義体不幸鳥急行殺人事件Ⅳ

つづきでーす 明らかにされる真実──!

 チベスナは呆然としていた。センセイが死んだ?容疑者にされただけでなく、誰かに殺された……?わけがわからない。悪意だ、なにかの悪意しか感じられない。どくどく庵女将は、そんなチベスナに何も言葉を掛けられなかった。するとある人影がチベスナへ向かっていった。若女将は止めようとした。
「大変なことになりましたわね。どうか気を落とされないで?」
駄目仙人だった。チベスナは彼女と話したくはなかった。その場を立ち去ろうとする。
「お待ちになって!私あなたが心配なの!」
「放っといてください!センセイを殺したかも知れない人と……一緒にいたくはないです」
チベスナは走り去った。駄目仙人はその場に取り残された。
「……殺した……?私が……?」
一人首を振る駄目仙人。そんな彼女たちの様子を見る影があった。皮肉にも、誰一人それに気付くことはなかった……

 若女将はチベスナを探し歩く。色々な事件が巻き起こり、その渦中にある彼女が気にかかっていた。自らも随分と取り調べを受けたり、ガサ入れに入られたりしたがあらゆることが謎のまま。彼女は何か知っているのだろうか。不幸鳥という人は本当に殺人犯だったのだろうか。死んだという事実は確かなのだろうか。よくはわからないが、このままでは危険なのはチベスナであるのではないだろうか。放っておくわけにはいかない。
「どこに行かれたのかしら……」
見失ってしまったようだ。あまり考えたくはないが、自棄など起こしてしまったりはされたくない。そのとき、若女将は何者かに手を引かれ物陰に引きずり込まれた。
「何!?誰なの!?」
大声をあげようとしたが、その口を塞がれた。そのまま建物の陰を縫うようにどこかへ連れていかれてしまった。

 「えッ、遺体のロック全解除!?」
自分のデスクでお茶を啜っていたゴリラ入間は、Richardから報せを受け取った。
「はい……とんでもない事実が浮上したのです…」
彼女はあまり表情には出ていないが、焦りと驚きのようなものを感じているようだった。ゴリラ入間もRichardが差し出した写真と資料を交互に眺め、お茶を一口含み……噴き出した。
「Richard君……我々はとんだ思い違いをしていたようです」
ゴリラ入間はキリリと表情を繕い、デスクを立ち上がった。
「やめてください、杉下さんやめてください。深刻な事実なんですよ!この水死体、全く不幸鳥容疑者じゃなかったんですからね!」
「わかってるよ!ガイシャは『日向寺皐月』さん、身元は不明!何故か不幸鳥容疑者の姿をしていた!」
二人は廊下を早歩きしながら情報を整理する。速い速い。なんて速さだ!そしてなんとフォームの美しい早歩きでしょう!賞賛すら贈りたいほどの競歩である。
「ガイシャは容疑者に酷似したかつらを着用、露出した一部は人工毛でなく不幸鳥容疑者の毛髪そのものだった!」
「採取された皮膚もまた然り!その一部に容疑者の皮膚を貼り付けていただけ、と!!」
「我々は!」
「騙されていた!」
「「真の犯人は!まだ野放しにされている!!」」
二人は勢い良く署から飛び出し、パトカーへ乗り込んだ。走れ!ダブルデカ!!行け!法定速度で!!

 誰なの?誰が私をどうしようとしているの…?目と口を塞がれたままどこかへ連れて行かれる若女将。彼女はこの辺でいいだろ…と囁く声を聞いた。男とも女とも取れない声だった。それと共に、視界が開けた。ここは…そんなに遠くではない。怪しい場所でもない。しかしなかなか人目には付きにくい路地裏だ。口を塞いでいた何者かの手も離れた。
「何ですか、誰……」
振り向いた若女将は驚きに目を見張り、はっと両手で口許を抑えた。
「Greetings and felicitations,女将?」
我々はその人物を知っている!我々はこの言い回しを知っている!!若女将は思わず目を擦り、頬をつねった。それからいたたと呻いた。
「貴女は……不幸鳥さま…!?」
そこへ立っていたのは紛れもなく不幸鳥その人であった。彼女は仮面越しにウインクなどしてみせた。間違いない。不幸鳥、健在である。


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