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おまけ話1 小児外科って何をする科なの?

論文の解説は一休み。
今回はおまけ1ということで、小児外科の紹介をしていきます。
小児外科ってとても面白い科なのですが、いかんせん知名度が低い!人も少ない!ということで、僕が実際に広島大学医学部3年生の授業に使用しているスライドを活用して、小児外科の紹介をしていきます。


小児外科の知名度(泣)

小児科を知らない…という人はいないと思います。人間だれしも小児科にかかったことがあります。病気にならない人でも、予防接種はしますからね。しかし、小児外科…と言われると、一般の方の認識はこんなものです。普通は「多くの子供が手術を必要としている」という認識はないのです。でも実際には、多くの小児外科医が日々子ども達を手術しており、広島大学病院でも年間300を超える小児の手術を行っています。


小児外科の特徴

小児の手術…と言われると、例えば、みなさんの同級生も子どもの頃に急性虫垂炎(盲腸)になって、しばらく休んで手術を受けてきた…なんてこともあるかもしれません。
でも実は、生まれてすぐ手術をしないといけない赤ちゃんも多くいます。消化管が閉じて生まれてきたり(食道閉鎖、十二指腸閉鎖、小腸閉鎖など)、肛門がなかったり(直腸肛門奇形)。そんな赤ちゃんの手術を筆頭にした子供にしか起こらない病気の手術というのは本当に特殊ですから、一般の成人の外科医に「病態を理解して小さな子供の臓器を扱え」というのは無理です。専門の、小児に特化した外科医が必要なのです。ということで、小児外科という科が必要になってきます。
あ、ここで言っておきたいのは、「そんなすぐ手術が必要な赤ちゃんって無事に育つの…?」と心配される方がいます。
大丈夫です。
きちんと手術して、大きな併存症、合併症がなければ、多くの子ども達が普通に育つことができます。場合によっては傷もほとんど残さず治せます。


小児外科ってすごい!

ということで、小児外科医は実は「外科医の上級職」だったりします。
日本の医者の数は30万人強。
外科医を志す人は、研修をして、外科専門医試験を受けて、最短でも5年かけて「外科専門医」になります。現在この外科専門医は日本で2万人強。
そこから外科医はより専門性を高め、消化器外科専門医、呼吸器外科専門医、心臓血管外科専門医などの試験を受けていくわけですけど、この並びに小児外科専門医もあります。
この専門医の難しさをなるべく同じくらいにしようという試みが進行中ではあるのですが、やはり、心臓血管外科と小児外科はツートップで難しいとされています。
まあ、難しいですからね。
ということで、日本における小児外科専門医の数は600人くらい。ちなみにプロ野球選手の数が約900人ですから、そのレア度がわかると思います。

おお、すっごい修練を積んで選ばれた外科医になるんだな…。小児って扱うのも難しそうだもんな…。給料もいいんだろうなー。
はい残念。日本では何科に行っても給料は同じです。
えぇ……。
まあ、そりゃあなりたくないですよね。
あ、アメリカとはか違いますよ。明確に格付けがあります。
まずもって、試験の成績がいい人でないと外科医になれないし、更にトップクラスでないと、心臓血管外科や小児外科のある病院に行くことすらできません。アメリカで「小児外科」なんて言うと、たいてい郊外にプール付きの邸宅を持っていたりします。
まあ、隣の芝生と比べても仕方がないので。
日本のシステムはそういうものだとあきらめて、僕自身は単に楽しいから小児外科をしているので、学生を小児外科に勧誘するときも「大変だし、いくら資格とっても給料同じだけど、楽しいよー」と開き直っているのでした。


小児外科の歴史

話変わって、日本における小児外科の歴史のお話。
これはなかなか聞けない話ですよ!
日本で「外科学会」ができたのは明治の時代にさかのぼりますが、「小児外科学会」ができたのは昭和39年。その頃の日本の小児外科の医療水準は、欧米と比べて20年遅れていると言われていました。実際にその頃は、赤ちゃんを手術すると半分は死んでしまうという時代だったのです。


日本小児外科学会雑誌より

しかしながら、先人たちの凄まじい努力により、現在に至るまでこの成績はとてつもない勢いで改善しました。そして今や、日本の小児外科の成績は世界と比べてもそん色ない…どころか、世界トップと言っても過言ではないレベルになっています。
すごいですねー。
まあ、病院へのアクセスの良さとか、日本の皆保険制度によるところも大きいとは思いますが。

そんな小児外科ですが、僕が大好きな魅力を2つ。

1つめ。体中様々な臓器を扱うこと


疾患が多い!

外科医は専門性を高めると、たいてい臓器別になっていきます。
でも小児外科は違います!
一般外科医だったころに加え、本来は泌尿器科や婦人科、整形外科、形成外科で扱う分野も、小児であれば全部する!脳と心臓はしませんが。
そんなこともあって、小児外科は現代に残された最後のGeneral Surgeon(全部がみれる外科医)であると言われているのです。

2つめ。生育医療


小児外科といえば成育医療!

外科医が手術して患者に与える影響というのは、決して大きくないと言われています。
そんな中で、小児外科は最大の影響を与えうる外科医であると僕は思います。
手術をしなければ100%亡くなってしまう命を救い、多くの場合、その子が普通の子となんらそん色ない人生を歩んでくれるからです。そして、それを外来で見守り続ける「生育医療」をするのが小児外科の特徴です。
自分が手術した赤ちゃんがどんどん育っていくのを見る喜びというのは、成人の外科をする先生には絶対に味わうことのできない感覚だと思います。

あれ?
いつもの学生勧誘のクセで、すっかり小児外科の宣伝になっている…。

ということで、クドくなる前におまけ話は終了です。

今日はおまけ話なので、参考文献などなし。
広島大学医学部小児外科の授業の一部を紹介しております。


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