ウルトラハッポーブレインデッドセンパイキッスオブベロシティ

「祖母ちゃんのさ、あ、兎じゃないほうの祖母ちゃんな、口の中に紙切れが入ってたんだよ。丸めたやつ。レシートかと思ったけど、けっこう固めの紙でさ、広げてみたらよくわかんねえ記号が並んでんの。あれやっぱ暗号かなあ」
 僕の先輩は昔やらされたよくない薬の影響で、たまに誤作動を起こす。
 他人名義で借りている2DKの部屋をうろつき、まるまる盛り上がったアフロヘアをぼりぼり搔き、どんよりした目つきで意味不明なことを呟き、ゲロを吐いて倒れる。
 比較的まともな時は、だいたい僕からせびったハッパを吸っている。
 僕はといえば、そいつの自家栽培に失敗したばかり。知り合いのツテで種は手に入れたのだが、そこでちょっとした事件が起きたのだ。
 ある朝、来客があり玄関に出ると、公安警察を名乗る二人組が立っていた。
 なんでも近隣住人の通報で、僕らと、ある新興宗教団体との関連が疑われたらしい。数年前、都内で爆破テロを起こした連中だ。今も実行犯の数名は日本のどこかに潜伏している。
 もちろん僕らとは無関係だ。しかしクルタを着たアフロ頭の人間が昼夜かまわず出入りしていれば不審がられても仕方がない。そんなわけでガサ入れを受けたのだが、出てきた物で宗教と関係ありそうなのは、せいぜいサイババの自伝ぐらい。結局ただのヒッピー外人として放免になった。例の種はマッチ箱に隠してあり見つからなかったのだ。めでたしめでたし。
 それでも先輩は疑心暗鬼に陥り、日本政府に監視されていると思い込み、貴重な種をトイレに流してしまった。先輩曰く、今も向かいのビルの屋上から黒服の男が見張っているそうな。
 壊れた脳ミソにしては、まともな考えだ。
 だけどひとつ、間違っている点がある。
 先輩を追っているのは公安ではなく、CIAだ。
 奴らは研究施設から逃げ出した被検体を血眼になって捜している。
 洗脳実験によって生み出された、最凶最悪の暗殺者である先輩を。

 【続く】
 

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