微笑みも痛みも全部。共感必至の悲喜劇
大九明子監督とのんが組んだヒューマンコメディ。おひとりさま生活を送る31歳の女性が、年下の男性に恋をして……。第33回東京国際映画祭で観客賞を受賞した「私をくいとめて」
のん、林遣都、中村倫也、橋本愛ほか豪華キャストが共演！
世代を問わず、長く愛される『この世界の片隅に』や、『ホットロード』、さらにはアーティストとしての活動など、俳優の枠にとどまらない多彩な活躍を続けるのん。世間や周囲からの“視線”に負けることなく素直に生きていく主人公・みつ子を、説得力ある演技で魅せる。さらに、控えめで魅力的な人物だが、ちょっと心をざわつかせるズルさも持ち合わせたみつ子の想い人を林遣都、みつ子が脳内に作り出した“もう一人の自分”を中村倫也、みつ子の親友を橋本愛が演じた。どこか不格好で、だからこそ愛おしいキャラクターに扮した、豪華キャストの凸凹なコラボレーションは本作の大きな見どころだ。
人気映画『勝手にふるえてろ』原作者×監督が再タッグ！
多くのファンを生んだ人気映画『勝手にふるえてろ』の原作：綿矢りさ×監督：大九明子のコラボレーションが再び！ 独特な会話のテンポほか浮遊感のあるユーモラスな世界観×カラフルでポップなテイスト×ぐさりと刺さる本音だだ漏れのセリフのコントラスト――両者の相性は、今回もばっちり！ おひとりさま生活を満喫するヒロインが、様々な“事件”に遭遇するなかで「誰にも邪魔されない、本当の幸せ」を追求していく姿を、わかりみ抜群で描き出している。コメディタッチながら絵空事でなく、観る人それぞれの人生／現実の向き合い方と重なる部分がちゃんと担保されているのだ。
ただのコメディで終わらない、痛みと苦み
『私をくいとめて』は明るいコメディ要素だけでなく、見過ごせない“毒”も内包している。基本的なストーリーは「独身生活を謳歌する女性が、恋に落ちたことで変わっていく」もののように見えるが、恋をすることで思い悩んだり寂しくなったり、情緒が不安定になってしまう“あるある”をキュートに描きつつ、そこで終わらないのだ。みつ子が目にするのは、「こう生きるのが正解」と押し付ける世間、他者を利用しようとする人間の性、さらに日常に転がる「女性の搾取」……。ただの爽快作ではない、観た後も尾を引く苦みと痛み。これこそが、本作の真の特長といえるのではないか。
Text／SYO
SYOプロフィール
1987年福井県生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て、2020年に独立。映画・アニメ・ドラマ・小説・漫画・音楽などカルチャー系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。トーク番組等の出演も行う。Twitter：@SyoCinema