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落研の巡業

ウチの大学の落研は夏と春に巡業をやります。普通のサークルだったら夏合宿だ春合宿だと言うんでしょうけど、落研は巡業です。


というのも、目的が稽古ではなく慰問公演にあるからです。毎日滞在場所を変えながら、事前にアポを取った老人ホームに落語の公演をしに行くんですね。


浅草の宮本卯之助で作った提灯を持って、「御用だ御用だ。」と言わんばかりに、移動していきます。今は提灯は持って行かなくなったようですが。


学習院の落研のイベントとしてはこの夏巡業というのがやっぱり一番大きなイベントでしょうね。亡くなった喜多八師匠もたまに、顧問となった私に「巡業はどうだった?」なんて仰ってましたので、やっぱり落研のイメージは「夏巡業」でしょうね。


この夏巡業は6泊7日の旅で、その年に行く方角を決めて、今年は「東北を攻めよう」とか、「上越に行ってみよう」とか、「西に行こうよ」なんて感じで決まっていきます。

これを決めるのが、渉外という役職の学生で、僕も2年生の時にやりました。「渉外」っていう言葉は落研の時に知った言葉で、先輩には「渉外くらい知ってなきゃダメだ。」って言われましたが、卒業して使うことはありませんね。


この渉外がツアーコンダクターのような役割で二年生の時にみんなを夏巡業にエスコートします。なのでこの渉外を誰がやるかで、かなり行程が変わるし、そのハードさが違ってきます。


今の学生はお金持っている子が多いので、新幹線を使ったり特急列車使ったり、かなり優雅な夏巡業をしているみたいですが、僕らの頃は本当に節約節約の貧乏旅でしたね。


ちなみに僕が二年生の時に作った行程は思い出せる範囲でこんな感じです。僕は西に足を伸ばすとこから始めました。

初日 塩尻(長野)←新宿発

二日目 木曽福島(長野)

三日目 名古屋(愛知)

四日目 高山(岐阜)

五日目 富山(富山)

六日目 直江津 (新潟)

千秋楽 長岡 (新潟)→新幹線で上野へ行って終わり


確かこういう行程だったと思います。自分がやると覚えているもんですね。落研の思い出はかなり忘れていることありますけど、自分で作成したこの行程だけはなかなか忘れないものです。今と違って携帯も電話とメールくらいでしか使わないから、もちろんルート検索も出来ません。


全部時刻表ですw


時刻表を片手に持って行程を作って行く。今考えりゃあかなり滑稽です。


しかしまあこの行程見ると恐ろしいですね。初日の新宿のスーパーあずさと、帰りの上越からの新幹線以外は全部各駅停車の在来線での移動ですから。


毎日2時間半くらい電車に乗るわけで、たぶんみんなくたくたになったんじゃないですかね。宿も一人3、4000円のとこを探して、かなり格安ツアーだったと思います。


で、この時から変わったことというか僕が勝手に変えちゃったことがあって、それは男女みんな全員で最後まで参加するということです。


僕以前は、女性部員は最初の3日間で終わり、残りの日程は男性だけで続けて行くということになっていました。昔は女性部員が少なかったのと、体力的な問題とか、後は男だけで後半は楽しもうというかまあ色々と理由があってそうなっていたようです。


それを僕の代の時にやめて、行ける人はみんな同じで最後まで行きましょうということにしました。


これは何か物凄い大義があったというわけではなく、当時の部員の少なさがその理由です。


その時の部員は私を含めて5人しかおらず、その内3人が女性でした。なので後半は2人だけで旅を続けなければならなくなる。これでは旅が続かない。


そこで、女性にも最後までいてもらおうということにしました。結局は一人帰っちゃったので、途中からは4人での旅でしたけど。


この伝統は今も続いているみたいで、今は部員全員で7日間行くようです。


ウチの落研は出囃子も自前で、CDは使いません。噺家と一緒で、落語をやる人が太鼓を持っていき、後は三味線班というお囃子を専門に活動する人と分かれます。


ところがこの時、三味線班が一人も居らず、お囃子をする人が居なくなった。同期の女性部員がやってくれることになったんですが、その子は落語もするので、その子が上がる時の出囃子が必要になる。


そこで僕も三味線を少しだけやりました。というより一曲だけ弾けるようにした。大好きな小三治師匠の「二上がりかっこ」一曲だけですが、その時だけ頑張って弾けるようにしました。


懐かしい思い出です。今はもう弾けません。


毎日毎日違う土地に行って、夜はドンチャン騒ぎで昼は落語やって、なかなかこの7日間は濃いんです。一回行くと、もう巡業は良いやっていうくらい疲れるんですけど、夏になると何故かまた行きたくなる。それが夏巡業です。



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