ゼロ書民法 #08 有権代理、無権代理
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#08のテーマは 、有権代理と無権代理です。
代理はめちゃめちゃ重要なしくみです。必ず手を動かして、反復トレーニングで、身体で使い方を覚えましょう。
有権代理
代理制度の機能
あなたは資産家で、同時進行で複数の財産を売ったり買ったりしたいとしましょう。
取引相手を見つけて、価格交渉をして、契約をして、納品して、登記して…などの取引活動をすべて自分自身でやることには物理的限界があります。
代理は、取引(法律行為)を他人に任せて本人の代わりにさせる制度です。代理により、他人の能力・機会を活用して、一個人の限界を超えることができます。
有権代理の要件・効果
取引を代わりにやってくれる人を代理人、取引をお願いする人を本人といいます。本人をA、代理人をB、相手方をCとします。
有権代理の要件は、①(③に先立つ)代理権授与、②顕名、③代理行為、です(99条1項)。
まず、③代理行為とは、代理人Bが相手方Cとの間で、本人Aに代わって契約を締結することです。
①(③に先立つ)代理権授与とは、本人Aが代理人Bに契約締結を依頼し、その権限を与えることです。①代理権授与→③代理行為、という時系列です。
②顕名とは、③代理行為に際して、代理人Bが相手方Cに対して「この契約はAのために締結しますよ」と示すことです。
有権代理の効果は、本人への効果帰属です。
代理人Bが相手方Cとの間で交わした契約の当事者は、B・Cではなく、A・Cとなります。
例えば、BがAを代理してCより不動産を買ったとき、AはCに対して売買代金債務を負うと同時に、Cに対して目的物引渡債権を取得します。不動産の所有権はC→Aに移転します。B・C間では債権・債務や物権変動は発生しません。
法定代理権に基づく有権代理
例えば、親権者を代理人、子を本人とする関係が典型例ですが(824条)、代理権授与によらず、法律の規定にもとづいて発生する代理権があり、これを法定代理権といいます。
法定代理の要件は、①法定代理権、②顕名、③代理行為、です。
無権代理
以下では、有権代理の要件をみたさないケースを説明します。
顕名のない代理行為
顕名(代理人Bが「この契約はAのためですよ」と示すこと)がなければ、有権代理の要件をみたさないので、本人Aに効果は帰属しません。
相手方Cからすれば、顕名がなければBと契約したと思うでしょう。したがって、顕名のない代理行為は代理人に効果が帰属します(100条本文)。B・C間で債権・債務や物権変動が発生します。
ただし、顕名がないときであっても、相手方Cが、代理人Bが本人Aのために契約を締結していることを知り又は知ることができたときは、本人Aに効果が帰属します(100条但書)。代理人Bを当事者と扱う必要はないからです。
(顕名のない代理行為は、後述する「無権代理」とは異なるケースですが、無権代理と同様に有権代理の効果が生じないケースであるため、無権代理の章に含めて説明しています。)
代理権のない代理行為(無権代理)
代理権(授与行為)がないままなされる代理行為を無権代理といいます。無権代理は、有権代理の要件をみたさないので、本人Aに効果は帰属しません。
無権代理人の責任
無権代理になると、相手方Cは契約の目的を果たせず不憫です。他方、代理人Bには代理権がないのに代理行為をした落ち度があります。そこで、無権代理がなされたときは、相手方Cは無権代理人Bに対し、契約の履行又は損害賠償を求めることができます(117条1項)。
ただし、無権代理であっても、相手方Cが、無権代理であることを知り又は知ることができたときは、Bはこの責任を負いません(117条2項)。Cにも落ち度があるからです。
無権代理の追認
代理行為の時点で無権代理であっても、本人Aがその取引を望むのであれば、事後的にAに効果を引き受けさせてもいいでしょう。Aだけではなく、B・Cにとっても利益になるはずです。
そこで、Aが追認(無権代理の効果を引き受ける意思表示)したとき、無権代理の効果は本人Aに帰属します(116条)。追認は、後出しの代理権授与行為です。
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