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彼女・煙草

恋人と某所に旅行。観光したり美味しいものを食べた。私は基本的に相手任せで後をついていく。旅行のプランを考えてくれた以上そのプランに対して文句は言わない。文句は言わないまでも不満が顔に多少出てしまうことはある。そんな様子を察知しては意見を聞こうとしてくれる恋人が好きだ。

夕食を食べた後、今夜の滞在先のホテルに向かった。駅近くのホテルなので歩いて向かう。道中にコンビニに寄り、晩酌用の350mlの缶ビールを2本買った。私たちは共にお酒が弱い。そのため居酒屋に行っても最初の1、2杯の後はノンアルコールビールを選ぶ。ビールの味は好きなのだ。そんな好みも一致する。

ホテルに到着してフロントでチェックインの手続きをする。ネットで簡単にホテルの予約を当日に行えてしまう便利な時代ではあるが、しっかりと計画を決めておきたい性分の恋人は数日前に予約を済ませていた。恋人が予約をしてくれたのは喫煙のツインベットルーム。私たちは二人とも喫煙者なのである。私は恋人の影響で吸い始めた。恋人が吸い始めたのはバイト先の影響だった。バイト先の居酒屋の店長が客が置き忘れていったタバコを処分するがてら自分で吸っており、それを与えられるようになったのだという。そうやってもらったタバコを日頃から吸っていたので恋人は自分ではタバコを買わない。そのため値上がりをしたタバコの料金を把握していなかったりする。

部屋に着くなりタバコを喫んだ。煙が揺らぎ、私の好きなタバコの香りが部屋に漂う。そんな香りを纏う人間は“仕事人”の雰囲気を醸す。恋人はその雰囲気がよく似合う。

タバコが体に悪いということは重々承知である。そしてそれは自分だけでなく周囲の人間にとってもである、ということももちろん知っている。ただ、私にとってタバコは生活の中で”句読点“の役割を果たすものとして組み込まれている習慣の一つなのだ。何かの作業をしている時の小休憩としての”読点“、そしてその作業を終えた時の”句点“が行為として現れたものなのである。

タバコを一生吸い続ける、ということは想像できないが、どのタイミングで止めることになるのか、ということも想像が難しい。ただ、後者については私の中であり得そうなきっかけがひとつ考えられる。それは、恋人にやめてほしい、と言われた時である。


晩酌の最中、そのことについて恋人に話してみた。

「僕がタバコを止めるのは君にやめてって言われた時だよ。」

すると恋人が答えた。

「私だってそうだよ。」

私が恋人にタバコをやめて欲しいと思うのは、私がタバコをやめようと思った時だ。そこで、

「それじゃあ止める時はお互いせーので止める時だということだね。」

というと、

「それってどんな時かなぁ。」

と答える恋人。少し考えて

「たとえば子供ができた時とか?」

と答えた。


※この話はフィクションです

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