資金繰り_

資金繰りに困らない経営(なぜ資金不足が発生するのか)

(1)経営者に問題があるケース

ほとんどの経営者にとって、1番の関心は、売上の増加です。

確かに、金融機関や世間一般の常識では、会社の規模や成長性を語る尺度が、売上高によって判断されることを考えると、

経営者が最大の関心をもつのも当然のことといえます。

しかしながら、会社経営にとって売上の増加と同じか、それ以上に関心をもたなければならないのが資金繰りです。

なぜなら、売上が増加するほど仕入れや人件費等の経費も増加し、その分、資金は不足していきます。

つまり、より多くの運転資金が必要になるわけですが、資金繰りについての綿密な計画性を持たずに、漠然と売上の増加だけを考えているとしたら非常に危険です。

前章で、「勘定合って銭足らず」いわゆる黒字倒産の説明をしましたが、会社にとって倒産しないために最も重要なのは資金繰り(キャッシュフロー管理)です。

けれども、売上高の成長と違って対外的な評価もされない資金繰りについては、もともと経理の基礎知識に疎いという理由も加わって、非常に関心が低く、経営危機になってから慌てるケースが後を絶ちません。

だからこそ、この点を経営者が十分に理解していないと資金不足が発生するリスクは大きくなります。

(2)業績不振に問題があるケース

商品が売れなくなると、業績不振に陥り、必要以上に値引きやサービスを提供することで売上の回復をはかろうとします。

その結果、売上高の減少と値引きによる利益率の低下が、キャッシュインを急速に減らし、サービスの提供が新たなキャッシュアウトの要因となることから、資金不足の危機となります。

また、販売不振を挽回するために、営業活動を強化することで、人件費等の経費も増加していきます。

さらに、最悪なのは不良在庫を大量に抱えてしまうことです。

在庫を必要以上に抱えてしまうことは、商品の現金化を遅らせることになりますから、資金繰りを悪化させ、最終的には、資金不足へと進んでいきます。

ましてや、それが不良在庫だとしたら容易には販売できませんから、大幅な値下げをしたり、廃棄処分にすることもありえます。

その結果、キャッシュインは減りますから、資金繰りを益々悪化させ、一気に資金不足へと進んでしまいます。

このような、悪いスパイラルに陥ってしまうと坂道を転げ落ちていくように、業績不振による資金不足が発生し、最悪の場合には倒産の危機に直面することにもなりかねません。

(3)売上債権に問題があるケース

売上を計上しても、現金商売でない限り、代金回収には時間がかかります。

通常は、掛け売りや手形による信用取引によってビジネス活動を行っています。

この、掛け売りを「売掛金」と呼び、1ヶ月~3ヶ月後の約束した期日に代金を回収することになります。

また、手形は当座預金を開設している事業者間の信用取引で、3ヶ月~6ヵ月後の振り出された手形の期日に指定の金融機関で現金化できるものです。

これらの信用取引に基づく「売掛金」と「手形」を売上債権と呼びます。

売上債権が現金化できる時間軸のことを「サイト」と呼んでいます。

例えば、2020年1月10日に取引した売掛金の支払条件が月末〆の「2ヶ月サイト」月末払いの場合なら、2020年3月末日が入金予定日となります。

手形に関しては、必ずしも約束の期日まで待つ必要性はなく、金融機関での割引による現金化や裏書譲渡による流用(手形が不渡になった場合は手形の買戻しや裏書人への代金請求等があります)ができるのですが、売掛金は原則として期日まで黙って待つしかありません。

ここが、重要なポイントになりますが、サイトが長期間の売掛金を多数抱えていると資金不足が発生するリスクが高くなります。

なぜなら、入金されるまでのタイムラグに耐えられるだけの手元資金が必要になるからです。

このような、売上債権の効率性をチェックする指標として「売上債権回転率」があります。

売上債権回転率とは、売上の規模と売上債権との関係を示す指標です。

売上債権とは、受取手形(割引手形を含む)と売掛金のことであり、この合計額で売上高を割った比率です。

これは、売上債権が一定の期間内に何度「回転」するか、すなわち売上債権が平均して何度支払われるかを表します。

【売上債権回転率】

売上債権回転率=売上高÷平均売上債権

平均売上債権=(期首売上債権+期末売上債権)÷2

(例)

■売上高1億円

■期首売上債権2,000万円

■期末売上債権3,000万円

□平均売上債権=2,000万円+3,000万円÷2=2,500万円

□売上債権回転率=1億円÷2,500万円=4(回転)

売上債権回転率が4回転ということは、1年に4回の支払い予定となり、債権発生から現金化までの時間は約3ヵ月必要になります。

売上債権回転率をチェックすることで売上債権が現金化するスピードを把握することができます。

この回転率が少ないほど、現金化するスピードが遅いことになりますから、それだけ資金不足になるリスクが高いことをあらわします。

(4)資金調達に問題があるケース

また、会社の代表取締役(社長・会長)やその他の取締役、株主からの借入等による資金調達も検討します。

この場合、問題なのは金融機関からの借入による資金調達のケースです。

資金調達に関して、資料に基づき論理的に説明することで、融資担当者の理解を得る必要があるのに、要領を得ない、的外れな説明を口頭でしているだけで、結局、審査が却下されてしまったということが現実にあります。

金融機関からの資金調達に失敗すれば最悪の場合、倒産することもあります。

こういったミスを防止するためには、融資担当者との信頼関係の構築と同時にエビデンスとしてのしっかりとした資料の作成も必要です。

そして、このような場面で、合理的な説明をサポートしてくれる有力なエビデンスとなるのが次章で説明する資金繰り表です。

資金繰り表のメリットは、融資担当者が最も知りたい情報である資金の流れを「現在・過去・未来」と明快に説明してくれる資料だということです。

これに対し、資金調達に問題がある会社では、資金繰り表の作成すらしていないケースがほとんどです。

(5)予算管理に問題があるケース

そこで、重要なのが毎月の出金(キャッシュアウト)のベースとなる販売管理費をきちんと予算を組んでおき、進捗管理をしていくことです。

さらに、固定費と変動費に区分することで、仕入原価と、その他の経費の支出状況を把握することも可能となり、より精度の高い予算管理が実現できます。

ところが、予算管理という考え方をもたずに、自然の成り行きに任せた、いわゆる「どんぶり勘定経営」が中小企業では多く見受けられます。

売上規模が小さく、予算執行も少額の家族経営レベルであれば問題ありませんが、従業員をそれなりに抱えた企業ならば、管理会計の考え方は絶対に必要です。

毎月の販売管理費を予算化して管理していけば、どの予算が計画と乖離しているのかが分析できます。

これにより、損益管理面でもより精緻な計画を作ることが可能となります。

そして、何より、資金繰りにおいて、より正確なキャッシュアウトの見積もりができるようになります。

さらに、販売管理費を予算管理する目的で最も重要なのは、売上高の増加に貢献しているコストパフォーマンスの高い費用の検証をすることです。

これに対し、資金不足が発生する会社では、どの販売管理費が売上高の増加に貢献しているかをまったく把握しておらず、コストパフォーマンスの高い費用の検証もしていません。

それどころか「どんぶり勘定経営」が、まかり通ってしまうために、そもそもの販売管理費の予算化と進捗管理をしていないケースがほとんどです。


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