芸に死し、芸に生きよ。

前座の頃は体力を鍛えて、二つ目は精神力を鍛える。僕の場合はそんな感じで生きて来ました。

前座の頃の体力には精神力も内包してますが、圧倒的に身体が疲れているので、それを鍛える余裕がないというのが本当のところでしょうか。

それが二つ目になるといよいよ下働きから解放され、スケジュールが真っ白になって、頭の中も真っ白になるという、そこで落語と向き合いながら精神力を鍛えていく日々が始まります。

二つ目時代って僕の中で三つくらいのフェーズがあって、いわゆる守破離とか序破急のような感じで大体三年区切りくらいに分かれるような気がします。

今日はそんな僕の二つ目時代を振り返ってみたいと思います。

①もが期(2012-2014)

最初の三年間は、とにかく必死に二つ目の体になることを意識して、ネタをたくさん覚えたりします。だけど、笑いも欲しいから色々試したりもします。

僕も「初演の会」に参加したり、 ネタを増やしましたね。この頃覚えたネタはかなり今でも重宝しています。

仕事がないけど、ネタだけは増やさなきゃいけなくて結構辛かったですが…

②迷走と原点回帰を繰り返す期(2014-2017)

2011年に二つ目になって、2014-2017くらいの三年間は結構大変な時期でした。ネタも増えて来て、仕事もそれなりに増えてくるけど、自分の芸についてとにかく悩むんですよね。

この時も毎月ネタおろしをしていて、常にノートを持ってネタを覚える毎日でした。

それと同時に、自分色を出さなきゃと必死になって、ネタおろし直後から工夫してみては失敗する。こらいかんと原点に戻って教わったとおりにやったらこれもウケないという、改良と原点回帰を迷走する状態に陥りました。

完全に自分の技術の足りなさを感じる時期でした。教わった通りにやったと言いながら、自分の欲が出てウケないんでしょうね。

この時期は余興もなぜか多くて、結婚式の司会も半年に一回ほどですが経験して全部で5、6回はやったんじゃないでしょうか。今、落語家の若手で結婚式の司会はあまりやらないので稀有な体験をたくさんさせてもらいました。

③悟り期(2017-2019)

結婚したり子供ができたり、そうなって来ると芸が変わってくると言われますが、この頃から僕の芸も固まって来たような気がします。自分の現在地というか立ち位置というか、どうあるべきかが分かって来た時期です。

難しいのは、落語に慣れ過ぎないこと。余裕がある様子は良いんですけど、余裕があるのと手を抜くのは紙一重なので、手を抜いたと思われない様に、少し汗も見せなきゃいけない。だけど必死になり過ぎるとウケないのでその塩梅を考えながらやって行く感じです。

自分の落語をどう見せるか分かってくる時期ですね。

そして現在(2020-現在)

さあ、自分の芸は固まった。これからだ。

そんな時期に襲って来たのがコロナです。ここからは、全世界が同じで全ての活動がストップ。落語のような嗜好品はいち早くストップ。そしてその後遺症もまだまだ続いています。

この2020年は忘れられない年になりましたね。そして、全く仕事のない半年間ぐらいは自分を見つめ直す良い機会にもなりました。たくさん時間があったので、圓朝の連続物を覚えたり、今までのネタを再考してどれを残していくか考えたり、コロナの終息と同時にどういう自分が始められるかをとても考えました。

2020年が過ぎ、2021年の春に真打昇進決定の連絡が来て、もう一年二つ目を過ごせることになった。そんなラストイヤーには、北とぴあ若手落語家競演会、NHK新人落語大賞と二つのコンクールがありました。どちらも駄目でしたが、自分の現在地がとても良く分かりました。と同時に、この二つのコンクールのおかげでまだまだやれると思いました。

コンクールは水物というか、その瞬間瞬間にお客さんや審査員に合わせて行くものなので、普通の落語じゃ勝てません。だから落語のチャンネルを一つも二つも変えないといけないんです。

コロナの前は、自分の落語が固まりつつあったのでもうそれで良いやと思っていましたが、最後にこのNHKに合わせてギアを変える作業、言ってみれば落語をイジるってことを、自分なりに本気でやってみました。このコンクールの話は改めてしますが、この期間が自分にはとても有意義でした。

1ヶ月くらいNHKでやる「七段目」を笑わせるためだけに喋るのを繰り返しました。コロナ前には固まりつつあったものが、変えることでとても楽しかった。固めるってのは落語ではなくて、自分のスタイルってだけなんですね。

「固める=工夫しない」

ではないわけです。そう思ってたわけじゃないですが、そうなりつつあった僕をもう一度落語家になった時分の気持ちに戻してくれたのが、二つ目最後に出たコンクールでした。

なので2021年は僕の落語にとってとても意味のあるものになりました。ただ喋るだけじゃなくて、やっぱり落語は動かしていかないといけない訳です。

初代三平師匠の残した言葉に「芸に死し、芸に生きよ」というのがあります。これは戦争から帰って来た自分に向けた言葉らしいですが、物凄い言葉です。

「芸に死し」です。芸と心中です。

良い落語をずっとずっと追い求めて行く覚悟が見えます。

僕もまだまだ真剣に落語と向き合わなきゃですね。

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