どこまでも強烈で苛烈。覚悟を要する力作
社会の歪みをえぐる骨太な作品を世に送り出す映画会社スターサンズ。『宮本から君へ』の魅力を、3つのポイントで紹介。
容赦のない展開が連続。強烈に“食らう”
スターサンズ作品の特徴として、「熱量が高い」「テーマや描写が容赦ない」「観るのに覚悟がいる」等が挙げられるが、本作はその代表格。生半可な気持ちで挑むと返り討ちにあってしまうほど物語や人物が生々しく蠢いている。観賞後には画面に宿っている情念にあてられてしまい、現実に帰ってくるのに時間を要することだろう。
『宮本から君へ』は端的に言えば超不器用な熱血漢の主人公と恋人に起こる“事件”を描いた物語だが、対話シーンで描かれる人間の激情にせよ、アパートや駐車場、路上で発生する暴力描写にせよ、「見ごたえ」と軽く言えないレベルの凄惨な内容が刻み付けられている。世に映画作品は数あれど、観客の「こんなもんかな」という想定を優に超える生のえげつなさは、なかなか味わえるものではない。本作が多くの観客に衝撃を与え続けているのも納得だ。
池松壮亮・蒼井優たちによる魂の“驚演”
主演の池松壮亮、ヒロイン役の蒼井優をはじめ人気実力派俳優がそろった本作だが、見慣れているはずなのに「顔つきや目が違う」と思わされてしまうくらいに、各登場人物が憑依している。穏やかでどこか孤独を抱えた人物がハマる池松だが、そのイメージと180度異なる感情丸出しの宮本を狂的に力演。自分よりも圧倒的に大きい体格の相手に何度も挑みに行き、果ては顔面血まみれで笑うなど、とかく鮮烈な姿を見ることができる。その熱量は「役作りで歯を抜こうとして周囲に止められた」という逸話があるほど。
対する恋人・靖子役の蒼井は、被害者となってしまうシーンを全身全霊で演じ切りつつも、宮本に啖呵を切るなどブレない強さも同時に見せつけ、ひとりの人間としての厚みを感じさせる。ふたりを取り囲む人物に扮した一ノ瀬ワタルや井浦新の存在感も強烈だ。
観客が事件の現場に“遭遇”した錯覚をおぼえる演出
TVドラマ→映画と展開した『宮本から君へ』(映画版単体で観ても問題なくついていける)を手掛けたのは、暴力衝動に身を任せる青年を乾いたタッチで描いた衝撃作『ディストラクション・ベイビーズ』の真利子哲也監督。自身のストロングポイントをいかんなく発揮し、例えば暴力シーンをあえて観察するような視点で撮るなど、カメラの寄り・引きの画を絶妙に駆使してライブ感や観客がその現場に「遭遇」した錯覚を抱かせる。
原作者との相性の良さも本作の特徴で、『愛しのアイリーン』『ザ・ワールド・イズ・マイン』とショッキングな作風で知られる新井英樹の世界観と見
事に融合している(なお、新井は宮本の父役で出演もしている)。
Text/SYO
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SYOプロフィール
1987年福井県生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て、2020年に独立。映画・アニメ・ドラマ・小説・漫画・音楽などカルチャー系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。トーク番組等の出演も行う。Twitter:@SyoCinema