資金繰りに困らない経営(資金繰り改善のポイント)
(1)資金繰り表の有効活用
資金繰りを改善するためには、次の4つのアクションが重要です。
【資金繰りを改善する4つのアクション】
①収入(入金)を増加させる
(例)資金調達、売上債権の回収金額を増加させる
②収入(入金)のスピードをあげる
(例)売上債権の入金サイトを短くする
③支出(出金)を減少させる
(例)コストダウン
④支出(出金)のスピードをおとす
(例)仕入債務の支払いサイトを長くする
そして、この4つのアクションをサポートする資料が資金繰り表になります。
つまり、資金繰り表の有効活用とは「資金繰りを改善する4つのアクション」を成功させるために、有力な情報を適宜、正確に提供するということになります。
(2)資金繰り改善の3要素
(資金調達・債権回収・コストダウン)
「資金繰りを改善する4つのアクション」が重要であることは前述しました。
ここでは、4つのアクションの中核となる3つの要素(資金調達・債権回収・コストダウン)について説明します。
①資金調達
資金調達の目的は売上以外の収入(入金)を増加させることで、手元の資金を確保し、資金繰りを改善することです。
主な資金調達方法は次のとおりです。
イ)金融機関からの借入
ロ)役員・株主からの借入
ハ)増資
二)社債
ホ)私募債
金融機関からの借入や役員・株主からの借入は増資・社債・私募債に比べれば実現性が高い資金調達方法になります。
しかしながら、中小企業では、相当の金額を経営者からの借入に頼っているケースがほとんどで、中には、経営者の親族からの借入もしているケースが多々あります。
このうえ、さらに、役員・株主からの借入をしようとしても、おのずと限度があります。
そのため、最終的には金融機関からの借入に頼ることになりますが、審査の結果次第では、どうなるかわかりません。
つまり、金融機関からの借入による資金調達は、融資の決定権を握られていますから、自社でコントロールできないことになります。
だからこそ、無借金経営にこだわって自己資金だけでキャッシュフローを管理していると不測の事態に対応できない可能性があるわけです。
そういったリスクを回避するためにも、金融機関とは常日頃から良好な関係を保つ目的で、一定の融資を受けておきます。
そして、いざという時に金融面での支援を受けられるように準備しておく必要があります。
具体的には、資金繰り表を金融機関に提出し「現在・過去・未来」の資金の流れを開示しておくことと、コミュニケーションを密に取って、信頼関係を構築する努力をすることです。
②債権回収
信用取引による売上債権(売掛金・手形)を現金化して入金させることを債権回収と言います。
債権回収は、取引先が支払期日を厳守することで自動的に入金されるものと、支払期日を延滞し、督促行為をすることで入金されるものとに分かれます。
債権回収の目的は、売上代金を現金化して入金させることで、利益の確定と収入(入金)の増加を実現し、手元の資金を確保して、資金繰りを改善することです。
本来、取引先が支払期日を厳守することで自動的に入金されるのが正常な商行為であり、理想的な形ですが、現実的な問題として、支払期日を延滞し、督促行為をしなければ入金されないケースも多々あります。
また、最悪の場合には、取引先の倒産等の理由により、回収不能となってしまうこともあります。
そうなると、現金の収入(入金)は1円もありませんから、大変な損失になります。
ここで、債権回収の実務について、具体的な動きを説明します。
債権回収は、与信と呼ばれる審査をすることから始まります。
これは、取引開始時に、相手先の信用調査を実施し、売掛金や手形の限度額(与信限度額)を決定することです。
さらに、与信限度額は、途上与信と呼ばれる定期的な見直しをすることが重要です。
なぜなら、取引先の経営状態は常に変化しており、急激な業績不振に陥ってしまうことで最悪の場合には、倒産してしまうリスクが想定されるからです。
このように、まずは、与信管理を確実に実施していきながら、支払期日の延滞に備えます。
そして、支払期日の延滞が発生したら次の手順で迅速に対応していきます。
イ)請求書の発送ミスがないかの確認をする
売掛債権の請求書を間違いなく発送しているか否かの確認をします。
単純なヒューマンエラーの理由で、請求書が未発送であったために、代金の入金がされないケースもあります。
ロ)取引先に電話連絡をする
請求書の発送に関する確認を実施後、取引先に電話連絡をします。
ほとんどの会社では、電話連絡をせず、初めに督促通知を発送して様子を見る傾向がありますが、以下の理由から初めに電話連絡をします。
・電話が止められていないことの確認ができる。
・すぐに電話連絡することで、入金期日に厳しい債権者であることを認識させ、支払いの優先順位を向上させることができる。
・相手方と直接話しをすることで、単純なミスの発見や不穏な空気を察知することが可能となり、より迅速な対応策が打てる。
・督促通知を発送しても、相手方が開封すらしていない可能性もある。
また、すぐに電話連絡することに抵抗がある場合は、いきなり督促をするというスタンスではなく「今回、どうかされましたか?」という確認で連絡した旨を説明すると良いでしょう。
ハ)訪問回収
電話連絡をしても支払いが無い場合は、相手方の会社か自宅への訪問による回収行動になります。
この時のポイントは、最初に、延滞発生に至った経緯の説明を証拠書類に基づき求めることです。
次に、次回入金約束の根拠の説明を求め、最後に、その根拠を裏付けるものとして、経営者の個人保証や連帯保証人の用意(人的担保)を求め、約束不履行時には、交換条件として遅延損害金を求めることになります。
ニ)倒産時の対応
取引先が会社更生法や民事再生法、破産等の法的倒産となった場合は、任意回収は断念し、弁護士等と十分に協議して対応していきます。
③コストダウン
コストダウンをすることで支出(出金)を減らすことができますが、トレードオフとして、売上高を減少させてしまう可能性もあります。
例えば、宣伝広告費を削減することで支出(出金)は確実に減りますが、その分だけ売上高も減少することが予想されます。
さらに、その減少が予想以上に大きなものなら、収入減に与える影響は甚大なものとなり、急激に資金繰りを悪化させてしまう可能性もあります。
よって、コストダウンする対象を十分に検討し、売上高への影響を最小限に抑える努力が欠かせません。
1つの方法として、法人カードを導入することで、経理事務を大幅に軽減し、間接部門をコストダウンさせることができます。
これは、会社の経費を一元管理して、カード決済に移行することで、従来の煩雑な経理事務を簡単にすることができるからです。
そのため、経理担当社員を直接部門に配置転換することが可能となり、間接部門のコストダウンがはかれます。
結果として、直接部門が増員となりますから、売上高の増加も期待できます。
また、意外に実施されていないものに、相見積(アイミツ)があります。
同じ商品やサービスであれば、少しでも安いものがコストダウンに好影響を及ぼします。
十分に検討した結果、デメリットとなる要因が見つから場合には積極的な相見積を実施しましょう。
インターネットのサイトでは、無料で数社の一括見積もりをしてくれるビジネスマッチングのサービスを提供する会社もあります。
それから、出張時の旅費交通費も早期割引予約の特典を活用することで大幅なコストダウンがはかれます。
さらに、会社の事務所の家賃や駐車場の賃借料等も値下げ交渉をします。
その他、常に全社員が一丸となってあらゆるコストダウンに関する情報収集や知恵を出すことに尽力することが重要です。
1つ1つのコストダウンが成功すれば、その分だけキャッシュアウト(出金)が減少しますから資金繰りが楽になってきます。
それは、すなわち、資金不足による黒字倒産のリスクを回避すると共に、利益を増加させることにもつながりますから、最終的には報酬という形で社員に還元されることになるでしょう。
(3)卸・小売業の場合
卸売業は、仕入をしなければ売上を作ることができません。
そのため、売上がたつ前に仕入をして、売上代金の回収前に仕入の支払いをしなければなりません。
その結果、必ず運転資金が必要になる代表的な業種と言えます。
また、注文が入るとすぐに出荷しなければならないため、常に在庫が必要になります。
しかも、利益率が低く、薄利多売を意識しなければなりません。
よって、最も重要なポイントは仕入のコントロールを効果効率的に行うことになります。
なぜなら、他の業種よりも「在庫=お金」の意味合いが強く「仕入の管理と在庫の管理」が生命線と言えるからです。
実際、倒産した会社は仕入のコントロールに失敗しているケースがほとんどです。
では、仕入のコントロールを効果効率的に行うためにはどうすればいいでしょうか。
それは次のとおりです。
①仕入担当者の能力を見極める仕組みを作り適材適所の人事をする。
②倉庫を極力小さくし、不要な在庫を抱えないようにする。
また、値引き等の特典をつけた現金取引や売上債権のサイト短縮の交渉も資金繰りを改善するためには有効な施策となります。
小売業は、商品が売れると同時に、通常は顧客から代金を現金(クレジットカード決済は例外)で受け取れるので売上債権の回収サイトがありません。
また、仕入の支払いを現金ではなく、買掛金や手形等の仕入債務にできれば、「回収が早く、支払が遅い」理想的な資金繰りが可能となります。
そのため、基本的には運転資金を金融機関等からの借入に頼る必要はなく、資金需要としては、新規出店に伴う設備投資資金が一般的です。
よって、最も重要なポイントは実現性の高い事業計画に基づく、設備投資のための資金調達と返済計画に関して金融機関と協議して決定することです。
例えば、金融機関からの借入を返済する期間と固定資産の減価償却期間が相違している場合には、一致するように交渉する必要があります。
(4)製造業の場合
製造業は、製品ごとにきちんと管理しなければ正味原価率がわかりにくい業種です。
そのため、どの製品が本当に儲かっているのかが、わかりにくく経営資源を集中すべき製品を見誤る可能性もあります。
よって、最も重要なポイントは「変動費」と「固定費」の区分を見直し、正味原価率を把握することです。
具体的には、製造原価となる「変動費」と「固定費」の区分に間違いがないかを確認します。
例えば、工場勤務の社員の人件費が毎月変動しているかを確認します。
本社勤務の社員とは異なり、製品受注の増減に合わせて労働時間が変わりますから、人件費が変動するはずです。
また、工場の水道光熱費や賃借料を製造原価に含んでいるかを確認します。
人件費と同じように、製品受注の増減に合わせて変動します。
さらに、製造業は機械故障に伴うラインの停止リスクを想定した定期的なメンテナンスが欠かせません。
そのための修繕費をあらかじめ支出(出金)予定とした資金繰りを計画しておきます。
(5)建築業の場合
建築業は、工事受注時に仕入や外注費を支払い、数週間~数ヵ月後に工事代金が入金されます。
最近では、工事の進捗に応じて1ヵ月ごとに入金される「進捗基準」が増えていますが、公共工事では「完成基準」がとられており、かなりの期間、未入金での仕事をすることになります。
支払いサイトと回収サイトのタイムラグが大きく、また金額も大きいため、最も資金繰りが苦しく管理を要する業種と言えます。
資金繰りが苦しいのは、サイトのタイムラグに加えて、予定していた売上の入金や原価が変動するためです。
例えば、工期が3ヵ月~6ヵ月という長期工事の場合、作業日数の増加や材料の不足、追加の注文等、予定外のことが発生します。
追加で発生したコストは元請けに請求できますが、実際には、自社から持ち出しになり、採算が悪化することになります。
さらに、人手不足による人件費の高騰が追い打ちをかけるように重くのしかかってきます。
それだけではなく、人手不足が工事の進捗にも大きく影響し、予定よりも工期を伸ばしてしまうこともあります。
そのため、金融機関の建築業への融資姿勢は、短期融資で行うのが基本で、長期の融資には消極的です。
よって、最も重要なポイントは代金回収を「進捗基準」で交渉することと、工期の長い案件には手を出さないことです。
また、長期借入は基本的に困難な業種であることを認識して、資金繰り計画を立てる必要があります。
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