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「あなたと心つなぎたい」製作裏話 #お話

ストーリー

「はあ。」
大きなため息をついた理子。ドキドキしながら理科実験室に来た。そんな自分がバカらしくなったのだ。
「まぎらわしいのよ!」
ちょっと怒った口調は彼に向けられたものではなく、自分に向けたものだった。
小声で「放課後理科実験室に来てくれ。お前が必要なんだ。」なんていうものだから、てっきり告白してくれるものだと思ってしまった。
「なんて私バカなの。」
そう、彼が、実験失敗していたのも授業中見ていたから知っている。だから「理科室来て。」というのは「再実験に付き合って欲しい。」ってことなのに勘違いしてしまった。どうも彼のこととなるとうまく行かない。
「失敗しないように昨日ポイントをメモして渡しておいたのに、あいつは見ていなかったに違いない。」
そんなことをつぶやきながら彼を待っている。
彼の心も実験のようにちゃんと結果が出てくれればいいなと思っているのだけれどそうは行かないなとまた大きなため息をついている。

彼はよく可愛らしいふわふわ女子を追いかけている。私には全くない要素だから仕方ない。白衣に地味なヘアスタイルよりもきちんと可愛らしい女子に惹かれるのは当たり前だ。私はそうしていないのだから仕方がない。そう割り切っているけれど、少しぐらい振り向いて欲しいと思うのは乙女心。そう自問自答し落ち込んでいく。

以前、彼の心にハッキングをかけた。そうして好きな相手を私に書き換えれば好きになってもらえると考えたからだ。何重にもかけられたプロテクトを外すのは苦労した。普通こんなにもかけていないプロテクトに彼の絶対知られたくないという意気込みまで感じた。それでも私はプロテクトを外した。だけど最後の扉は開けられなかった。彼の心に入って好きでもない私に書き換えてしまったら、それは彼なのだろうか。私が第三者からハッキングを受けて、彼を好きな気持ちを書き換えられたらどんなに辛いだろう。だからやめたのだ。今ではやめてよかったと思っている。でも振り向いてもらえないのも辛い。

もし彼の方から私のWi-Fiに入りたいって言ったらすぐパスワード教えてあげるのにな。心の奥底まで見せるというのではなく、まず彼とつながりたい。素直に彼と話がしたい。昨日のテレビの話、面白い動画の話、お話のような曲を書くボカロP”風月”の話。いろいろしたいのだ。何なら宿題だって見せてあげてもいい。あんまりやりすぎると彼のためにならないかな。そんな想像して笑っては見たけれど、夕日の射した理科実験室にひとりだった。

いつまでたっても彼がこないので、実験を始めた。実験では塩酸を使う。塩酸のビンを探す。
「硫酸や硝酸はあるのにな。」
肝心なものがない。まるで誰かの恋のよう。

以前とても薄くした塩酸を先生に舐めるように言われたが、彼が私に代わって舐めてくれた。
「酸っぱい!理子も舐めてみろよ。」
ってガラス棒受け取って舐めたら、
「酸っぱい!塩酸って酸っぱいんだね。」
って笑い合った。
あとで間接キスだと気づいたときは顔が真っ赤になった。

あのときから何も進んでいない。進めてうまく行くのならいいのだけれど、うまく行かなかったときに家が隣だと気まずい。それに耐えられはしないのだ。もう前にも後ろにも進めない。どうにもならない恋なのだ。

彼の代わりに実験をする。
大体の実験データは取ってあげて私のレポート見せれば何とかなるでしょう。
「結局来ないのかな。」
「私に魅力がないからかな。」
「口紅は校則で禁じられているから色つきリップしてみようかな。」
「髪型もツインテールにしてみようかな。」
考え事をしながら実験していたら手元が狂った。
その瞬間大きな音を立てて爆発した。
目の前が真っ白になり気絶した。

そこは夢の世界だった。
ふわふわと足がついていない。それもそのはずだ。何と彼にお姫様抱っこされている。
大丈夫、私重くない?なんか変な匂いしていない?
変な心配事は出てきた。でも彼の胸に抱かれながらほっとしていた。何だか安らぐ。安心したらまた意識が遠のき、霧が辺りを包んでいった。

ハッと思い目を覚めると天井が見える。どうやら保健室のベットの上で寝ているようだ。
「ん?なぜ保健室に?」
そう思うと今までのことを思い出していた。
そうだ理科実験室で実験をしていた。実験を失敗して爆発。その後気を失ったのだった。
ではなぜ私は保健室にいる?その先を思い出すと、彼にお姫様抱っこをされている夢だった。
「何だか妙にリアルだったな。もしかして本当に…。」
口に全部出す前に赤くなってしまった。
今、保健室には私ひとりだ。先生もいない。

そこで気づいたのは、”Wi-Fiがつながっている”ことだった。
これは自分のWi-Fiではない。パスワードを解析したらすぐわかった。このパスワードは見覚えがある。
「あっ!」と気づくと顔を赤くし緊張してきた。なぜ私は彼の心の中にいるのだろう。普通パスワードがわからないと入れないものだ。しかし中にいるということは、彼が招待してくれたのだろうか。何かの間違いで入ってしまったのだろうか。
以前扉の外まで来たけれど入るのをやめた彼の心の中だ。このまま進んでもいいのだろうか。彼が招待してくれたのなら進みたい。でも間違いなら進むべきではない。
ではもし進んでいくとどうなるのだろう。彼の幾重にもかけたプロテクトの中にいるのだ。誰のことが好きで、誰のことが嫌いでもわかってしまうだろう。好きだとは思われていないだろうけれど、私のことが嫌いだということがわかるのも辛い。どうしよう。
私は悩みながらも色々な事象について考えた。頭が理系脳なのだから仕方がない。では自分はどうなのだろうというところにきた。そう自分は彼のことをどう思っているのだろう。
簡単である。彼に好かれようが好かれまいが、心の外にいようが中にいようが変わらない。今なら伝えられるかもしれない。
そう、
「あなたが世界で一番が好き。」
と。

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