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現代日本の零落から生まれた社会派SF

AIが選出した高校生が統治!? 『ハゲタカ』訓覇圭プロデューサー×『エルピス』佐野亜裕美プロデューサー×『リズと青い鳥』脚本家・吉田玲子によるドラマ『17才の帝国』の魅力を、3つのポイントで紹介。

「AIに選出された若者が統治する」設定の斬新性

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17才の帝国』の凄さは、何らかの形で作品と出合った人々に与える「第一印象の鮮烈さ」であろう。経済や政治、影響力といった国力が低下した日本で、起死回生の一手として始まったプロジェクト。それはAIが選抜したリーダーに都市の統治を行わせるというものだった。その結果選ばれたのは、17才の少年。彼に足りない“経験”はAIが補い、サポートメンバーも20歳前後で固めて「既得権益を排し、コネに左右されない真の未来を見据えた政治」を行う――。本作の「17才に政治を任せる」設定は、危機的状況にある現代の日本社会に対する強烈な風刺と同時に、状況打破への提言という側面も持っており、そこに「AIによる政治」という要素が絡んでくることで他に類を見ない「SF×社会派ドラマ」に仕上がっている。

観る者に気づきを与える鋭い問題提起&改革

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現行の国内政治の問題点を容赦なく突いていくのも、本作の特長。年長者偏向の現況にメスを入れる「若きリーダー」、「支持率がリアルタイムで可視化され、30%を切った場合は辞任する」という透明性と市民の声をダイレクトに拾う「クリーンな政治」、情を排して生産性を重視する「職業の合理化」等々、作中で描かれる改革の数々は理にかなっているものばかりで「実際に投入されたらどうなるのか?」と現実の不合理性を再確認する“気づき”を与えてくれる。同時に、世代間や改革派と保守派の衝突を各々の心情に寄り添って細やかに描いており、「若者=正義、高齢者=悪」の構造になっていない点も秀逸だ。『17才の帝国』で示されるのは“答え”ではなく、我々自身がより良い未来を目指すための“ヒント”なのである。

洗練されたデザインの数々が独自の世界観を構築

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スタイリッシュな近未来のビジュアルの数々も、大きな魅力。メインとなるAI「ソロン」のデザイン(声を当てるのは緒方恵美)、住人に支給される様々な機能が搭載されたアイウェアをはじめとする多様なガジェット、件のプロジェクト「UA(UTOPI-AI)」のロゴデザイン、打ちっぱなしの空間が効いている閣議の会場設計、機能美を感じさせる衣装等々、「AIによる統治」が浮かない世界観が見事に構築されている。カメラがスピーディに上昇すると塔の屋上に主人公が立っているドラマティックなOP、坂東祐大 feat. 塩塚モエカによる「声よ」が彩るエモーショナルなED映像もセンスの塊で、映像表現としても国内ドラマに新風を吹かせた存在だ。

Text/SYO

SYOプロフィール
1987年福井県生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て、2020年に独立。映画・アニメ・ドラマ・小説・漫画・音楽などカルチャー系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。トーク番組等の出演も行う。Twitter:@SyoCinema

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