義体不幸鳥急行殺人事件Ⅱ

つづきです。やっつけです。まだつづきます。

 「だからオルルルルルルルェはやっていないよ!チェックインを終えたらすぐに街へ観光しにいったの!!助手のチベスナちゃんを連れてね!あの子も言ってたろう!!trust me!!」
ベレー帽を被り、四分の一を覆う仮面を着けた女は喚き立てる。サングラスをかけた長髪の警官は腕を組み、長く息を吐きながら背もたれへ寄り掛かった。
「トラスト・ミーはとっくに意味をなさぬ言葉になってるんだよ、いい加減認めなさいよ」
「無実だ!」
「証拠不充分なんだよなぁ…」
このようなやりとりを続けること1時間。不幸鳥は否認し続け、警官Richardも根気強く問い詰めていた。しかしこういったことは警察にとっては日常茶飯事なのだ。自白まで諦めてはならない。
「どう!?Richard君!!容疑者吐いた!?」
乱暴にドアが開き、騒がしく入室する者あり。彼女はRichardの上司。ゴリラ入間だ。
「課長…ダメですね。アレの出番ですかねえ」
「いや、アレはまだ早いね!まだ午前10時だからね!!課長もお腹すいてないから」
「アンタの腹減り具合はどうだっていいんですよ!」
警官ふたりは容疑者放置でコントを始めた。笑ってはいけない警察24時だろうか。
「オルルェカエッテモイイカナ」
「「ダメ♥️」」

 別室では、チベスナの事情聴取が為されていた。
「アリバイは確かにあるのですが…彼女が事件が起こってほしいような旨の発言を何度もしていたのは事実ですね?」
警官は落ち着いた口調でチベスナに語りかける。チベスナは頷く。
「けどあの人はいつもそうです。物騒好きなだけで、自分からはなにもしたりしません。意味深なことを言うのもただの癖です。そのほうがかっこいいから、って」
呆れた様子で警官は笑った。本当なんです…チベスナは小声で呟く。
「私はあの人のほうが怪しいと思います、証拠写真を提出した…駄目仙人さん?って方!」
「あの方ですか?証拠の提出は事件解決に大きく貢献する可能性があるので有難いことですが確かに、不自然な点がいくつか見受けられるので…」
その彼女も別室で話をしているという。あの女性は一体どういうつもりなのだろう…?チベスナはそればかり考えていた。


 今、このときにも魔の手は伸びている。


 「証拠写真は以上よ、文句あって?」
警官は写真を一枚一枚眺めていく。紛れもなくそこに写るのは不幸鳥そのものだった。不幸鳥は観光をしていたはずでは?
「いいえ滅相も……捜査のご協力、感謝いたします…ところで…駄目仙人さん?」
「なにか?」
「いえその…事件当時、貴女は一体…何を?そして何故このような写真を……」
駄目仙人の冷ややかな眼光に気圧されつつ、警官はおどおどと尋ねた。その様子と、質問の内容に彼女の表情はさらに険しくなっていった。
「私を疑っているのですか?いいでしょう、お答えしますわ。事件当時、私は容疑者を追っていましたの。怪しかったもので。そしたら案の定、この写真を抑えられましたわ」
「怪しかった……?」
「聞きませんでしたの?あの方、事件が起きてほしそうにしていたり。人死にをまるで楽しみにしている素振りをしたり。…私、あの方が気に入らない」
警官は訝しんだ。しかし、それ以上立ち入れなかった。

 「…あーくそっ…参った。Lassie、きみは無事かい。オルルェのほうは散々よ」
署から出てきた不幸鳥はウンザリした様子で傍らのチベスナに話しかけた。チベスナはやや不安な表情で彼女を見返した。
「説得、なかなか難しくて。……センセイ何かあったので?」
「フフ。……何もなかったんだよ!普通、こういう取り調べってさ、出るんじゃあないのかい?何が?カツ丼よ。オルルェはカツ丼じゃなくて親子丼がいいかなあ、まあそんなことはいいんだ」
どうやら、お昼時にカツ丼・トーチャリング行為を受けていたという。警官も容疑者不幸鳥も一歩たりとも譲らぬ、壮絶にして苦しい過酷なる闘いがそこでは繰り広げられていたという。恐ろしい。
「無事ならなによりですよ…私、なんだかずっと嫌な予感がしていて。一時的に釈放されてるけど……よくないことが起こりそうな」
「ンン……何よりじゃないか?オルルェは楽しみだよ…大丈夫よ、Lassieには誰であろうと危ない目に遇わさせんから」
また危険を楽しむ素振りをする不幸鳥を、チベスナは薄い目で見つめた。
「Oops…lassieやめなさい、そんな目で見ないでおくれ。オルルェも怖いんだよ……わかるだろう。そうだチベスナちゃん、ごめん、オルルェちょっとお手洗い行ってくるな」
そう言うと不幸鳥は署では没収されていた大筆をチベスナへ押し付け、軽く手を振り手洗い所の方向へ消えていった。この時のことをチベスナは後悔する。嘘でも着いていくと言っていたのなら、と。


 その後、不幸鳥の死体が発見されたという。




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