アンジェラ(3)

ひと月以上更新が途絶えましたが続きです。
まだ続く。

 天使と過ごし始めて一週間。過程をいきなり飛ばしたのはその間特筆すべきことはなかったからだ。相も変わらず傍に貼り付かれて説教される毎日である。そうやって過ごす時間の中、俺はあることに気付いた。
「思い出した。じいちゃんはボケてたから、よくうちを脱走していたんだけど、一回だけご近所の人にも家族のみんなにも見つからなかったときがあった」
そうやって徘徊したとき、近所の人や家族で捜索するのが常だった。だいたい近くにいて、見つけ次第連行されてた。それなのに。
「思えばそのときからだったかもしれない。あんたがじいちゃんの傍に見え始めたの」
警察にも話して、けっこうおおごとな捜索をした。それでも見当たらなかったけど、じいちゃんはふらっと帰ってきた。夜の10時過ぎに。天使と一緒に。
「あのとき何があったわけ?少し…想像はつくけど」
天使は淡々と当時のことを答えた。
「お察しの通りですよ。お祖父様も自殺を試みようとしていたのです。貴方と同じようにね」
やっぱりそうだった。天使が前に言っていた「天国へ行けない魂」のことを思い出せば当然の答えだった。それでも、俺の記憶しているじいちゃんはそんなことをするような人には見えなかったし、そうしようとしていたこともなかった。
「当然です。私の目が黒いうちはそのようなことはさせませんわ」
そうだね。いやそうじゃなく。
「ですが、人は見かけにはよりませんよ。それに…これはしばらく過ごしてわかったことですが、貴方のお祖父様はボケてなどいませんでした」
なんだって?そんなの、聞いていない。誰も教えてくれなかった。知らなかった。だって、じいちゃんはいつもわけわからないこと言ったし、物忘れもひどかった。はずだ。天使の言うことが本当ならば、それは。
「さもボケているように演じていたのです。本来はとても理性的で、御歳のわりにとてもしっかりとしている方でした。しかし、それ故になのでしょう」
「なにがなんだ?」
「あの方は少々、頭が回りすぎる。それから考え込みすぎる。考え込み、考え込み…自分を知らずのうちに追い込んだ。結果、自分はもう、必要ないなどと思い至った」
理解が追い付かない。いつだってじいちゃんは、俺にはただのアホにしか見えなかったのに。だというなら、真にじいちゃんを理解していたのはただ一人、天使だけだということになる。
「私たちは自殺を許しません。どんな事情があってもね。そういう仕事なのです。そんなことを二度と起こす気にならないようビシバシと。その原因や心を治していきます。その為にはその方を誰よりも理解する必要がある」
やはり厳しい、しかし優しいとも言えるだろう。何より付き合いがいい。こんなこと、誰も買って出ようとはなかなかしない。
「そうか。仕事熱心なんだな。……当時何があったかはわかった。その、なんというか…色々とありがとう、っていうか…」
目を逸らしつつぼそぼそと言うと、礼は自信無げに言うなと叱られた。彼女の前では照れなど無意味。覚えたぞ。
「とはいえ良い傾向です。お礼を言えるようになりましたか。この様子であれば、そろそろ行けるかもしれません」
おっと。これは、ついに?
「天使を見たいのでしたね。近いうちに、見に行きましょう。どうぞよく見ていくように。私たちの仕事を」
とうとうきた。天使以外の天使を見るチャンス。キリンの天使とかいるんだっけ。この人より優しい素敵な天使もいるかも。楽しみになってきた。

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