなかった。いったい何が伝わって、何が伝わっていないのだろう?言語の影響力が届かない範囲に僕たちは居るのだろうか?訳がわからなかった。オリビアはクロエよりも7~8センチほど背が高い。たぶん170センチくらいだ。高めのヒールを履いてお洒落をしている今日の彼女は、僕とほとんど変わらない身長がある。彼女がとても優しくハグしてくれたから、僕もオリビアを抱きしめた。ああ、さっきの吐しゃ物がオリビアのきれいな髪に付いていないと良いのだけど、と考えていた。僕は、この出来事が、夢であってくれと願った。落ち着いたころに、リビングに戻った。みんなが心配していた。晶馬が翌朝、リビングのソファで目覚めると、すでにオリビアはいなかった。頭痛がするし、体がベタベタしていて気持ちが悪い。家に帰ろうと考えたが、ベンはいつまでも起きてきそうにない。ノックをしても応答がないベンの部屋に入ると、裸のまま眠っているクロエの背中が目に入った。慌ててドアを閉めて、その辺りに置いてあったキッチンペーパーに「昨日はありがとう。家に帰る」とメモを書き残した。(なぜこういうときに限って普通の紙が無いのだろう)昨日の出来事はすべて夢だった、という結末だったらよかったのだが、玄関先の芝生に乾いてへばりついた吐しゃ物が、事実を知らしめていた。僕は、オーナーの家に帰った。それからしばらくオリビアに会うことはなかった。

つづく(※平日の正午ごろに連載を更新します)

 (*The series will be updated around noon on weekdays * I stopped translating into English)

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