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カルマメイトと後輩

この間カルマメイトを知ってから、影響が私の周囲にまで及んでいる。
また、こんなことがあったので、筆を取る。
(詳しくご覧になりたい方は「3人の男」→「カルマメイト」→本投稿の順で読んでいただけると、分かりやすいと思う)



出張の合間に時間があったので、私は珍しく後輩を呼びつけて、昼飯を食べようと誘った。
カルマメイトの話が面白かったので、不思議な話が好きな後輩に、聞かせてやりたくなった。
後輩も田舎者だ。
我々田舎者というのは大抵、不思議な話やご先祖様を、どことなく信じている。
大抵、信心深い一族の年寄りから聞いて育つためである。


「私の行きつけに行こうか」と言うと、後輩は喜んでついてきた。
私は一人が好きなので、めったに他人を食事に誘わないのだ。
それだけでも、後輩は嬉しかったのだろう。
私たちは、とても小さな、セレクト雑貨も売っているカフェに入った。
後輩は「かわいいカフェですね!」と、素直に喜んだ。
カフェでは丁寧に作られた家庭的なランチや、季節替わりのデザートが食べられる。
私が狙っていた日替わりランチをご飯少な目で注文すると、後輩もそれに乗っかった。
私は、食事の先に来たコーヒーをすすりながら、口火を切った。


「いやさ、カルマメイトって知ってる?すごいんだよ。最近知ってさ。実はこんなことがあったんだよ…」

午後の研修会も控えていたので、D君の話、続けて同じ職場の人の話を手短にした。
後輩は時折「へーっ!」と、目を真ん丸にして驚きながら聞いていたが、合間に眉を潜めて神妙な顔をしていた。

「…うーん!」

私の話がひととおり終わると、後輩は、斜め上を向いて首をかしげていた。

「今、先輩のその話を聞いて、一人思い浮かぶ方がいますね!」
「そうなの?カルマメイト?あなたが?」
「うーん、そうなのかな?自信ないっすけど…」

この後輩は、離婚や親との死別など、立て続けに不幸が続いた過去があった。
なので、私も心配していたのだ。
しかし、その時期以前から腐れ縁のようにしている人と、実は縁が切れずにいると話してくれた。
それを聞いて、今度は私が目を真ん丸にさせていたと思う。
縁は切れないが、うまくいくこともないのだという。
うまくいきそうになると、またダメになるのだ。
しかもいつも、疲れている時に限って、その人のことを思い出すらしい。
きっとこんなのは不毛な関係だと、賢い後輩は何となく気づいていて、こちらから連絡をすることはしないのだという。


極めつけは、二人の関係がピークの時期に、お相手が乗っていた車のナンバーと全く同じナンバーの車を、よく見かけるのだという。
「今日も見ました」
さらり、と言葉が彼女の口からこぼれた。
私もそうだが、同じ時間帯で同じ車種なら、同一車だとわかる。それが自分の思い過ごしだと。
しかし、時間帯もバラバラで車種も違うのに、同じナンバーを見かけるのである。

「へえ…いや、あなたなら『先輩、面白いっすねー!』って聞いてくれるかと思ってたんだけど、まさかあなたの身に降りかかっているとは…」

彼女は途中まで訝しんでいたが、車のナンバーの話をすると、ピンときたらしい。
まさか、それが「別れの縁」カルマの縁であることがわからなかったのだ。
もしかしたら、二人にとって(彼女にとって)思い入れのある数字をよく見るということは、この人と良い意味で将来の見込みがあるのかな?と思ってしまう。それが自然だろう。
そのせいで、先に進みたいのにきっぱりと進めず、縁を切ることができず、もやもやと悩んでいたらしい。
カルマメイトのその点については、大変な勘違いを起こさせ、人の心をものすごく惑わせる部分だと思う。
カルマメイトは、そうやって自分に執着させ、離れられなくさせ、前に進めなくさせる。
カルマメイトとの肉体の相性の良さや、外見の魅力を感じるというのも、その理由からあるのだ。

「D君は、私に『貴女が占い師なら、僕の病気がどうやったら治るかとか、いつ結婚相手と出会ったりできるか、教えてくださいよ。何でそんな自信なさそうなんですか?』って言ってきたよ。そんなこと、占いで分かる訳ないよな!だって自分でどうにかするんだろ、病気だって彼女だってさ。何で全部人頼みなんだよ、受け身すぎるわ…」
「えっ、先輩にそんなこと言ってきたんですか?」
「そうだよ、なめてるよ。こっちは視聴者だと思って反論できなかったよ。彼はそうやって、視聴者を見下してるんだよ。馬鹿にしてるんだ、最初っから」
「でも、私も言われました。それ」
「えっ?その人に?あなたにそうやって言ったの?」
「うんと、飲み会で。俺はそうでいたいんだよなーって」
「あなたを自分の掌で転がしたいっていうか、思い通りにしたいってこと?」
「そうっすね」
「でも、それは愛じゃないよ…」



席を立つ頃には、後輩は晴れ晴れとしていた。
「先輩、今日は私が出します」
「いいよ!だめだよ、払うよ」
「いいんです、良いお話を聞かせてもらえてよかったです。それと、今度また占ってもらえませんか?」
「そうだね、そうしよう。その人のこと、まだはっきり整理がつかないなら、占いでも出るはずだよ、相性が」
「お願いします!かわいいお店ですね。絶対また来よう!」


私は今年度末で退職することになるが、後輩にこの話ができて良かったな、と思った。
きっと、彼女は忘れないだろう。
そして、今後も生きていく上の参考にしてくれるだろう。
彼女にも、目に見えない贈り物ができたなぁ、と思った。


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