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連続小説MIA (76) | Chapter Ⅴ

V

フレッドのレンタルビデオ店の二階にある住居の賃料は、週に390㌦(一日に直すと、一人当たり28㌦)で、これはシドニー市内のゲストハウスに滞在し続けるよりも経済的である。晶馬は今、シドニー滞在を続けるための十分な資金を持っていた。ゴールドコーストでの騒動から、一時は金が尽きかけて、路上生活をするほかないというところまで落ち込んだ日々を懐かしんだ。そこから流れついたバンダバーグの農場では仕事がある日はすべて出勤したし、山の乗馬クラブでの生活は週に一度の買い出しに限られていたから、支出が収入を超えることはまず無かった。わずか半年足らずの間に、急降下、そこからのどん底を経験し、今ようやく平地が見え始めている。自分の無計画ぶりには(自分ごとながら)愛想がつきかけているものの、振り返れば、まあ何とかなっていることに気がつく。所持金の大半は銀行に入っている。これだけあれば仕事をしなくても2か月は過ごせるだろう。夕暮れのチャイナタウンを歩く。観光客としてではなく、つかの間ではあってもこの町の住人として。公衆電話を見つけたタイミングで、立ち止まり、晶馬はポケットから紙切れを取り出した。ノートに挟んであった、ちいさなメモだ。書いてある番号を正確に打ち込み、呼び出し音を待った。「Who’s this?」

 晶馬は日本語で言った。「もしもし、斉藤です」一瞬、沈黙があり「ああ、斉藤くんか。ヌーサぶりだよね!元気にしていた?」とトウジさんの元気な声が返ってきた。「驚かせてすみません。今、シドニーの公衆電話から掛けてます。先日、この街に戻ってきました。トウジさんは今、シドニーですか?」トウジさんはシドニー近郊の街、パラマッタに住んでいるという。「明日なら時間が取れそうだから、朝10時にセントラル駅で待ち合わせよう」トウジさんに会えることは、本当に嬉しいことだった。ヌーサヘッズでトウジさんに出会わなければ、一体どうなっていただろう。

つづく(※平日の正午ごろに連載を更新します)

 (*The series will be updated around noon on weekdays * I stopped translating into English)

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