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【創作】YOKOMICHI

ノリで作ったんだけど、カラーバリエーションが偶然六つになっちゃったのがよくなかったかもしれない。六…六は…なにかとよくないのにな……先に謝っておきたい。ごめんなさい

「おめでとうございます!すごい!六つ子ちゃんですよ!どの子も元気です!」

「私ね…名前、もう考えてあるの…一番上のお兄ちゃんが華道、二番目は我道……」

「でもこんなにたくさん、よく無事に産まれてきたな……本当に良かった…」

「おい、正気か!?バレたら終わりだぞ!!」

「バレやしない…こんなこと、私以外誰も知らないんだから…だったら……たった一人くらい…」



「山田…山本…湯浅……いるな、横田…」
教壇に立つ中年の男……教師の高田が、生徒らの名を呼んでいく。順調に読み上げられていくが、それはある名前で止まる。
「……横道」
返事はない。何故なら。
「あー!紛らわしい!!何でお前らは揃いに揃って同じクラスなんだ横道軍団!!」
高田の視線の先には、同じ顔をした男子生徒が六人いるのだった。彼らこそ、六つ子の横道兄弟である。
「そんなこと言われても。先生方でしょ、クラス分けしたの」
金髪の長男、華道が尤もらしい文句を言う。
「そう。僕らこそ困ってるんだ…わかりますか、何故なら新学期ゆえに席もこんなに近い」
次男の我道は銀色の髪を弄びながら、兄に同意する。
「良いですがね。そのうちこいつらに問題起こさせて別クラスに飛ばしてやるんで」
黒髪の三男、外道は陰気に言った。
「ハァ!?先生ェ、こいつだけ隔離した方がいいッスよマジで」
四男、赤髪の求道は外道に食って掛かる。
「……続けて、先生」
緑色の髪の左道が話を戻そうとする。ちなみに彼は五男。
「うん早くして、俺もう腹減ってきたから…」
六男、水色髪の右道が呑気に言う。
高田は頭を掻きながら長い溜め息をついた。何故よりによって俺のクラスなのか。
「わかったから……っていうか全員いるなー?……いる、ね。ハァー…始めるぞもう……」
チョークを手に取り、黒板に向き直った高田は急にまた振り返り、叫んだ。
「何で仮面付けてんの横道兄弟!?」
素っ頓狂な突っ込みに教室がざわめきと小さい笑いに包まれた。そうなのだ。この兄弟、どういったことか皆一様に、鼻から上を覆うタイプの仮面をつけている。その光景はあまりに異様である。クラスメイトたちは敢えてそこに踏み込まなかったのだ。否、踏み込めなかった。
「これですか。説明しておかなければなりませんね。笑わないで聞いてください、これは取れません。原理はわかりませんがとても自分や他人の力でどうこうできるものじゃあないのですよ」
華道は言うが、当然高田は納得出来ない。
「ふざけるなよ!?」
「怒るのもダメです。なんなら外して下さい、お願い」
右道は先生に頼み込む。高田はつかつかと彼に歩み寄り、その仮面に手を伸ばす。……あれ?
「ね!言ったでしょう!取れないんだってこれ!」
彼らの言う通り、仮面は外れる様子がない。不思議なことにびくともしないのである。別の生徒に手伝わせ、数人がかりで外しにかかった。取れないのである。
「わ、わけが……わからん」
高田は息を切らしている。諦めたようだ。無理もない。それを見て我道は苦笑した。
「ね。僕らもそう思ってる。先生でもやっぱりダメでしたね」
「ならばそれは一日中付けてるのか、風呂とか入る時もなのか」
「それなんですが、そういうときだけ外れるんですよね、都合よく。でも、だからってずーっと顔洗ってたり、風呂入りながら学校来るわけにもいかないでしょう。先生が良いっていうなら僕らそうするけど?」
「良いわけ!なかろうが!!」
などとしているうちに、一時限目は終わりを告げてしまったのであった。当然、授業など出来なかったし、二時限以降も、他の教師たちに散々突っ込まれこの調子だったのだが。






ということから幾らか時が経ち、彼らが学校になんとか馴染めてきた頃だった。横道兄弟が長男、華道の隣を歩いているクラスメイトの佐東時春は、唐突にこんなことを言い出した。
「お前らってさ、他校にも何人か兄弟いるのか?」
華道はきょとんとした表情のあと、いないと答えた。流石にそんなにいやしないと。
「そうなの?まあ言われてみりゃあ一人だけ他校ってのも変な話だよな。けどさ、日常的に仮面つけた学生なんてのも滅多に…つうかいねえと思うんだわ」
「待て、何の話だ?俺たち以外に?そんなヤツがいるって?」
華道は思わず足を止める。
「いやわかんねえよ、これ他校の知り合いから聞いた話だし、実際に見たわけじゃねえもん」
「どこの学校だ?県外?どんな奴?」
「県外のなんとかって学校で、どんな奴かってのはお前鏡見た方が早いと思う。ただ髪の色はピンクだ」
「……そう。あとで詳しく教えろよ。調べる」

七人目の兄弟。今まで聞いたこともなかった。両親もそんな素振りを見せたことは一度もなく、過去の写真をどれほど漁ろうがピンク色の髪の弟なるものはいない。人違い…しかしそんな風変わりな人間が他にいるとも思えない。華道はアルバムのとっ散らかった床に倒れ込む。それとほぼ同時に、ポケットから軽快な通知音が聞こえた。時春からのメッセージ。
『その学校の名前わかった』
「ナイス、トッキー」
一人呟くと、彼はがばっと立ち上がった。が、急に立ち上がったがための頭痛と目眩でしばらく動けなかった。



「「「「「生き別れ!?」」」」」
華道を除く5人はやはりこの事実に驚愕している。数日前の俺と同じ…華道は話を続ける。
「うん。信じられんよな。でも見た。つい最近見に行ったんだよ。学校とか調べて。あれは…弟だ。どこからどう見ても顔が俺たちだった」
「そんなベタな話があんのか…?だって母チャンも父チャンもなんにも言ったことないだろ!?」
求道は信じきれぬ様子で、華道に詰め寄る。
「そこら辺はわからない。正直、聞く勇気がない。俺が知るのは、俺たちには生き別れの弟がいるということ、そいつの通う学校、そいつの名前が『軌道』ってことだけ」
皆一様に暗い顔をしていた。自分たちは七つ子であり、どういった事情か、その弟の存在は今まで知らされることはなかった。……親は彼を捨てた?そんなはずはない。しかし、ならば。
「……黙ってねえで調べようぜ。次はその軌道って奴の家族をだよ」
外道が低く言った。その提案に華道は賛成した。
「親に聞けないならそっちを当たるしかないよな」
右道も同意する。左道も頷く。
「じゃあ決まりだ!誰か外道のヤロウ押さえとけよ、何しでかすかわからねえ」
外道を挑発しつつも、求道は彼に賛同している。
「任せておくれよ。僕、自慢じゃあないがそういうの得意なんだ」
我道が自信満々に言う。平静を装う華道も、突然にこのようなことを知らされた我道たちも不安だった。だが、それ以上に自分たちの弟のことを知りたかった。その一心で、両親に隠れつつ軌道周辺を調べる日々が始まった。わざわざ軌道の住む辺りまで赴いたり、現地の人に話を聞いたり、それはもう地道な努力があった。あったのだった。そして彼らはやがて、真実へ辿り着く。
「───元、産婦人科医…だって?」

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