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連続小説MIA (87) | Chapter Ⅴ

酒屋からの帰り道、ベンと二人でたくさんのビールを持って坂を下った。帰り道が上り坂でなかったことが幸いである。オーナーの家に到着すると、クロエも来ていて、オリビアと二人で食事の準備をしてくれている。いつ見ても仲の良い姉妹である。かくして、ピザ・パーティは開かれた。この日も、オリビアをのぞく全員が酒を飲み、各々ゆったりと好きに過ごしていた。最高の休日である。いよいよ暗くなってきて、オーナーがベンたち高校生に帰るように促した。オリビアがいなくなっていることに気が付いたのはクロエだった。「ねえ晶馬、オリビア知らない?」テラスでのんびりとビールを飲んでいた僕のところにやって来てそう尋ねる。「いや、知らないよ?ベンジャミンも知らないって言ってる?」ベンジャミンはずっと私と居たもの、という。なにか、理由があってどこかに行ったのだろうか。クロエに何も言わないで?オリビアは僕の知る限り、勝手にそんなことをするようなタイプではない。食事の時はそんな素振りは見せていなかったけれど、何かあったのだろうか。オリビアはまだ携帯電話を持っていない。クロエが家に電話を掛けたが、まだ帰っていないという。その結果を聞いて、いよいよこれはまずい話だとにわかに不安が走った。夜道が暗いので、クロエはベンジャミンが家まで送っていくことになった。酒を飲んで寝てしまっているオーナーは、そっとしておこうという話になる。余計な心配をかけるべきではない。僕はクロエたちとは違う道で、一駅先のクロエの家を目指すことにした。クロエたちは駅から電車に乗った。もし、家にクロエが帰ってきていたら、僕の携帯電話に連絡が入ることになっている。駅前から続く通りに沿って、歩いた。星がとてもよく見える、きれいな夜だった。多くの店が閉店準備をしており、店に入っているという可能性も低いだろうと考えた。すべての道を通ることは不可能だが、若い女の子が一人で行けるような場所は、そんなに多くないと踏んだ。携帯電話を見るが、着信履歴はない。もうすぐ、クロエの家の近所だ。シドニーには坂が多い。ときどき、木々の向こう側に、ちらちらと夜景が見えた。ふと、木々が開けた場所があり、人が入って行けるだけの獣道が踏み鳴らされている。僕はなんとなく、ピンときた。もしかすると、ここかもしれないと思ったのだ。

つづく(※平日の正午ごろに連載を更新します)

 (*The series will be updated around noon on weekdays * I stopped translating into English)

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