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「ワガママ魔法使い」製作裏話 #7

準備の間

魔女は確実に落ちる星を落とすために古い文献を調べた。過去に何度も落ちてきて、何度か世界を救った魔女がいたことを知っていたからだ。旅人は森の中を探した。魔力を強くする薬草があるとかつての旅で教わったことがあるからだ。その薬草を旅人自身が森で見たこともあったので探した。ただたくさんの量が必要なので時間はかかった。

いろいろな準備のために街に行くときがある。そのとき人々の間でも落ちる星についての噂話をしているのを聞いた。しばらくすると、もう人々の間でもその話で持ちきりだった。どうやったら世界が無くならないか、どうやったら生き延びられるかを話していた。やけになり全財産を使う者、今までと変わらず生活をする者、神に祈りを捧げる者など色々な人がいた。魔女に助けを乞う小さな子はいたけれど、大人たちはただただ解決策のないまま過ごしているだけだった。

ある日魔女見習いの子が小屋を訪ねて来た。どうやら風の噂に二人のことを聞いたらしい。この森を探して小屋を見つけたのだから能力はあるのだろうと思っていた。何か手伝わせて欲しいとのことだったけれど、特にもう準備は終えていたので手伝えることはないと伝えた。こんな森の奥に来てもらったので旅人が歓迎して料理を作った。魔法を使わない魔女を見て驚いていたが、こんな魔女もいいですねと魔女見習いの子が言っていた。次の日魔女見習いの子は帰っていった。

もう夜になると「落つる星」は見えるようになった。二人はいよいよそのときがやってきているのだとわかった。とてつもない魔法を使う。森に影響が出ないように準備した。しばらくして昼でも見えるようになってきた。お日様よりも大きくなってきた星を見て次の満月の夜がちょうどいいだろうと考えた。満月の夜は魔力を何倍にもしてくれるのでその日にかけるのが一番だと思ったからだ。

それからの数日、魔女と旅人は今までのことを振り返りながら過ごしていた。新しい命を感じながら過ごしていた。
「いよいよ明日ね。」
「そうだね。」
「なんだか怖いわ。」
「大丈夫、君はちゃんとできるよ。」
「自分がいなくなるのは構わない。でもお腹の子とあなたがいなくなるのは耐えられない。」
「僕だってそうさ。だから3人で暮らそう。」
「そうね。それがいいわ。」
そうして二人は眠りにつきました。

大勢の魔女

次の日の朝、何やら小屋の前が賑やかです。たくさんの人がいます。いや箒に乗っている人もいるので全員魔女です。10人や20人で収まりません。たくさんの魔女がいました。2人はびっくりして外に出ると、以前小屋を訪ねてきた魔女見習いの子がいました。
「ご無沙汰しています」
「これはどういうことなの?」
「この日のために世界中の魔女を集めてきました。」
「でも落つる星を落とせるのは私の魔法だけよ。」
「それなので…」
後ろから出てきたのはどうやらこの集団のリーダーとも思えるベテランの魔女でした。
「かあさん!」
「ひさしぶりねぇ。あなた森に入って出てこないからどこにいったかわからなかったわ。」
「だってもう人のために魔法を使うのはやめたのだから、森の中の方がいいでしょ。」
「ん?あなたおなかに…、そういうことね。あなたたった一人のために全魔力をかけるのね。そういうことなら私たちが来た甲斐があったわ。」
「どういうこと?」
「”星落としの魔法”を唱えられるのはあなただけ。私でもできないわ。おなかの中にいるのなら、もうあなたの魔力はそんなに残っていないわよね。」
「そんなことはわかっているわよ。」
「そこで私の登場。ここにいる全ての魔女の魔力を私が一つにまとめてあなたに渡すわ。そうしたら、魔力がなくて魔法の効果が出ないこともないでしょう。それでもおそらく一発勝負。もう一度魔力を集めて魔法を唱える時間はないわよ。」
「でもどうして母さんがそこまでしてくれるの?」
「あなたほどではないけれど、私たち魔女が何をされたのかは思い出したくないわ。でもね、存外悪いことばかりではないわ。人間の友人もいる。守りたい命はあるのよ。しかし私には星落としの魔法は使えない。使えるのはあなただけ。そのあなたがどこにいても見つからない。だから一度は諦めたわよ。でもこの子があなたのいる小屋を見つけたというのだから驚いたわ。」
魔女見習いの子は少し照れていた。
「まあ事前に準備したいと思ったけれど、またあなたどっかにいってしまうと思ったからこうやって当日押しかけたたってわけ。こんな大きな魔法、仕掛けるのならば満月の今夜よね。」
「なんでもお見通しってわけね。仕方ないから手伝ってもらうわ。」
「相変わらずねぇ。ところでそのおなかの中の子のお父さんは彼かしら?」
そう言われて初めて旅人が「はい」と答えた。
「ということは義理の息子ということになるのね。」
「はじめまして、お母さん。」
緊張した面持ちで話しかける。
「ありがとう、あの子をこんな風にしてくれたのはあなたなのね。」
「はぁ。」
どう答えていいかわからない返事をすると小声で
「ここに来る前のあの子ったら、もうそれはそれはすごかったのよ…」
「母さん!」
「お〜怖!これが成功したらお話ししてあげるわ。」
と話すとすっと出ていった。

落つる星の夜

2人はあっけにとられながらも「グレートウィッチーズ(偉大なる魔女)」の母親の手際の良さに驚いていた。これだけたくさんの魔女を一番いい状態で配置した魔法陣は今までに見たことがなかった。全て配置し終えた時にはもうお日様はずいぶん西に傾いていた。そうすると空を覆わんとする星がくっきり見えて来た。

お日様が西の空に沈むと東から月が昇って来た。ある程度の高さまで月が昇って魔法陣に光が差したとき魔法を唱えるのだ。
「準備はいい?」
「母さんこそ大丈夫なの?」
「やあねぇ、おばあちゃん扱い?」
「だってこの子が生まれたら、本当におばあちゃんじゃない。」
「あらそうね。じゃあ孫のために成功させないとね。」
「うん、でも心配なことがあるの?」
「なに?」
「こんなにたくさんの魔力にさらされて、おなかの子は大丈夫なのかなって思って…」
「大丈夫、彼が守ってくれるわよ。あなた彼のことを愛し、彼もあなたのことを愛しているのだから大丈夫よ。」
「ありがとう母さん。」
「その子の母親があなたのように、私はあなたの母親なのよ。少しぐらい頼ってもいいのよ。」


「ところで母さん、あの魔女は何をしているの?」
「あ、あれ。この様子を人間のところに映像として届ける魔女よ。王様が見たいというものだから、全世界に見せてやろうと思って。」
「全世界に?」
「魔女がいないとあなたたちの世は滅びるのよ。って見せつけてやろうと思って。そのほかにもいろいろお願いして来たわ。」
「何勝手にお願いしてるの?」
「ここに来た魔女たちは命をかけて来ているのよ。その魔女に何にもないなんてありえないじゃない。だからいろいろ王様にお願いして来ただけ。」
「母さんのそういうところ嫌なのよ!」
「まあまあ、悪いようにはしないから。はいはい、星が落ちて来ますよ。」
「もう。」


魔女は旅人の方に行き話し始めた。
「いいお母さんだね。」
「どこが!まったく母さんのああいうところ嫌いなのよ。」
「でも今君緊張していないよ。」
「そうだけれど…。」
「こんなにもたくさんの魔女を集めたり、王様にお願いしたり、いろいろ大変だったんじゃないかな?」
「まあそうだけれど…」
「お母さんには、僕たちの子を見てもらわないとね。」
「わかったわ。」
といって魔女は笑った。
「いい笑顔だね。」
そういって魔女に寄り添った。
「ん、う〜ん」
と咳払いをしてお母さん魔女が見ていた。
「それでは行くわよ。お2人さん。」
全ての魔女が呪文を唱え始め魔力を集めていた。
星はどんどん落ちて来ていた。もう星の地表の様子がわかるほどに近づいていた。
「もういいんじゃない。こっちはいつでも魔力を集め渡せるわよ。」
「だめ、この距離ならで星を砕くことができるけれど、あれだけの体積のものがこの森に降り注いだら、森がなくなってしまう。砕いた後一気に焼き上げる。」
「そんなことまで考えてたの。まあそれだけ大切な森なのね。いいわよいつでも呪文を唱えなさい。それと同時に魔力をあなたに注いでいくわ。」
「わかったわ、そのときお願い。」
とても強い風が吹き荒れているけれど魔女は冷静だった。その様子は全世界に流され、人々は固唾を飲んで見守っていた。神に祈りを捧げげていた人たちはいつしか魔女を祈るようになっていた。

その時だった。空に向かい一条の光が走った。あたりは真っ白になり星に当たった。星は砕けたくさんの火の石が雨のように降り注いで来た。
「まだよ。」とまた魔女が呪文を唱えさらに星を焼いていた。その様子は落ちる火の石を包み全てを焼き尽くしていた。魔力が途絶えた魔女たちがバタバタと倒れる中全ての火の岩を焼き尽くしていた。
全ての魔力を使い切った魔女たちは、光が消えたあと月に照らされる静かな森を見るのだった。

絵本の話

その後の話を少し言うと、人たちは魔法を見直し、王様も魔女たちを認め、魔法のある世界へと戻っていった。魔法の素質のあるものを伸ばす魔法学校なるものも作られて、簡単な魔法なら10人にひとりぐらいの割合で使えるようになっていった。
そのあと魔女と旅人はどうなったかだって?それはまたいつか話せる時に話しましょう。昔話によるとどうやら街で普通に暮らしているようです。もしかしたらあなたのすぐそばにいるかもしれませんよ。


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