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短編:湖底に小屋を建てる。

日々を営む。
美しいようでいて、斜陽はただ残酷に時間の経過だけを告げる。或いは、人はそれを指して「美しい」と呼ぶようだった。

日々を営む。
偏在する「自由」を数える。パズルのように見えた。規律/訓練あるいは炉心/その遺体。キューブのように見えた。人はその営みに加担した。

日々を営む。
パイン材の壁に大きな穴をあける。浅ましい思惑が透けて見えた。それは窓と言うには大きく、戸というには小さい。人は神と呼ぶには小さく、獣と呼ぶにも足らない。

日々を営む。
文章を組み立てるのが上手だった。今朝のパンは昨日より塩気が強い。安楽椅子に腰掛けて、鉢植との対話を試みる。簡単な嘘を教えてみることにした。「地球はね、丸いんだよ。」

日々を営む。
気まぐれに友人の曲をかけてみる。空から水が滴るようだった。無くす理由の要る事象。僕はそれを集め、飲んだ。寝呆けたエンゼルの味がした。

日々を営む。
形式的な挨拶を試みる。西向きの窓から日が差していて、僕たちの時間が始まるのだと思った。カンテラの灯りを頼りに、文明を文字に起こしてみた。辞書に無い言葉が必要になった。

日々を営む。
病棟の一角に花を植える。思い切って髪を伸ばしてみることにした。ジャスミンの香りで患者がひとり目覚めたようだった。ラプラスの悪魔に訪ねる。「それは、美しいこと?」

返答はなかった。

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