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【モーリー・ロバートソン】ほぼ無名、手作りなのにスリルと感動を、本当に全世界に届けた映画

この映画を語る上でまず「スター・ウォーズ」の話から始めたい。
「スター・ウォーズで印象的だった惑星「タトゥイーン」のツイン・サンセットはもともとは黒澤明のアイデア」とする文章を個人のネタバレ・トリビアサイトで見つけた。

1975年に公開されたソ連と日本の合作映画「デルス・ウザーラ」で撮られた、シベリアの空に月と太陽が同時に見える場面が「スター・ウォーズ」の映像的に重要な場面の元ネタだったという説である。この情報は今の今になって見つけた。英国有力紙の2015年記事にも「脚本と情景の驚くべき量がデルス・ウザーラから引用されている」と書かれてある。


ほんまかいな…デルス・ウザーラだぞ?…

中学1年で「日ソ合作映画」という宣伝文句に惹かれて小さな映画館に入り、死ぬほど退屈な140分を過ごしたことを覚えている。固い椅子で次第に臀部が痛くなった感覚まで思い出せる。延々と続くロシア語の「哲学的」な会話を日本語字幕で追うのも、やたらとしんどかった。中1の自分にとって駄作でしかなかったあの「デルス・ウザーラ」が全世界の天才たちに影響を与え、その影響下に作られた数々の作品がぐるっと回って自分をその後、感動させた。

「カメラを止めるな!」にはシベリアで撮影された黒澤映画に通じる何かを感じる。

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手作り感が満載の現場で商業映画とはほど遠い出演陣とスタッフによって作られ、上田慎一郎監督自らがツイッターで宣伝し、当初は2館で封切りしたところ、上映中に笑いが続出、上映後には館内に拍手まで響き渡った。観た人の熱い思いはくすぶり続け、リピーターも続出。噂がSNSで広まり、そこに遅れて配給会社も乗っかり、費用対効果では空前の成績をはじき出し、さまざまに受賞。作品に対する忠誠心も強く、骨子となる37分ワンカットに関してネタバレが広まることもなかった。今日も広まっていない。

この作品の感染力は国境をも越え、「シャイニング」の原作者スティーブン・キングが絶賛し、ハリウッドの名だたる映画監督も評価。近くフランスの大物監督がフランス版をリメイクする。だが「カメラを止めるな!」の物語が展開するコンテキスト(文脈)はあまりに日本ローカルなものであるため、おそらくフランス版や将来の海外アダプテーションはそれぞれ異なるものになるだろう。逆説的だが「ゾンビもの」という輸入ジャンルをとことん「日本化」させたことが魅力の核でもある。

「カメラを止めるな!」はだまし絵のような入れ子構造にもなっていて、冒頭部分が映像、話の展開ともに後半で反復され、変化していく。オンラインで観たなら最後のロールクレジットまでじっくり見終わって、また冒頭から見たくなる。自分もそれをやった。最初の部分の謎解きを観るつもりだったが結局そのまま見続けることになり、一回映画を観るつもりがまんまと一回半分の時間を費やした。冒頭部分を二回目に観た時、謎は解き明かされたが今度は映像そのものに目が行った。これがおそらくジョージ・ルーカスが「デルス・ウザーラ」を繰り返しガン見していた心境だ。

撮影直前は、全員がそれぞれ違う場所で精神統一したという話も納得できる。精神統一しないと作れない完成度だ。名実ともに一筆書きで強い残像を残す映画である。

text/モーリー・ロバートソン