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一之輔兄さん

ちょっと日が経ちましたが、一之輔兄さんが笑点メンバーに加わりました。すでにスーパー忙しい兄さんが、さらに忙しくなって、本当にすごいんですけど、兄さんは僕が物心ついた頃(落語家になって2、3年)からずっと凄いです。

兄さんは2012年に真打に昇進されましたが、私が入門したのが2007年。兄さんが二ツ目で過ごす最後の5年間を見ていますが、とにかく凄かったです。

答えに辿り着くのが早い

僕が前座の頃、「春とはやしの会」というのがあって、春風亭と林家の若手で会をやっていました。毎回テーマを決めてやっていましたが、ある時全員がネタおろしという企画がありました。

その時に一之輔兄さんがネタおろししたのが「ふぐ鍋」だったと思うんですが、その時の高座が凄かった。もう何十回もやっているかのように喋るんです。

その様子に腰を抜かしたのを覚えています。僕なんかだと、何回もやって少しずつその噺をものにしていく(ものならないものもいっぱい)んですが、兄さんの場合は1回目でほとんどその噺の本質をわかっていて、数回やればほぼ完成させるんです。

落語を動かす

完成させられるのと同時に、自由に噺を動かせるのも兄さんの特徴で、同じ噺でも毎回全然違う仕上がりになっていたりします。

言葉が変わるとかっていうのもですが、やっぱり感じるのは喜怒哀楽を変えているところです。普通なら怒ってツッコミを入れるセリフを、受け入れて笑ったりしたり、喋る人々の喜怒哀楽が変わっていくのが面白いです。

落語を動かすことに長けているのが兄さんです。

初天神の思い出

NHK新人落語大賞を「初天神」で優勝したんですが、そのちょっと前に浅草にあった小さな小屋で一緒になったことがありました。

「座って喋り出したらストップウォッチで測って」

落語大賞は11分が制限時間で、時間を測るってことはこれで出るんだろうなあと思いながら聴いたわけですが、その「初天神」には驚きました。今となっては兄さんの代名詞のようなネタですが、聴いた時の衝撃は言わずもがなです。落語をこんな側面から描くんだと感動しました。今まで聴いてきた親子の会話のそのどれとも違う、ポップで現代的で、とにかく新しい「初天神」が出来たのを目の当たりに瞬間でした。

客を飲む

小三治師匠は一之輔兄さんの高座を「客を飲み込んでいる」と表現していました。客を飲む。なかなか興味深い表現ですね。懐に入って笑わせるということなのか、小三治師匠独特の表現でしたね。ここまで出来るのは稽古の裏付けがないと出来ないとも仰ってました。

とにかく凄い一之輔兄さんのおはなしでした。

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