資金繰り

資金繰りに困らない経営(事業再生:金融機関等との交渉)

(1)銀行借入金のリスケジュール交渉

経営不振の理由により、銀行からの借入金を当初の計画どおりに返済することが困難になった場合は、リスケジュール(通称リスケ)交渉をすることになります。

リスケジュール(以下リスケと呼びます)とは毎月の返済額を減らすために「貸出条件変更」又は「返済条件変更」を債権者である銀行に要請するもので、概ね以下の内容を協議することになります。

①向こう1年間の返済額の見直し

(例)

【リスケ前】

借入残金2,400万円

毎月100万円の返済を24回

【リスケ後】

■リスケ案A

向こう1年間、毎月100万円の返済額を50万円に減額

2年目目からは毎月150万円の返済額にアップ

又は

■リスケ案B

向こう1年間、毎月100万円の返済額を50万円に減額

2年目からは毎月100万円の返済額に戻し、最終回

24回目に減額した返済額分600万円を上乗せする

現実的には、リスケ案Aの場合、2年目から業績が急回復しないと実現性は低いと思われます。

しかしながら、リスケ案Bの場合でも、減額した分をどこかで取り返さない限り最終回の返済負担が重くなります。

ですから、結果的には1年ごとの契約更新になり、毎年、会社の業績を見ながら銀行と協議をして、返済額を決定していくことになるわけです。

②返済猶予

毎月の借入返済の元金分をゼロにし、利払い(借入利息)のみにすることを返済猶予と言います。

一定期間(6ヵ月~1年)の元金返済を棚上げにすることになります。

また、猶予後の返済が困難になった場合は、交渉により、猶予期間の延長(更新)が可能です。

『リスケ交渉のポイント』

債権者である銀行とのリスケ交渉におけるポイントは次のとおりです。

①タイミングを考慮する

リスケ交渉には通常1ヵ月~3ヵ月の時間を要します。

そのため、3ヵ月分の返済を続けられる手元資金があるうちに交渉をスタートしなければいけません。

また、交渉をスタートするためには、資料等の準備もしておかなければいけません。

②いくらなら返済可能かを明確にする

資金繰り表や月次損益計算書等のエビデンスに基づき、毎月いくらなら返済可能なのかを明確にします。

③どの銀行から交渉に行くかを決める

複数の銀行からの借入がある場合には、融資金額が最も大きい銀行(メインバンク)から交渉に行きます。

④すべての金融機関にリスケ交渉する

リスケ交渉は借入をしているすべての金融機関に対して行います。

金融機関からは、同じ条件での減額を求められます。

⑤強い意志で交渉する

複数の金融機関との交渉において、最も重要なポイントは強い意志をもつことです。

金融機関からは、それぞれの事情や方針により、様々な返答がありますが、強い意志をもって粘り強く説得しなければなりません。

(2)債権回収会社(サービサー)への債権譲渡とは

法的な倒産処理をしない状態で金融機関からの借入金返済を長期間延滞していると、不良債権処理として債権回収会社(サービサー)への債権譲渡が実施される場合があります。

これは、債権を売却したために、債権者が金融機関から債権回収会社(サービサー)へ変更することを意味します。

具体的には、金融機関から「債権譲渡通知」と呼ばれる書類が内容証明郵便で到着し、債権者が変更した旨を知らせます。

その結果、以後の返済等に関する協議は、債権回収会社(サービサー)との間で行うことになります。

そして、金融機関が債権譲渡先である債権回収会社(サービサー)を決定する方法は一般的に競争入札を使います。

つまり、最も高い入札価額を出した債権回収会社(サービサー)が落札することになります。

ここで債権回収会社(サービサー)について少し説明しておきましょう。

債権回収会社とは、日本において、弁護士法の特例として特定金銭債権の管理や回収を業として行うことができる株式会社のことで、通称サービサーと呼ばれています。

債権管理回収業に関する特別措置法の規制を受け、同法の許可が必要であり法務省が所管しています。

本来、日本において債権回収を代行する業務は弁護士以外に認められていませんでした。

しかしながら、いわゆるバブル経済の崩壊に伴う不良債権問題の解決をはかる目的から債権回収会社(サービサー)に弁護士法の特例を認めることになりました。

債権管理回収業に関する特別措置法の規制では、許可要件を詳細に定めていますが、その中で特に重要なポイントは次のとおりです。

①資本金の額が5億円以上の株式会社

②常勤取締役の中に必ず弁護士がいること

③暴力団関係者が関与していないこと

このような厳しい許可要件を満たした会社だけが債権管理回収を業としておこなうことができます。

また、債権回収会社は商号の中に「債権回収」という文字を入れなければなりません。

万一、経営不振により、金融機関からの借入金返済を長期間延滞する事態となり、債権回収会社(サービサー)に債権譲渡されたとしても必要以上に恐れることはありません。

ここまで説明してきたように、債権回収会社(サービサー)は、弁護士法の特例として認められている特別な会社であり法務省の許可を受けています。

そのため、コンプライアンスの遵守に関しては、特に厳しく指導されていますから安心して返済に関する協議に臨むことができます。

さらに、債権回収会社(サービサー)に対する苦情や相談に関しては法務省に窓口があります。

(3)債権回収会社(サービサー)との和解交渉のポイント

債権譲渡の結果、債権者が金融機関から債権回収会社(サービサー)に変更したら、今後の返済に関する協議は、債権回収会社(サービサー)と行います。

そして、具体的な返済に関する条件を詰めていき和解契約締結に向けて協議することを和解交渉と言います。

和解交渉では、以下の条件を協議していきます。

①和解金額(債権総額)

②返済条件

③利息について

④担保・保証人について

⑤その他

債権回収会社(サービサー)との和解交渉において特に留意しておきたい内容は次のとおりです。

イ)仕入価額を想定した和解金額の値下げ交渉

不良債権処理の目的で金融機関は債権を譲渡するわけですから、本来の債権額に比べて、かなり安い価額で債権回収会社(サービサー)に売却していることが予想されます。よって、可能な限り和解金額の値下げ交渉をします。

ロ)返済条件による和解金額の値下げ交渉

債権回収会社(サービサー)ではチームや個人毎に回収目標を設定していることが予想されます。

そのため、まとまった金額を回収できるなら、大幅な値下げ要求にも応じることが期待できます。

よって、一括返済や短期分割返済を条件とした大幅な和解金額の値下げ交渉をします。

債権回収会社(サービサー)との和解交渉のポイントはずばり、和解金額の値下げです。

その結果、例えば次のような債務整理が考えられます。

(例)

金融機関(銀行)から無担保で借入した1,000万円の債権が債権回収会社(サービサー)に譲渡された。

債権回収会社(サービサー)と和解交渉した結果、以下の条件で和解契約を締結した。

【和解条件】

■和解金額 300万円

■返済条件 50万円×6回の分割返済

■利息は遅延損害金20%

■残債権額700万円は放棄する

約束の返済を終了した結果、残債権額700万円については債権放棄となり、債務免除益700万円が決算に反映されることになった。

このように、和解契約の内容によっては、事業再生に有利な条件での債務整理も可能となります。

リスケ交渉のポイントと同じように、強い意志をもって債権回収会社(サービサー)と交渉することが最も重要です。

また、債権回収会社(サービサー)の担当者との人間関係の構築も重要です。

金融機関の融資担当者と同様に、エビデンスとなる資料を用意して、誠実な対応を心掛けてください。

本音で相談することで、必ず良い結果に結びつきます。

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