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落語と共に生きた男たちの因縁の物語

放送時から傑作と絶賛されたドラマ『昭和元禄落語心中』がついにHuluで解禁!なぜ親友は死んだのか?その死をめぐる慟哭のミステリーが今幕を開ける!


男同士の絆からしか摂取できない栄養がある

©NHK/テレパック

男同士の絆には、誰も立ち入れない色気がある。そんな男の関係性に目がない人たちは、ぜひ『昭和元禄落語心中』を観てほしい。

これは、その名の通り「落語」に人生を捧げた男たちの物語。中心となるのは、菊比古(岡田将生)と初太郎(山崎育三郎)という2人の噺家だ。同じ日に七代目有楽亭八雲(平田満)の門を叩いた2人は、切磋琢磨しながら芸を磨いていく。

しかし、天性の愛嬌で客の心を掴む初太郎に対し、真面目で隙がない菊比古の高座はいつも白けた空気。才能の差に焦りを募らせながらも、菊比古もまた初太郎の芸に魅了されていた。

狭いアパートで一緒に暮らした日々。1枚の羽織を傘代わりにして駆け抜けた雪の夜道。2人で一緒に掛け合いをした「野ざらし」。

友情よりも深い菊比古と初太郎の絆にきっと夢中になるはずだ。

20年前の謎の事故死。その真実はどこにあるのか?

©NHK/テレパック

だが、決して単純な青春譚ではないところが本作の魅力だ。
物語は、菊比古と初太郎の青春時代より遥か先――昭和50年代の東京を舞台に、刑務所帰りの男(竜星涼)が、八代目有楽亭八雲を襲名し、当代きっての大名人に成長した菊比古に弟子入りを志願するところから幕を開ける。八雲から「与太郎」の名を与えられた男は、八雲のもとで修行に励むこととなる。

だが、八雲のことを知れば知るほどチラつくのは、かつての人気落語家・助六の影。助六に名を改めた初太郎は、天才の名をほしいままにしていたが、20年ほど前に命を落としていた。

なぜ助六は死んだのか。その死をめぐるミステリーが本作のクライマックス。若き菊比古と初太郎の間に現れる美貌の芸者・みよ吉(大政絢)。男と男と女が出会ったとき、破滅の出囃子が寂しげに鳴り響く。

涙止まらぬラストシーンが、あなたを待っている

©NHK/テレパック

本作に深い奥行きをもたらしているのが、登場人物の胸中を代弁するような落語の数々。

端正さが売りだった菊比古の芸に狂気を宿らせた「死神」。破天荒な初太郎の個性を象徴したような「野ざらし」。初太郎=助六の人生最後の落語となった「芝浜」。知らなくても十分に楽しめるが、ひとつひとつのあらすじを調べることで、より味わいが増していく。

さらに、落語というのが口伝の芸であることも重要なポイント。師匠から弟子へ。直接話して聞かせることで、次代へと継承されていく。そこには噺の筋や技術だけでなく、因縁すらも宿っている。そのすべてを弟子は受け継ぎ、高座へと上がるのだ。

だからこそ、最終回のラストシーンで“ある演目”が披露された瞬間、涙が止まらなくなるはず。

これは、落語を愛するすべての人たちのドラマだ。

岡田将生&山崎育三郎&竜星涼の名演を堪能せよ

©NHK/テレパック

そんな噺家たちの人生に本物の息吹を与えているのが、俳優陣の演技だ。

まずは菊比古=八代目八雲を演じる岡田将生が、これまでのベストアクトと呼ぶにふさわしい名演を見せている。青年の頃は瑞々しく、噺家として生きる覚悟を決めてからの表情は冷血で近寄りがたく。老年期は声もしわがれ動きも緩慢で死の色が濃く浮かぶ。人の一生を身ひとつで表現する技量は、迫真を超えて、狂気の域にある。

さらに、初太郎=助六を演じる山崎育三郎も粗野で豪快なキャラクターが実によく似合っている。パブリックイメージとは真逆の役柄をものにしてみせるハマりっぷりは嬉しい想定外。色気と茶目っ気のある助六についほだされてしまう人も多いだろう。天真爛漫な与太郎を演じる竜星涼もイキイキとして痛快だ。

落語監修を務めるのは、柳家喬太郎。菊比古の落語家人生を変えた「死神」を伝授する先輩落語家役として出演もしている。当代きっての人気落語家の指導による三者三様の落語も大いに楽しんでほしい。

Text/横川良明

▼『昭和元禄落語心中』はこちらから

横川良明(よこがわ・よしあき)プロフィール
1983年生まれ。大阪府出身。ドラマ・演劇・映画を中心にインタビューやコラムなどを手がける。著書に、『役者たちの現在地』(KADOKAWA)、『人類にとって「推し」とは何なのか、イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた』(サンマーク出版)がある。Twitter:@fudge_2002

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