短編:これから訪れる未来は、きっと、鉄塔。
「沈黙の周波数を数え待とう。心配はいらない。きっと崩壊するソリッドステートでまた出逢えるから。」
顔の無い痩身の男性。規則正しく、ひどく退屈な安眠と、ソの永遠を願っている。いつだったか川底から拾い上げた懐中時計が、残された時を均等に食い潰していく。午後5時2分58秒、午後5時2分59秒、午後5時2分60秒、61秒、62秒──。腐蝕しきった左腕、白く濁った右眼、貴方のため宝石になった脾臓・膵臓。
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「ほら、ママ、早く早く!わたしが犯した罪の数だけ、ケーキにろうそくを立てて!」
──ライムミント・アイスクリームとアレキサンドライトの盲目的次善二重螺旋構造。もしくはスキゾイドが時折掻き立てる、狂おしいほどの祭神衝動そのもの。妄想と無垢の輻輳、破壊とシュール・レアリスム、記号化された微かな胸の膨らみのサステナブル・シンフォニイ、オピオイドとモルヒネ、拘束衣、不埒そのもの=「カサンドラのイコン」
(1972年12月5日 クラスノヤルスク郊外、[-削除済-]癲狂院 Наталья Алексеевна)
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「世界が滅ぶから、猫を飼うの。餌はほら、私の死骸なんかを食べればいいんじゃないかな。モッタイナイしね。」
誰かに伝える為、何よりも手厚く持て囃され、富む・トワイライト。死後母胎に転じた、名も無き魂魄、逆転時計。ああッ、クソ、畜生、来 や が っ た──
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輻覆
緑の閃光、帰化するキリストの群(絶狂するニヒリストに見えた)、致命的な個人に拠って凍結されたセピアの温床、サピア=ウォーフ・しなない。
「しなない?しなない? ねぇ、ほんとう?それは、それこそが、"ほんとう"」
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「私だって、食べたくて食べるわけじゃないのに!」
有形無貌のプレグナント。有形無貌のプレグナント。有形無貌のプレグナント。有形無貌のプレグナント。有形無貌のプレグナント。有形無貌のプレグナント。有形無貌のプレグナント。有形無貌のプレグナント。(有名/無実)実存のフラグメント。有形無貌のプレグナント。有形無貌のプレグナント。有形無貌のプレグナント。有形無貌のプレグナント。有形無貌のプレグナント。有形無貌のプレグナント。有形無貌のプレグナント。有形無貌のプレグナント。
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「ゆりかごの向こう側で、また落ち合いませんか?許されるのならば、その遺志で、また──」
帰り道、男はゴミ集積嬢に声をかけられた。職場で「温厚」そのものであると評される男であるが、この時ばかりは沸々と湧いて出てくる怒りが言葉に滲むことを止められずにいた。彼女らは巧みに(時には性的な快楽をも駆使して)男性を拐かしては、家庭用アンドロイドを安価に買い叩き、その上でメーカーからも歩合制の褒賞を得ている。ニーナ、嗚呼愛しきニーナ、絶対に渡してなるものか──(「ミッドナイトオーガスト」)
性春を惜しむ大人の為の短編全7編を収録。奇才・鵠沼鎖線が明滅都市に訊く、ミライノカタチを問う短編集。
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「産まれるッ!ハァ、ハァ、?!、じ、情報…!産まれる……ッ!!!」
「或いはそれに付随する価値が生まれるだけで、それは常にそこにあったの?」
「荒唐無稽のプレグナント?ああ、それってね、あなたのことだよ?」
「富の再生産。沈黙の再生産。感情の再生産。情報の再生産。」
「うるさいなぁ、ちょっと誕生日を裏返した程度じゃないか。そう怒らないでくれよ。」
「捕縛、捕縛、捕縛、捕縛、捕縛、捕縛、捕縛、わたしはとてもくるしかった。」
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