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短編:方舟に乗り込んだ何者かが偶々、聴者であっただけのことであってだね──

「まさかこの腐った屍肉が、我々の信仰する"天使様"とでも?」
「いかにも。ええ、ええ、いかにもそうですとも。明らかだ。」
「い、いや、しかし……そんな。これでは、あまりにも……まるでこれは──」
「ダスク。ええ、夕景そのものですとも。」

キン・シュ・ボ・ジジ……(吐煙)

「お言葉を返すようですがね。こちらとしても奥様のされたような反応は、とうに見飽きとるのですわ。毎晩毎晩、"謁見"の度にこれですからな。」
「し、知らない!私はこんな……こんな、肉塊のことなど……!」
「そりゃあそうでしょうとも、ええ。コイツは教会の機密事項だ。最高機密と言うほど大したもんじゃないのも、また事実ですがね。」
「巫山戯ないで!私は帰らせていただきますわ。寄付の方も打ち切らせていただきます。当然、覚悟の上で私をお呼びになったのですわね!」

ジ……(吐煙)

「お待ちなさいよ、ええと……ミズ……ミセス・マクガホン?いいですかい。俺は毎晩毎晩、この肉塊……もとい、天使サマをお偉方にご案内しとるわけでございますよ。」
「そちらの事情ですわ。私に言えるのは、"絶え間なく侵食されるあなたの生命"がここに無いということですわ。永遠の象徴たる、"それ"が。」
「はぁ。これだから旧態依然の馬鹿は苦手だよ。王様狩り以外の何かにも少しは触れたらどうですかね。俺ですらカフカを読みますよ。」
「……何が言いたいんですの?」

ジュ……(消煙)

「……俺がこの仕事に就いてから、6年と26日ですがね。この"天使様"とやらはずっと──少なくとも俺が見てる間は──ここに横たわっとります。今と寸分違わなない、美しい御姿のまま、ね。」

***

「ミセス。もうお帰りで?送りましょう。」
「あら、あなたもでしたか。ええ、よろしくお願いしますわ。」
「最近じゃ、この辺も物騒だ。次からはひとりでの礼拝はやめたほうがいいでしょうね。噂じゃ墓徒が出るって話だ。」
「まあ、恐ろしいこと。でもいったい、何が恐ろしいんでしょう。」
「明らかだ。」

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