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アブソリュート・チェアーズ(埼玉県立近代美術館)

会期終了間近の平日の夕方、館内は空いていた。静かな状態で椅子たちを鑑賞できたのはすごくよかった。


1.美術館の座れない椅子

1-1.デュシャンの「自転車の車輪」(京都国立近代美術館)
木製のスツールの上に自転車の車輪が乗っている椅子。当然座れない。というかスツールはただの台座として使われていて椅子だと思われていない。

1-4.草間弥生の「無題(金色の椅子のオブジェ)」(高松市美術館)
椅子としての形は保っているけれど、ファルスを思わせる突起が全ての表面を覆っていて「座られることを拒否した美術館で展示される椅子そのもの」といった感じ。

1-5.岡本太郎の「坐ることを拒否する椅子」(甲賀氏信楽伝統産業会館)
タイトルとは裏腹にこれは会場でも自由に座っていい椅子。陶器でできている。

会場で座れる二脚の椅子

2.身体をなぞる椅子

2-3.フランシス・ベーコンの絵がある。「座れる人物」(高松市美術館)
人の形を保っているようなそうでないような、そんな人物が椅子に座っている。

3.権力を可視化する椅子

3-1.工藤哲巳「イヨネスコの肖像」(京都国立近代美術館)
良かった。一言でいうと「グロテスク」なのかもしれない。けれどこの不合理な作品にはなんとなく品がある。
ちなみにタイトルのイヨネスコは、ウジェーヌ・イヨネスコのことで、フランスの不条理演劇を代表する作家の一人。

3-3.クリストヴァオ・カニャヴァート(ケスター)「肘掛け椅子」(国立民族学博物館)
銃を溶接して作られた椅子。これも良かった。

銃の形がそのまま

4.物語る椅子

2-4.ハンス・オプ・デ・ビーク「眠る少女」(タグチアートコレクション/タグチ現代芸術基金)
すごくリアルでよかった。素材がポリエステル、アルミニウム、塗料になっているんだけど、ソファはポリエステルという解釈でいいんだろうか。 

4-1.宮永愛子「waiting for awakening -chair-」
出品リストに所蔵が載っていないということは埼玉県立近代美術館の所蔵かな。だとしたらこれを見るためだけにまた来てもいいかも、そう思うほどいい作品だった。
ナフタリンでできた椅子を樹脂で閉じ込めた作品。ナフタリンの気化を防止するシール(封)がしてある。シールをはがせばナフタリンが気化して樹脂のなかには椅子の形をした空洞ができあがる。もちろん作品としてシールははがせないんだろうけど、空想の未来を鑑賞者に想像させることでこの作品はすごく人の心を惹きつける。樹脂に入っている気泡もいい。

4-3.名和晃平「RixCell-Tarot Reading(Jan.2023)」
これも面白かった。椅子とテーブルを覆いつくす水晶。テーブルにはタロットカードが広げられているはずだが水晶のせいで何が並べられているのかよくわからない、そんな作品。

5.関係をつくる椅子

5-3.ミシェル・ドゥ・ブロワン「樹状細胞」
これは埼玉県立近代美術館のなかで吊るされていた。常設されているのかしら。

5-6.副産物産店の座れる椅子各種
ペール缶に木材を入れて座れるようにしてあるのとか、使用済みのクレート梱包を使って椅子にしたりとか。

椅子が身近な家具で用途が決まっているからこそ、現代アートにとして捉え直すと面白かった。
ちなみに館内にはSPY×FAMILYの表紙を飾った「マシュマロ・ソファ」もある。埼玉県立近代美術館は椅子をコレクションしているから。

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