義体不幸鳥急行殺人事件

義体殺人事件をぼくも書きたかった。想像で書いてるキャラがほとんどなのでいろいろふあんです。 

「ンフフ……旅行、列車、密室、殺人事件……ンフ、人死にの匂いだ」
車窓に映る女の顔は、何がおかしいのか楽しげに歪む。その指先もリズミカルに手すりの上を跳ねている。先程からの女の様子を見ている、向かいに座した少女は眉をひそめた。
「なんか、本当に起こってほしいみたいじゃないですか…殺人事件」
「まさか。そも今時ね、こういうのに便乗して人殺すヤツがいるとか、オルルェにはとても考えらんないね」
女は大袈裟に肩を竦めて見せた。少女は未だ眉間のシワが伸びない。
「センセイ、旅行ですよね。ほんとうに、私たち楽しく旅行しに来たんですよね」
「もちろんだ、Lassie。さ、そろそろ着くし、眉間のそいつを取ってかわいいお顔にお戻り」
女は少女の眉間をうりうりと指先でこねた。
『間もなく、───、───、お降りの際は─』
車内アナウンスが、列車の到着を告げた。彼女たちの旅行は始まった。波乱の、旅行が。

 「この度は当旅館のご利用、まことにありがとうございます~」
ぺこりとお辞儀をする若女将。紫色の髪を結った、まろ眉が特徴的な小柄な女性であった。ここは「どくどく庵」。大きくはないが落ち着いた印象の小綺麗な旅館だ。名前があやしい。
「ええ、宜しく女将。ここは良いところですね、雰囲気がいい!まるで事件でも起こりそうな」
「センセイ」
不幸鳥はチベスナに窘められた。
「Oops、失礼。気を悪くされたのなら謝罪を。オルルェは好きですよ…ああ、ところでお勧めの観光スポットなど教えていただけたりは?」
ドスッ。不幸鳥は衝撃を背に感じ、肩越しに背後を窺った。彼女を睨み、去っていく女の姿が見えた。
「ぶつかっておいて何にも言わないとか…センセイ以上にシツレイですね。ダイジョブですか?」
「ん、No problem…but…She looks familiar…?」
女の去った方向を見たまま、不幸鳥はぼんやり呟いた。若女将も心配げに見ている。
「あの方…不幸鳥さま方が来られるまえにお見えになったのですが…お知り合い、ですか?」
「いや、きっと思い過ごしでしょう。それより話を戻しましょう!うちのチベスナちゃんも遊びたそうにしているので」
「しっ、してませんよ!」

 二人は若女将に教えてもらった観光スポットを心行くまで楽しんでいた。列車で話していたような、事件の影はない。たぶん。
「これがここらで有名なアイスクリーム…この目玉モチーフの飾りがちょっと気に食わないですけど美味しいですね」
「うん、眼球ね」
不幸鳥は茶化す。茶化しつつ遠くを見ている。
「昼間の人のことですか?気にしないほうが」
「思い出した。あの人」
言い掛けた言葉は、最後まで紡がれなかった。彼女は真剣な眼差しで遠くを…「どくどく庵」の方向を見ていた。軽い人だかりが出来ている。
「な、何事ですか…」
「戻ろうLassie、ちょっとやばいかもしれない」
不幸鳥とチベスナは駆け出した。旅館へ戻るために。しかし、戻るべきではなかったのだ。ここで。

 「こ、殺しィ…?」
不幸鳥は頓狂な声を漏らす。どくどく庵へ戻ったふたりは事情を知らされた。客の一人が殺害されたという。死因はシンプル。ナイフでのひと突きによる失血死だが、ただの殺人沙汰ではなかった。彼女にとっては。
「で、犯人……オルルルルルェ!?」
彼女は己を指差し、さらに素っ頓狂な声を張り上げた。隣のチベスナもチベスナ顔待ったなしだ。
「Ha…HAHAHA!You're jokin'!I can't believe my ears!!大体ね、オルルェは先程までlassと観光してたんです。証人なら隣に」
「そうですよ、私ずっと一緒にいましたから。確かにセンセイは人死にが見たいって言っていましたが」
そこまで言ってチベスナはハッと口元を抑えた。不幸鳥は仮面越しに睨め付けた。
「もう証拠は充分だと思いますけれど。彼女の言葉と、私の撮ったこの写真こそ…何よりの証拠です」
そこへ口を挟む女がいた。不幸鳥は彼女を知っている。ロビーでぶつかってきた女。見覚えのあったあの女。
「…What the hell?……駄目仙人?」
女の掲げた写真には、被害者の部屋に忍び込む不幸鳥の姿、被害者と揉める不幸鳥、ナイフの刺さった被害者を見下ろす不幸鳥の姿があった。
「貴女が一番わかっている筈ですよね?全て話しなさい。署でね」
駄目仙人と呼ばれた女性は、一足先に警察へ証拠を提出しに向かった。
「さあ来てもらいますよ容疑者君!ヤッター事件っぽい事件で犯人っぽい人逮捕しちゃった!やったねRichard君!」
「逮捕じゃないですし……事情聴取ですし」
二人の刑事にがっちり掴まれた不幸鳥は連行されていった。
「ちょっ…ふざけるな、本気か!?離せ!私は不幸鳥だぞ、やめろーッ!!」
捨て台詞を残し、車両に詰められるセンセイをチベスナは呆然と見ていた。
「ど、どうしよう」
やがて金髪赤マントの騒がしい刑事がどかどかと戻ってきて、
「ガハハ!忘れてた!!君も来てね!!」
チベスナを引っ張っていくのだった。
二人の旅行は、普通の旅行にはならなかったのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?