桑野隆『20世紀ロシア思想史』

 数少ないロシア思想の概略的解説を行う本。流れとしてもソロヴィヨフの神学から始まり後半にモスクワ・タルトゥ学派周辺に至るので流れを追う上ではとても参考になると感じる。
反面、それぞれの思想家の思想解説については短く、種類は多いがロシア思想を突き詰めていこうとする人には不向き。ロシア思想それ自体の翻訳が多くないせいか、原典の明示もあまり多くなく、読者は個別に調査を迫られるだろう。
元々ある程度知名度のある人物の思想については目新しさはないものの、我が国では翻訳に恵まれていないイリインに関する言及や、ソ連におけるペレストロイカによって過去ソ連において封じられてきた亡命ロシア思想が逆輸入される構図がある等、流れを追う意味ではとても勉強になる。

日本におけるロシア思想関連書物で順序付けるのであれば

N・ベルジャエフ『ロシヤ思想史』

桑野隆『20世紀ロシア思想』

乗松亨平『対立の亡霊』

の順序で読むと、ロシア思想の大まかな流れを追いかけることが出来るだろう。
ただ、ロシア思想それ自体がロシア正教の強力な影響下にある都合上、ロシア正教という背景を理解出来ないと思想に連続性を持たせられず、この本だけを読んでも孤立した思想が並ぶだけになってしまう懸念もある。この辺はどこかで自分で書いておこうと思っているのだが……。

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