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生産者さんたちは皆知っている、“良い靴下”と“悪い靴下”の世界(ダブルシリンダーがすごい)

今年はじめたnoteへの投稿、実に2ヶ月ぶりになってしまいました。

やはりさすがに忙しすぎて、文章をじっくりと書く時間を作るのはなかなか難しいところはあるのですが、まもなく【HUISのくつした】をリリースすることができるタイミングで、この特別な靴下を作ってくださっている、岐阜県関市・東洋繊維さんへの想いをと投稿しました。

HUISのくつした


東洋繊維さんとの出会いは、昨年秋の名古屋松坂屋イベント「びしゅう百貨店」がきっかけでした。

東洋繊維さんとの出会い

専務の水谷陽治さんとはじめてお会いした時には、はじめてなんですが、はじめての感じがあまりしなかったことをよく覚えています。それくらい人当たりが良く、心地よくお話をさせていただいたのが陽治さんでした。

岐阜県関市

冒頭、東洋繊維さんの解説を少しだけさせていただくと、岐阜県関市にある創業約85年の靴下工場。代表は陽治さんの兄・水谷顕治さんで、現在3代目になる老舗企業さんです。

関市は主に「刃物」が有名な、まさにものづくりの街です。木曽川水系の一級河川・清流“長良川”の流れる美しい景色が広がります。

そして、陽治さんはもともとスノーボーダー。お兄さんも似たような出自で、とても人生に奥行きあるご兄弟が経営されている会社さんです。

HUISのくつした


今月(4月)末にいよいよリリースとなる【HUISのくつした】ですが、HUISで靴下を作りたいという構想は何年も前からありました。

【HUISのくつした】の構想

旧式のシャトル織機で織る“遠州織物”をほぼすべての製品に使用しているHUISですが、遠州織物は「布帛=織生地」だけになるので、洋服を作る仕事をしていると、どうしてもそれ以外のものも作りたくなります。

それで、2021年にスタートしたのが和歌山の生地で作るカットソーブランド【HUIS in house】です。

HUIS in house

アパレルブランドにとっては、コーディネートの提案も楽しみのひとつで、【HUIS in house】をはじめて僕たちの楽しみの幅がすごく広がりました。
靴下もやはり同じで、足元のコーディネートはすごく楽しいし、なにより僕たちは靴下が好きです。

【HUISのくつした】を作るのであれば、遠州織物でつくる最高品質のシャツのような靴下。HUISに寄せてくれる信頼に応えられる、特別な靴下を作りたいという構想でした。

そうしたなかで靴下の生産背景についていろいろと勉強をはじめることになるのですが、国産編機「ダブルシリンダー」のことを知るまでにそれほど時間はかかりませんでした。

旧式のダブルシリンダー
現代のK式シングルシリンダー

現代において靴下生産の主流の編機というのは、「K式シングルシリンダー」になります。シングルシリンダーは複雑な柄ができコンピューター制御で効率よく生産することができます。

一方、職人さんによる多くの手作業を必要とする旧式の「ダブルシリンダー」で編む靴下は、「シャトル織機」で織るシャツ生地と同様、とても非効率です。ですが、その非効率性と引き換えに、特別な履き心地や日用耐久性など多くの機能性を持ちます。

上釜と下釜の2つがあるのがダブルシリンダー。上針と、下針で編んでいくため自然なリブ編みとなって、生地自体が伸縮性に富んでいる、というところが、やはり気持ちよさのひとつの要因だと個人的にも思っています。

ダブルシリンダーで編んだ靴下は格別にいい!ということは、産地の方や、靴下生産に関わる人、は実際誰もが知っていることのようで、やはりそこもシャトル織機と共通する部分なのですが、一般のお客さまにはほとんど知られていない。

ネットで「靴下 ダブルシリンダー」と検索してみても、分かりやすい情報は全然出てくることがなくて、このあたりの歯痒さはじつに繊維業界らしいな〜と思います。

複雑な調整を要するダブルシリンダー

あきらめかけた、靴下工場探し

で、いずれにしてもHUISで靴下を作るのであればダブルシリンダーの選択肢しかない、ということはかなり前からはっきりとしていました。

ただ、いろいろと調べていくほどに、ダブルシリンダーはほんとに手間がかかる。そうすると、ダブルシリンダーで編むことができるのは糸が太く、少ない本数で編む、地厚な靴下がほとんどだと知るようになります。

スキーの靴下、とか秋冬用の雪柄の靴下、とかをイメージしてもらうと分かりやすいと思うのですが、こうした靴下はほとんどがダブルシリンダーで編まれています。なので、こうした靴下の多くはすごく長持ちするし履き心地の良い靴下です。

でも、僕たちがHUISで作りたいと思っていたのは、地厚な靴下ではなくて、軽やかなシャツに合わせられるすっきりとした薄さの靴下でした。一年中は履くことのできる適度な厚みの靴下が作りたかったのです。
そして、そうした靴下を編めるダブルシリンダーはほとんどない、ということを知ります。

「細い糸で、糸の本数の多い規格」の靴下をダブルシリンダーで編もうとすると、調整にかかる手間が一気に増えてしまうため、現実的には難しい。
だから、実際には、経営に耐えられる規格を編むダブルシリンダーだけが残ってきた、というのが実情なのだと思います。

さらに、巷にあるような華やかな柄のある靴下を、ダブルシリンダーはほとんど編むことができません。こうした柄を表現できるのが、現代の主流となっているK式シングルシリンダーの大きな強みなのです。

HUISは、自分たちのものづくりを通して、繊維産地を知ってもらうことがひとつの役割だと思っています。
靴下の産地といえば、やはり「奈良」。できれば奈良でパートナーとなる工場を見つけたいと、仕事で関わる方々を通じて、長い期間産地の靴下工場を探してきました。

ですが、一年を通して履きやすい薄さでかつ、足元を華やかに彩ってくれる靴下を編めるダブルシリンダーを見つけ出すことはできませんでした。

東洋繊維・専務の水谷陽治さん

国産最高傑作の編機「1970年代巻き取り式ダブルシリンダー」

こうして、諦めかけた中で最後に出会うことができたのが、東洋繊維さんだったのです。

陽治さんたちが残してきた1970年代の巻き取り式ダブルシリンダーは、176本のミドルゲージでかつ、柄を表現できるジャガード編みができる、希少な編機でした。
編み立てる靴下の細部にまで気を払い、複雑な調整とメンテナンスを重ねて、決して途絶えさせてはならないと大切に使い続けてきた特別なダブルシリンダー。

1970年式巻取り式ダブルシリンダー

生産効率が悪く、その価値が一般的に知られることのないこの旧式のダブルシリンダーを使い続けるのは、大変困難な道だと思います。高速で複雑な柄が編める、最新式の編機だけを使うことのほうがよほど楽です。

でも、この巻き取り式ジャガードダブルシリンダーを使い続けるべきだと考える理由があるから、陽治さんたちは残し、そして扱える職人さんたちを育ててきました。

HUIS youtubeチャンネルより

この機械がいかにすごいか、という解説を、短い一言ではまとめるのはなかなか難しいので、今回はHUISのyoutubeチャンネルで陽治さんを迎えて詳しく解説する、という形をとることにしました。
ダブルシリンダーの持つ特別な利点を、言葉にできる陽治さんだからこそできた形です。

時代に逆行し、守り続けてきた東洋繊維さんの力強い意志を、僕たちは【HUISのくつした】を通して伝えていけることが、楽しみで仕方ありません。

youtubeチャンネルでは、①スタジオトーク、②陽治さんとのコラボトーク、③工場でのダブルシリンダー生産工程取材、の3回に渡って配信していきます。

靴下づくりの裏側が分かるようになると、ファッションももっともっと楽しくなるはずです。
ぜひご覧いただければ幸いです。

■HUIS youtubeチャンネル
①スタジオトーク

②陽治さんとのコラボトーク
4/23配信予定

③工場でのダブルシリンダー生産工程取材
4/27配信予定


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