脚本・演出・俳優の個性ぶつかる野心作
『Mother』『Woman』『anone』を生み出してきた脚本・坂元裕二×演出・水田伸生の最新タッグ作『初恋の悪魔』の魅力を3ポイントで紹介。
まさに新感覚ミステリー! ひねりのきいた「常識外」の設定&演出
日本を代表する人気脚本家・坂元裕二の最新ドラマは、新機軸のミステリー。停職処分中の刑事、総務課と会計課の職員、生活安全課の刑事という「全員捜査権がない」4人が集結し、「自宅捜査会議」を経て陰ながら難事件を解決していく。坂元らしい一筋縄ではいかない超変化球な設定に、気心の知れた演出家・水田伸生のトリッキーな演出が融合し、コアなドラマ好きをうならせるオフビートな世界観が組み上がった。目に見えるもの=常識を疑うことで「不可解な殺人事件」「連続万引き未遂?事件」といった事件の謎が紐解かれていくストーリーと呼応するように、表面的な「わかりやすい」見せ方を廃し、観る側を意図的に混乱させる野心的な作りになっているのも憎い。予定調和的な部分が皆無なのだ。
徐々に明らかになる謎と恋模様、“坂元節”あふれる人間ドラマ
挑戦心を随所に発揮しつつ、視聴者が置いてけぼりになってしまう独りよがりな展開に埋没していないのが本作の上手さ。そのひとつが、徐々に明らかになる謎の数々。
事故死したとされている悠日(仲野太賀)の兄・朝陽(毎熊克哉)の死の真相は?
鈴之介(林遣都)が監視する隣人・森園(安田顕)の正体は?
第1話から匂わされていた星砂(松岡茉優)の秘密とは?
といった謎が毎話少しずつ明かされていく、連続ドラマならではの仕掛けが効いている。そこに、各登場人物の「恋愛感情」が盛り込まれ、それぞれの関係性がどんどん変化していくのも興味深い。
また、坂元作品特有の卓越した言葉選びが光る名シーンも多数。悠日が朝陽に届かない電話をかけるシーン、鈴之介が自らの孤独を吐露するシーンなど、観る者の琴線に触れる切ない見せ場が、毎話しっかりと用意されている。
林遣都、仲野太賀、柄本佑、松岡茉優が織りなす絶妙なアンサンブル
豪華すぎる人気実力派俳優陣の躍動も、本作の見ごたえを倍増させている。林遣都が偏屈な推理マニアに扮し、キレのいい演技で観る者を笑わせるだけでなく、他者や社会と相容れない哀しみまでも丁寧に表現。また、仲野太賀が「わかりませんけど、わかりました」が口癖の哀しきイエスマンに扮し、個性的な面々を見事につなぎつつ自身の特性をいかんなく発揮(見事な“泣きの演技”も披露)。ねちっこい会計課職員に扮した柄本佑は「お疲れ様です」という挨拶に対して「言われなくても疲れてる」と返すようなめんどくさい人間ながら、なぜか憎めないという絶妙なラインを開拓。松岡茉優は「わかんね」「だろ?」といったようなぶっきらぼうな物言いをしながら、心の奥に深い痛みを抱えた星砂を熱演(観る者をぞくりとさせる驚きのシーンも!)。それぞれの掛け合いも小気味よく、このキャスト陣だから成立した妙技に終始うならされる。
Text/SYO
SYOプロフィール
1987年福井県生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て、2020年に独立。映画・アニメ・ドラマ・小説・漫画・音楽などカルチャー系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。トーク番組等の出演も行う。Twitter:@SyoCinema