義体不幸鳥急行殺人事件Ⅲ

つづきでーす ある人物登場!

チベスナは手洗いに消えたまま帰ってこない不幸鳥を探していた。手洗い入り口に立て掛けられていた、不幸鳥愛用の大筆を握り。個室の中には誰もいないようだったし、その周辺をくまなく探した。どこに行ったというのだろう。チベスナは、路地裏に不思議なものを見た。一言で言えば、空間のねじれのようなものがそこに浮かんでいた。それは白とピンクに渦巻き、発光していた。チベスナは思わずそれに手を伸ばし……

───時は一時停止し、巻き戻り始めた。

 「しかしねえ…こいつ本当に?」
刑事Richardは怪訝に思いつつ、モニターを確認した。課長、ゴリラ入間は海中に潜った部下をつついて遊んでいる。彼女たちは、不幸鳥の死体が発見された海岸まで来ていた。不幸鳥の死体は、海中にあった。いや、今もある。引き揚げようにも、引き揚げられないといった現状なのだ。如何なる状況に置かれているのか。彼女の遺体は、もはや誰だか判別不能なほどに堅く堅く大量の鎖で雁字搦めにされ、海中に繋ぎ留められているのだった。Richardが訝しむのも道理だった。
「確かに所々見える箇所は容疑者に酷似してはいる、が……」
「ダイジョブ、Richard君!さっき髪の毛採取してもらって鑑定してもらってるからね!」
遊んでいた課長はいつの間にかRichardの隣へ来て言った。
「ついでに皮膚も採っといたから」
「はあ……どう出るんですかねぇ…本当にあれ、不幸鳥容疑者なのかな」
Richardの顔からはまだ疑いの色が消えないようだった。

 「ここは…」
チベスナは列車の中にいた。先ほどまで路地裏にいたのに。彼女は車内を少し歩いて回った。そして信じがたいものを見た。
「センセイ…!?それと私!?」
とある席には、不幸鳥とチベスナが座っていたのだ。何故だ?チベスナは私で、だけど目の前にいるのはどう見ても見慣れた自分の姿だ。二人は自分に気付いていないようだった。というよりも、まるで見えていないような。
「ンフフ……旅行、列車、密室、殺人事件……ンフ、人死にの匂いだ」
車窓に映る不幸鳥の顔は、何がおかしいのか楽しげに歪む。その指先もリズミカルに手すりの上を跳ねている。先程からの女の様子を見ている、向かいに座したチベスナは眉をひそめた。
「なんか、本当に起こってほしいみたいじゃないですか…殺人事件」
「まさか。そも今時ね、こういうのに便乗して人殺すヤツがいるとか、オルルェにはとても考えらんないね」
(この会話って……)
チベスナは思い出した。旅行初日の会話そのものだ。どうやらその日に時間が巻き戻った……らしい。
チベスナは注意深く車内を見渡した。すぐに、座席のひとつに見覚えのある顔を見つけた。
(あれは……駄目仙人って人……?)
車内雑誌越しに、不幸鳥を睨む、高貴な雰囲気の女性。駄目仙人だった。
(あの人もこの列車に乗っていたなんて……)
更に別の車両へ進み、手掛かりを探した。
(あれ?あの人って)
チベスナはまたもある人物を発見した。銃らしきものを二挺持っているとかなんとかで軽く騒がれている。女は必死にモデルガンだと説明している。
(日向寺さんじゃあないか……なーにやってるんだか)
彼女は日向寺皐月という。モデルガン、サイバーサングラス、黒いマフラーが特徴的で、不幸鳥やチベスナとも親交がある。時折不幸鳥のアトリエへゲームをしに来たり、特撮ドラマDVDを持参して来ているのだ。
(そういえば来るって言ってたっけ……そのわりに私たちのところに来なかったのはこの騒ぎのせいだったのか…)
わざわざモデルガン持ち歩かなければいいのに、チベスナは呆れつつ他へ目を向けた。
(ん?)
一瞬、不審な人物の影を見た、気がする。こちらが目をやった瞬間どこかへ消えてしまった。誰だ?何が目的だ?気のせいだといいのだが。
『間もなく、───、───、お降りの際は─』
アナウンスが聞こえた。着いたのかと思うと同時に、彼女は路地裏に戻ってきていた。
「……あれ?」
夢でも見たのだろうか。だけど、なにか重要なことを掴めたような気がする。そんな彼女が旅館へ戻った時だった。チベスナがセンセイの死を知らされたのは。

 事件から一週間ほど経った頃だ。
「まだ遺体引き揚がりません!!!!」
課長がお手上げのポーズをした。鎖はロック式な上に数がやたら多いのだ。解けるものも解けない。
「ですが課長!鑑定の結果が出ました!!」
Richardが駆け込んできた。紙を数枚手に。
「よしよし!!さあ結果を!!!はやくして!!」
「はい!!えー……鑑定結果!!……一…致……?」
遺体から採取された髪、皮膚は不幸鳥のものと出てしまったのだ。

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