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おとなひきこもりをめぐる一昨年の動き(後編)

練馬事件の二審判決に寄せて

 元農水事務次官が息子を殺した、いわゆる「練馬事件」は、2021年2月2日に控訴棄却の二審判決が出ました(転載者注:カバー写真は一審判決を報じた2019年12月17日の記事)。この事件は「ひきこもり」ではなく「家庭内暴力」をめぐる殺人事件と言うべきです。
 以下、私が報道やルポルタージュの範囲で知っている内容をもとに述べます。

 この手の事件は報道の範囲でこれまでに何件も起きていますが、この事件の場合、父親と母親の本人への接し方は1978年に起きた「開成高校生殺人事件」に、世間の同情を集めたエリートという父親像は1992年に起きた「浦和高校教諭息子殺人事件」(浦和事件)に、それぞれ似ています。

 前者の場合、父親は比較的穏当な接し方をしていたが、母親は「学校の成績が悪いと言ってプラモデルを壊した」(練馬事件)、「家庭内暴力が始まっていた息子に勉強するよう求めた」(開成高校生事件)といった、私に言わせれば「教育的な接し方」をしていた点です。

 後者は、父親が「官僚のトップ」と「エリート高校の教師」という、どちらも息子が畏敬せざるをえない存在だったうえ、人望もあって社会的に高く評価されていた点です。それに加え、犯行前には殺害に関して検索する(練馬事件)、夫婦で殺害方法を話し合う(浦和事件)、など計画性があり、息子を何10回も刺しているうえ「殺すしかなかった」と発言している点まで同じです。

 ただし浦和高校の先生は、元事務次官のように激烈な暴力を受けたわけではありません。物を壊したり暴言を吐いたりしていただけで、決定的な犯行動機は、父親が正論を言い聞かせていたとき「お前の考えが知りたいんだよ」と怒鳴られ「<お前>と言われてこの子は人間としておしまいだと思った」という短絡的なものでした。

 ところがこの裁判では、減刑嘆願署名が7万筆も集まり1審判決では執行猶予が付きました(2審で実刑が確定)が、この点も元事務次官が世間の同情と称賛を集めた練馬事件に共通しています。

 これらの事件については、次号のコラムでもふれる(転載者注:これらの事件を導入にして書いた文章を来月転載する)予定です。

初出:「当方見聞読」欄『練馬事件の二審判決に寄せて』<メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第246号(2021年2月3日)

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※東京都内で偶数月の第1日曜日に開催され、多くの回で100人前後の参加者を集めていた定期イベントが終了したのも、4年前の6月に発生した暴力を振るう息子を父が殺害した、いわゆる「練馬事件」の控訴審判決も、ともにおととしのことでした。私は、後編に転載した2月の記事に続いて、この練馬事件とその前に発生した川崎市登戸のバス停で起きた通り魔事件(登戸事件)について、コラム(掲載文)でそれぞれの事件に関連した論考を執筆しました。来月と再来月に転載します。ほかでは見られない指摘をしていますので、お楽しみにお待ちください。

※このように、不登校・ひきこもり分野での出来事に関連する文章をつどつど執筆掲載しているメールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』。このnoteに転載するのは2年以上経った文章に限っていますので、リアルタイムでお読みになりたい方は、ぜひこちらのサイトから読者登録をお願いいたします。

※上記『ごかいの部屋』の初期の文章から約50本を厳選収録した拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』は、去年2月に5度目の増刷で発行部数が累計1万2千まで伸びています。同著に収録した文章はこちらにはほとんど転載していませんので、ご関心の方は同著を入手してご一読ください。

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