見出し画像

ゼロ書民法 #15 抵当権

本連載のコンセプト・料金プラン・記事公開状況は、下記ポータル記事をご覧ください。
スマートフォンで記事をお読みになるときは、横長の画像が小さくなることがあります。画像データをダウンロードして参照いただくか、スマートフォンを横置きにしてブラウザで読むことをおすすめします。

#15〜#17の3回にわたり、担保物権を説明します。#15では、抵当権を説明します。

最初に理解しておいてほしいのは、担保物権は借金のカタである、ということです。借金を返さないときに、代わりに物を持っていくしくみです。


債権担保

債権者平等の原則

ある債務者が一向に借金を返さないとしましょう。
このとき、債権者は、民事訴訟・民事執行制度を利用して、債務者の資産を現金化するなどして、貸金債務の弁済に充てさせることができます。

しかし、同じ債務者について他にも債権者がいるときは、一債権者が換価金を独り占めすることはできず、平等に分配されます(債権者平等の原則)。
債務者がお金を返そうとしない理由はさまざまですが、債務者が方々からお金を借りており、債務超過(保有資産を全部処分しても借金を返しきれないぐらい、多くの債務を抱えている状態)になっているケースが多々あります。

このとき、各債権者は、少ない換価金を、債権額で按分して配当を受けるため、一部しか回収できません。これは債権者に不都合です。
これは債務者にとっても、「全部払わなくて済んでラッキー✌️」で済む話ではありません。回収不能の危険があるため、信用リスクのある債務者と取引を控える者がでてきます。これは債務者に不都合です。

債権担保の必要性

債務者の財産から、他の債権者に先立って弁済を受けることができれば(これを優先弁済といいます)、債権者は安心して債務者と取引できます。債務者も取引機会を確保できます。
このように、債務不履行に備えて別の弁済の手段を確保・提供することを担保(債権担保)といいます。
上図の例では、債権者Cは、価額500万円の住宅建物を担保にとることで、担保をとっていないときより350万円多く回収することができます。

人的担保

担保は、人的担保物的担保に分かれます。

人的担保
は、保証人の返済能力を備えとする債権担保制度です。債務者が借金を返さないとき、保証人に代わりに払わせるしくみです。
保証人の義務を保証債務といいます。保証債務は保証契約(446条)などにより発生します。
人的担保は、担保の設定・実行が比較的かんたんですが、保証人が無資力のときは回収できないリスクがあります。

物的担保

物的担保は、物の価値を備えとする債権担保制度です。債務者が借金を返さないとき、担保物を売却させて、その換価金から借金を回収する制度です。
物的担保は、当事者による合意や法定事由により発生します。なお、債務者本人だけではなく、第三者の所有物を担保物にすることができ、物的担保を提供する第三者を物上保証人ぶつじょうほしょうにんといいます。
物的担保は、担保の設定・実行が比較的煩雑ですが、担保物の価値低下・毀損等がない限り回収できるので、確実性が高いです。

担保物権

担保物権とは

担保物権は、債務者が借金を返さないとき、担保物を売却させて、その換価金から借金を回収させることができる権利です。物的担保にかかわる権利です。
大きくは、契約により発生する約定やくじょう担保物権、法の要件をみたすときに自動的に発生する法定ほうてい担保物権に分かれます。

担保物権のイメージ

担保物権は、イメージとしては用益物権と逆の内容の権利です。不動産利用権はもとの所有者に残しつつ、不動産処分権のみを担保権者に与えます。

代表的な担保物権の種類

上図に、代表的な担保物権の種類をまとめています。現時点ではなかなかピンとこないかもしれません。後で見返すなどしてください。

担保物権の比較

上図は、代表的な担保物権の性質を比較したマトリクスです。こちらも後で見返してもらえればOKです。
法定/約定、目的物の範囲、留置、このあたりの観点で比較すると、各担保物権を整理していきやすいです。

担保物権の2フェーズ(成立・実行)

担保物権の学習にあたっては、①担保物権の成立(設定/発生)②担保物権の実行、という2フェーズを必ず念頭においてください。
①担保物権の成立(設定/発生)は、担保物権の実行のためのいわば準備作業です。②担保物権の実行は、債務不履行をトリガーとして、いよいよ担保物権が機能するタイミングです。
上図は抵当権を用いた2フェーズの例です。詳細は後述します。


抵当権ていとうけん(全体像)

それでは、抵当権ていとうけんを説明していきます。
抵当権は、住宅ローンにおける担保として利用されるので、一般消費者に最も身近な担保物権です。
抵当権は、不動産にしか認められていません。(動産抵当権は、特定種類の動産についてのみ、特別法によって認められています。)

抵当権の設定

抵当権は、抵当権設定者(=不動産所有者)抵当権者(=債権者)の間で、抵当権設定契約が締結されることにより、成立します。なお、抵当権設定者には、債務者だけではなく第三者(物上保証人)もなることができます。

抵当権成立の前提として、被担保債権ひたんぽさいけんが存在しなければなりません。抵当権は借金のカタだからです。被担保債権に係る債務がすべて弁済されて消滅すれば、抵当権も消滅します。

不動産は設定者が従前通り使用します。このように、抵当権は不動産の使用収益に介入しません。

前述の通り、抵当権者は不動産の使用収益にかかわってこないので、不動産管理・使用の態様をみても、抵当権の存在を把握できません。
抵当権は不動産物権なので、不動産登記により公示されます(177条)。抵当権の存在は、不動産登記事項を確認することで把握できます。

抵当権の実行

抵当権者は、被担保債権に係る債務の不履行をトリガーとして、抵当権を実行することができます。

担保物権の実行とは、担保物を利用してお金を作ることですから、売る/貸すのどちらかです。
抵当権実行の方法のうち、不動産を売るものを担保不動産競売たんぽふどうさんけいばい、不動産を貸すものと担保不動産収益執行たんぽふどうさんしゅうえきしっこうといいます。
担保不動産競売は、不動産をオークションにより売却して、売買代金を回収に充てるものです。任意売却ではなく、競売によります。
担保不動産収益執行は、不動産を賃貸して、賃料を回収に充てるなどするものです。

被担保債権のうち、抵当権の実行により回収できなかった部分は、無担保債権として残存します。

抵当権設定・弁済・実行による物権変動

抵当権を、物権変動の側面から見てみましょう。

全体像としては、①抵当権の設定により目的物の所有権が分解・分属し、②その後のイベントにより、分属した権利が抵当権設定者/抵当権者いずれかの所有権に統合されます。分かれて、くっつくイメージです。

抵当権の設定により、抵当権者は抵当権を取得します。設定者には抵当権負担付き所有権が残ります。
設定者がこのまま目的物を譲渡したとき、譲受人は抵当権負担付所有権を取得します。譲受人は、設定者の債務不履行により抵当権を実行されて、所有権を失う危険があります。被担保債権額が大きいと、目的物の価値は実質的にゼロとなることもあります。

被担保債権の弁済により、抵当権は消滅します。設定者は目的物所有権を取り戻します。

抵当権の実行により、設定者は目的物所有権を確定的に喪失し、抵当権者がこれを確定的に取得します。(正確には、競売買受人が所有者になります。)

抵当権実行の要件

抵当権実行の要件は、①有効な抵当権が存在すること②被担保債権に係る債務が不履行であること、です。
①有効な抵当権が存在することのサブ要件として、(1)被担保債権の存在(2)抵当権設定契約(3)抵当目的物の所有、があります。あてはめは上図を参照してください。
他の担保物権の実行要件も、枠組みは抵当権と同じです。

実は、ここがこの記事で一番いいたかったところです。担保物権も、要件・効果モデルで理解していきましょう。
担保物権を学習するとき、物上代位などの個別論点にとびついて、論証を覚える形になりがちです。しかし、これらの個別論点も派生形なので、まずは要件・効果モデルを使って基本的理解をつみあげていきましょう。


ここから先は

2,964字 / 13画像 / 2ファイル

¥ 880

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?