古城の隅のきみ

ポケモン剣盾プレイ中ぼくのスーパー鈍感プレイングのせいでこの一連がなんのアレだかわからずにホニャッとしたまま終わったのが微妙なのでポエットにしておきました。キバナさんのキャラがわからない。

 「いや知らないぜ。オレさま一応ここのジムリーダーだし、この街のことはアンタよりかは詳しいつもりだがよ」
返ってきたのはそんな言葉だった。ジムリーダーのキバナさんですら知らないなんて、そんなことが。そりゃあ彼がこの街の住人を把握してるとは思わないし広い街だから知らなくてもおかしくはないけど、あの子はなんというか、印象に残るタイプの子だった。さて、なんの話をしているか。話はかなり遡る。わたしがチャンプになる前のことだから、相当前。ナックルシティを探索中のわたしを可愛らしい声が呼び止めた。それが始まりだ。
「うーん、あなたなら大丈夫かも」
声の主である小さな女の子はわたしをまじまじと見るとそう言った。
「どうしたお嬢ちゃん?」
女の子の目線まで屈み、声をかける。
「この手紙をアラベスクタウンにいる好きなひとに渡してほしいの」
その子は恥ずかしそうに手紙を差し出した。そうかそうか。そういうことなら、喜んで。
「ん、確かにお預かりしました。アラベスクタウンだね」
女の子へ微笑みかけると、その足でアラベスクタウンへ向かった。その手紙がいやに古びていることに、そのときのわたしは気付いていたのか、気付いていなかったのか。

 「その宛名は私だよ」
そう言ったのは老人だった。おや、随分と歳上好きな子なのね。小さな女の子の恋の相手というのは想像が難しい。
「よく幼い頃、一緒に遊んだものだ。彼女は元気かな?」
うん?えっと。
「元気そうでしたよ!」
「ハハ、そうか。良かった。友達ってものはいいものだよ、きみも友達を大切にね」
ご老人に挨拶をし、アラベスクタウンを後にした。ところで、彼の言っていたことに一瞬引っ掛かりを覚えたが、なんだったのだろう。とにかく、あの子に報告に戻ろうか。

 それからというもの、何度ナックルシティを訪れてもあの女の子は見当たらなかった。

 「おーいチャンピオン」
声のする方を見れば、ナックルシティジムリーダーのキバナが手を振っていた。そう、色々経てわたしはチャンピオンになった。
「オマエがこの辺りをウロウロしてるの何回も見てるんだよ、隠し撮りしてSNSに載っけたりもしたんだけどさ」
「キバナさん、肖像権って知ってる?いや、それよりも聞きたいことがあるんですけども」
そんな経緯で、冒頭の話になった。古城二階の隅。忘れていたけど確かその辺りで女の子に会い、手紙を届けるよう頼まれたのだ、と。せめて彼女にその旨を伝えたいのだ、と。しかしキバナさんの答えは知らないというものだった。
「引っ越しちゃった?自分で届けられない理由があったってことだろうし、それが一番あり得る話か」
「や、ちょっと待てコンダクター。オマエ何て言った?」
キバナさんがトーンを落として聞き返した。何、て。
「あの女の子もう引っ越しちゃったのかな、と」
「違う。手紙を渡したじいさんの言ったことだよ」
「ちっちゃい頃よく一緒に遊んでた?」
キバナさんの顔色が少し青ざめた。
「そんなわけがねえだろ……」
「やっぱり辻褄合いませんよね。おじいちゃんボケてるか人違い?あの子はそのおじいさんのお友達のお孫さんだと思ったんだけど……」
そう言うとキバナさんの青ざめた顔は元に戻り、代わりに呆れ顔になった。
「オレさまにもダンデにも勝つほどすげーのに、マジで察し悪いな!おかげで怖くなくなっちゃったぜ」
「えぇ?何も怖いことなんてありませんって、キバナさん」
「このまま言わないでおこうかと思ったが……そうしたらオマエはこのままその子を探し続けるだろうからオレさまの見解を教えてやろう」
彼はばつが悪そうに頭を掻く。それから言いづらそうに口を開いた。
「その女の子は、もういない」
「ええ、ですから……」
「とっくに、亡くなってるんだ」
軽く目を伏せ、キバナさんは言った。そんな、じゃあおじいさんは。あの子は。
「……わたし、おじいさんに嘘吐いちゃったよ」
「コンダクター。真実を知っていたとして、だったらなんて言った?正直に言うか?」
なにも言えない。おじいさんはその事実を知りたいと思うだろうか?でも、そうしたらあの子の想いはどうなる?死して尚、想いびとへの手紙を届けたかったあの子の気持ちは。
「ありがとう、ございます。キバナさん」
「おお。オマエも、手紙届けてやってくれてありがとな。その子の代わりと言っちゃあなんだがよ」
キバナさんと別れ、わたしは古城二階の隅へ向かった。あの子と会った場所。あの女の子はいないけど、それでも言いたかった。
 ──手紙は渡してきたよ。彼は喜んでいたよ。出来ることなら、きみの喜んだ顔も見せてほしかった。さようなら。おやすみなさい。



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