「魔法使いのライバル」 #お話
ライバル
まただ、また勝てなかった。ここのところずっとだ。親友でありライバルであるサリアがまた学年成績トップを持っていった。サリアが
「危ない危ない、今回もテリアに抜かれるかと思ったけれど大丈夫だった。よかった~。」
とか言っていた。そのときは
「残念、まだまだ足りないのね。次は頑張るわよ。」
と言って微笑んだけれど顔は引きつっていたかもしれない。
今回は勝てるのではという自信があった。かなり準備にも時間をかけたし、魔法の練習もした。魔力ではサリアに勝てる気がしないけれど、技の正確さ緻密さでは上ではないだろうかと思っていた。
とても悔しい。最大限の力を出して自信もあったのにサリアには勝てないのだろうか。今日は歩いて帰る気力がないので車で迎えにきてもらった。帰りの車の中でため息をついていたら運転手兼執事のじいが聞いてきた。
「どうされました?」
「またサリアに勝てなかった。」
「それは残念でしたね。」
「私としては手応えあったのだけれど、ダメだった。」
「ほとんど同じぐらいではありませんか。」
「でも1番と2番では全然違うよ。」
「サリア様とは昔からよく遊んでいるところを見かけますが、似ていますよね。」
「全然違うわよ。サリアはテスト勉強しているの見たことないのよ。たいてい遊んでいる。それでも1番なんて才能以外何もないじゃない。私はすべての時間をかけたのに勝てなかった。それでも似ているの?」
「何というのでしょう。二人並んでいるとよく似ているなと思いますよ。」
「そうかなぁ?」
ぜんぜん似ていないと思ったのに、じいは似ているという。家に帰って復習しよう。テストの間違ったところをちゃんと復習してちゃんと魔女にならないと。私の夢は魔女になること。これはもう決められたことなのだ。我が家は歴代魔女を出してきた家系、でも母は魔女ではない。恋をして結婚すると魔法はなくなる。だから母の姉、魔女おばさんが我が家の家系を守っている。
そして私は一人っ子なので魔女になるしかない。そんな使命を心に決めたのは少し大きくなってからだ。小さい頃はほうきで空を飛んできたり、魔法で何でもやってしまうおばさんに憧れた。純粋に私も魔女になりたいと思ったのだ。
できれば1番の魔女になりたい。そして魔女の道を応援してくれたお父様とお母様に恩返しがしたいのだ。それなのにまた1番は取れなかった。お母様は2番でもすごいじゃないって言ってくれるけれど、やっぱり1番がいい。
観察
もともとサリアはあんまり勉強する方じゃない。というか一切しない。それでも魔法の力は絶大で、他の生徒では勝てたものはいない。彼女との魔法対戦で勝てたことは1度だけしかない。それもたぶんサリアが手を抜いた。他のものは騙せても私の目はごまかせない。
それで私の順位が上がりサリアと互角に戦えるのは私だけということになったけれど、確実に魔力では勝てない。そんな偽りの順位などいらない。私のプライドが許さない。悔しかった。
親友だけれどいつまでたっても勝てないライバル。もう弱点をつくしかない。だからサリアを観察した。今でもサリアの魔法に勝てるとは思っていないけれど、何だかその力が弱くなっているようだった。
今まで圧勝していたものも少し苦戦するようになった気がする。あくまでも気がするぐらいなので、微かな違いかもしれないけれど、でも弱くなっている。観察だけではわからないので、サリアの幼なじみのトールに聞いてみよう。
休み時間に、
「トール、ちょっと話したいことがあるんだけれど時間ある?」
と聞いてみた。
「ごめん今はちょっと忙しくて時間ないなぁ。」
困った、これではサリアのことが聞き出せない。ならば、
「じゃあ帰り一緒に帰りません?帰る方向途中まで一緒でしょ。」
と言ってみる。
「いつも車だけれどいいの?」
「たまには歩いて帰るのも悪くないわ。」
ということで帰り一緒に帰ることにした。
放課後サリアは先生に呼ばれているので遅くなる。今日トールはひとりで帰るのでちょうどいい。このトール、けっこうモテるみたいで、後輩から告白されている。それをかたっぱしから断っているから、誰か好きな人がいるのではと思われている。まあ誰が好きかは想像はついていますけれど。
放課後、サリアが呼び出されてからトールに話しかけてみる。
「トールいっしょに帰りましょう。」
「わかった行こう。」
学校の中を二人で歩いた。何だかやけにみんな見てくるなと思ったけれど私たちは気にせずいっしょに帰ることにした。
校門を出てしばらくしたあとトールが、
「話しって何?」
と聞いてきた。
「サリアのことなんだけれど…、」
と私がいうと急に興味が出てきたみたいで
「サリアがどうしたって!」
と声を高くあげて答えた。私がその声に驚いたので、
「ごめんごめん、小さい声で話すね。」
と言ってきた。そして私は話し出す。
「最近サリアの魔法がちょっと弱くなっていると思うんだけれど、トールはどう思う?」
「ほんと?」
「うん、もともとの才能で他の人にはわらかないけれど、私は魔力が落ちてると思うの。何か心当たりがある?」
こう聞くとトールが考えだし、
「特に思いつかないなぁ。いつも通りだと思うよ。」
男の子ではわからないのかな。
「最近なんか変わったことない?ちょっと元気がないとか。いつもと違うとか。」
う~んと上向いて考えているトール。
「そうだ、最近なんだかちょっとずれてる。」
「ずれているってどういうこと?」
「何だか家に迎えに行っても、支度が終わってなかったり、」
「たり…?」
「とっても眠そうにしていたり、ちょっと身だしなみがきちんとしていなかったりかな…。」
私は確信した。やはりだ魔法が弱まっている。サリアが身だしなみを整えるのはおそらく魔法。あれだけ毎日きちんとやるのは一苦労なので、きっと魔法でやっているはず。学校ではきちんとしているので気づかなかったけれど、きっと登校途中とかで少しずつ整えているのね。家を出ているところから見ているトールならではね。さすが幼なじみ。私は続けた。
「たぶんサリアは魔法に頼らないようにしているんじゃないかな?サリアのおばさまも自分でできる方がいいって言っていたから。」
「そうなんだ。僕はサリアが具合悪くなっていないか心配だったんだけれど、違うんだね。」
「違うわよ。あのサリアよ。元気ない時でも体はピンピンしているじゃない。でも本当に体悪い時があるかもしれないから、よく見てあげてね。」
「わかったよ。そのときはまた相談する。」
そう言ってトールとは別れた。
このとき私は、サリアの秘密を手に入れたと思いほくそ笑んでいたに違いない。サリアが恋に落ちている。きっとそうだと思った。では相手は誰だろう?
その疑問は簡単に答えが見つかった。トールに違いない。
サリアといつもいっしょにいて、行きも帰りもいっしょ。あれで付き合っていないっていう方がおかしい。お互いの後輩が付き合っている人いるんですか?と聞いても否定している。不思議な話しだ。
でも今回はこれを利用させてもらおう。超人的な力ではなく、サリアが普通の人と同じぐらいに魔力が下がったときに、私と魔法勝負して勝ちたい。魔法の技能では私の方が上だと思っている。そこで私のプライドを取り戻したい。あんな力技で魔法を放たれたら、誰も勝てないわよ。
サリアに勝てるのではないかと思えてきた。
今日は満月の夜。魔力が月のように満ちてきた。
うわさ
次の日学校に行ったら、何だか噂になっていた。新聞部が作った校内新聞にスクープが出ていた。
「美男美女カップル誕生!」
「ふたり一緒にいるところを多数が目撃!」
昨日、トールといっしょに帰ったとき、写真に撮られていたみたい。それを新聞部の人が面白おかしく記事にしたようだ。でもこれは好都合だ。昨晩満月の下で考えた作戦を後押ししてくれる。
作戦はこうだ。トールにサリアのいいところを言っていく。トールを少しずつサリアと接近させる。今までのように幼なじみとしてではなく、恋人としてだ。サリアについてはやきもちをやかせて、トールをもっと好きにさせて意識させる。そして恋に落ちてもらい、少しぐらい魔力を落としてもらおう。同じ魔力なら私も勝てないわけではない。
新聞にもあったけれど、何だかちょっと気分が良かった。トールとベストカップルみたいないいこと書かれて少し浮かれてしまう。いつも1番のサリアに勝てた気がした。
何だかあちこちで噂になっているみたい。そのせいか今日の魔法の実技の時間、サリアの魔法はずいぶん乱れていた。魔法が発動しないなと思いっきりステッキを降ると一気に魔法が出てきて、校舎の壁が黒焦げになっていた。先生が魔法で直していたけれど、サリアが調子が悪いのがわかった。
ちょっとかわいそうなので、
「今日いっしょに帰らない?」
とサリアを誘ってみることにした。
帰り道、夕日がまだ高いが空の色が変わってきた。
私が
「サリア、今日の魔法の実技のとき、調子悪かったみたいだけれど大丈夫?」
と聞いてみた。
「うん、何だかねこのところ魔法のかかりが悪いのよね。」
「どうしたの?体調でも悪いの?」
「今まで体調が悪いぐらいでは魔法の効きが悪くなったことないんだよね。テリアはあるの?」
「まあ今までサリアが化け物だったってことよ。ふつう月の動きに連動して、新月のときは弱くなり満月の時は強くなっているじゃない。」
「う~ん、感じたことないなぁ。」
さすがサリアである。魔力が半端ない。
「それはそうよ。サリアはふつうに魔法かけても他の人の数倍の威力出ているから、弱くなったなんて感じないんじゃない?」
「そうなんだ。でもそれってとっても弱くなるってことある?術がかからないほどに弱くなる。」
「それはないわね。いくら弱くなっても魔法がかからないというほどではないわ。」
「そうだよね。」
私は少し切り出してみることにした。
「もしかして…、誰か好きになった?」
「な、何言っているのテリア!誰を好きになるっていうの!」
これはかなり動揺している。確認のため聞いてみる。
「例えば…、トールくんとか。」
一瞬の間が入る。
「ないないない、トールとはそういう恋人って感じではなく、いつもいっしょにいるだけって感じかなぁ。」
ああ、もうこれは完全にトールに恋しているわね。確証はないけれど、きっとそう。
何だか噂が一人歩きして、私とトールがカップルのように言われているけれど、トールと私はぜんぜんその気ではないのでどこ吹く風だった。でもサリアはとても気にしているようで、いろいろなところで不調なことが出ていた。私は気持ちがよかった。サリアの上に立っていることで優越感を感じていた。親友だけれど、ちょっとぐらいいいわよね。
図書館
サリアのことでトールとはよく話すようになった。魔法についてはそれぞれ得意分野がある。サリアはあまり勉強しないからそういう話にはならないけれど、トールはわからない魔法を丁寧に解説してくれるので助かった。今まで自分でやってもわからないものを説明してくれるのは助かった。トールは教え方がうまい。
「トール、この魔法、聞いたことある?」
「う~ん、ちょっとないなぁ。でもsastって頭についているから、土系の魔法じゃないかな。サリア知ってる?」
「それって古代魔法でしょ。ママなら知っているけれど私は知らな~い。」
「そっか。おばさんも忙しいから聞くの悪いよね。確か王立図書館なら古代魔法の辞書置いてあるんじゃないかな。」
とトールが言う。
「でも王立図書館じゃ学生は入れないわ。」
「ママ、確か入館許可証持っているよ。よく行ってる。ママの紹介があれば行けるんじゃないかな。紹介状もらってきてあげよっか。」
「ほんと?あそこ昔から行ってみたかったのよね。ぜひお願いしてくれないかしら。」
「いいよ。」
「じゃあサリアとテリアと3人で図書館だね。」
「いいわね、行きましょう。」
そうするとサリアが
「え~、魔法の勉強でしょ。私はパス。ふたりで行ってきなよ。」
「え~、サリアも行こうよ。」
「やめとくよ。トールと行ってきなよ。」
「そう…?」
「じゃあテリア、おばさんからの紹介状持っていくから、今度の日曜日の午後1時に図書館前で待ち合わせでいい。」
「わかったわ。初めての王立図書館楽しみ~。」
家に帰って食事の時に今日のことを話した。
「お母様、私王立図書館に入れるかもしれないの。」
「あら、あらゆる魔法の書が納められている王立図書館は一族でも入れる者のは少ないわよ。」
「サリアのママの紹介で入れるかもしれないの。」
「サリアさんのママの紹介なら大丈夫ね。」
「そうなの?サリアのママって魔法研究所を開いているけれど、そんなに有名じゃないわ。何で王立図書館に入れるんだろう。」
「さあ何ででしょうねぇ。」
と言いながら母は笑っていた。
日曜日
日曜日の朝、私はバタバタしていた。メイドに着ていく服を選んでもらっていたけれど、何だか気に入らない。王立図書館に行くのだ。きちんとした格好しなくてはいけない。しかもきちんとしたトールに見合う服装にしないとトールが恥をかく。あまりにラフ過ぎでも良くないと思ったからだ。
バタバタしているとお母様が
「何を朝からバタバタしているの?」
「今日着ていく服が決まらないの。」
「図書館に行くのでしょ。何を悩むのですか?」
「だって、初めての王立図書館で間違いがあってはいけないから。」
「大丈夫よ。紹介で入れるところは手前だけだから、そこまできちんとした格好じゃなくて平気よ。」
「そうなの?」
「テリアちゃんの私服ならそのままで大丈夫よ。」
「ほんとう?だって憧れの王立図書館よ。気合が入るじゃない。」
「それだけ?」
「それだけだけど、何かある?」
「何だかトールくんとデートみたいだなって思って。」
「何言ってんの、そんなんじゃない。勉強しに行くんだって。」
「はいはい、じゃあこの服でいいかな。」
とお母様が選んでくれた。
その服を着て待ち合わせの図書館前に来た。5分前に着いたのに、もうトールは来ていた。遠くから見ているとモデルのようなトール。街ゆく女の子たちはみなトールのことを見ている。
「ごめ~ん待たしちゃった?」
「大丈夫。僕も今来たところだから。それにしてもテリアいつもと雰囲気違うね。制服でしか会ってなかったから、誰かと思ったよ。」
「そう言うトールだって、すれ違う女の子みんな見ていたよ。」
「そう?全然気づかなかった。でもテリアだって今日は雰囲気違ってかわいいよ。」
どきっとした。「かわいい」なんて言われたことない。ちょっと顔が赤くなってしまったけれど、トールに気づかれたろうか。
その後サリアママからの紹介状を見せて図書館の中に入った。許されたところを指示されて中に入る。まるで中世の教会の回廊を歩いているようだ。吹き抜けの上の方まで全て本で埋め尽くされている。背の高い本棚に新しい本も古い本もたくさんあった。
目的の魔法辞典を探す。ふたりで探したけれど、トールが見つけてくれた。さっそく見てみることにした。
「やっぱり土魔法でいいみたいよ。」
「でもこれ、光の魔法を足すと、別の魔法になるみたいよ?」
「でも光の魔女しか扱えないんじゃ無理じゃん。」
「星の魔女なら初めから使えるみたい。」
その本をめくっていくと、”星落としの魔法”のページがあった。
「トール、”星落としの魔法”だって。」
「ちゃんとあったんだね。でもこれって…、」
「ワガママ魔法使い!」
二人はハモってしまった。ふたりで笑ってしまった。
「そうよね。あの絵本の魔女が唱えたのが”星落としの魔法”なんじゃない。」
「きっとそうだね。ちゃんとあったんだ。」
でもこのページだけ白い。
「このページ、何も書いてないの変じゃない?」
「たぶん、誰もその呪文を知らないんだよ。サリアんとこのおばちゃんなら知っているかもしれないけれど。」
「あまり使いたくない魔法ね。星落としに失敗すると国がなくなるみたいだわ。」
「それは嫌だな。」
魔法のことを話しながらふたりで意見を交わすのは楽しかった。まだわからない古代魔法についての本もたくさんあるので、他にもいろいろ調べるのは楽しかった。
あっという間に退館時間になってしまった。まだまだ調べたいことはたくさんあるのに。
外に出たときにはすっかり日が暮れていて真っ暗だった。三日月が見えていた。トールが送ってくれると言うので、車を呼ぶのをやめた。何となくこの時間が終わるのが惜しかったからだ。
「トール今日はありがとう。」
「いえいえ、僕も楽しかったよ。」
「王立図書館があんなに本があるとは思わなかった。特に古代魔法についての本。」
「もう出回ってないものが多いからね。」
「できれば古代文字で読めたらいいのになぁ。」
「テリア、またいっしょに図書館行こうよ。期限まで通わないかい?」
「えっ、いいの?」
私は迷った。何だかサリアに内緒で会っているみたいで。
「いいよいいよ。僕も楽しかったし。」
「今度はサリアも誘った方がいいかな?」
何となく気が引けたのでそう彼に言ってみた。
「サリアね~。たぶん来ないと思うよ。魔法の勉強嫌いだからね。」
彼がそう言うならいいか。仕方ないよねと心に思いながらいっしょに帰っていった。
さっきまであった三日月はもう沈んでいた。
デート
「テリアちゃん今日もデート?」
「お母様、デートじゃないです!トールとふたりで図書館に行くのです!」
「え~、それデートじゃない。」
「違います。トールが紹介状の期限いっぱいまでは行けるだけ行こうよって話になったんです。」
「はいはいそうでしたね。それにしても今日のお洋服は可愛らしいわね。とっても似合っている。」
「ありがとう、お母様。」
何だか恥ずかしくなった。この間トールにかわいいって言われて何だか嬉しかった。また言われたいなって思ってしまった。だからちょっとかわいい服を選んでみた。
「それでは、図書館デート楽しんできてね。」
「だから違うって!」
もうだめだ、何言ってもデートにされる。今日はたっぷり時間を取るために午前中から行くことにした。そうしたらお父様が王立図書館近くのカフェを予約してくれた。ここは前々から私が行っていて、お気に入りのところなので嬉しい。
今日はふたりで調べたいことを持ち寄ってお互いの意見を言い合った。図書館では大きな声を出せないので、お昼ご飯を食べに予約したカフェで意見を言い合った。トールの魔法の地知識は深く、男性魔法にも長けていた。私はあまり男性魔法のことは知らないので勉強になった。
でもそれより1番嬉しかったのが、このカフェでトールといっしょにいられることだった。このあとまた図書館に戻ってお互いの魔法の知識を深めた。楽しい時間はあっという間に過ぎる。本当にそうだ。
「ごめん、今日も遅くなっちゃったね。」
「うううん、私がもうちょっとって言ったからよね。何だか楽しいんだよね。魔法のこと調べるの。」
「僕もだよ。サリアに追い付きたいんだよね。」
私の心にちくんと来た。
「サリアに…。」
「そう、あの魔力だろ。今の自分じゃサリアの横にはいられない。もっと魔力を強くして、せめて横にいてもいいぐらいにはしたいんだ。」
「そうなんだ…。」
「ずっとサリアの横にいたいんだよね。」
「……」
私は声にならなかった。なぜだろう。さっきまでの楽しい気持ちが一気に沈んで落ち込んでしまった。
「大丈夫、テリア?」
そう言われて
「うん、大丈夫。」
そう言うのが精一杯だった。何だろうこの気持ちは。心が締め付けられる。きゅっと締め付けられて痛い。その後も会話したけれど、何を会話したか覚えていなかった。
作戦
そういえば、サリアとトールを両思いにして、サリアの魔力を少しだけ下げる作戦を実行中だった。トールと過ごす時間が楽しくて、少し忘れていた。でも何だかサリアの魔力は確実に落ちているみたい。今まで負けたことない相手に負けたり、魔法が制御できなくて暴走したこともある。思っていたよりも作戦の効果が出過ぎて、何だかサリアに申し訳ない気持ちになってきた。
「サリア、トールが好きなのはあなたよ。」
たったこれだけのことを言えば、お互い愛し合いサリアの魔力は落ちてくるはず。そのはずだった。でも最後にトールの気持ちをサリアに伝えるかどうか迷った。でもトールに愛されているサリアのことを考えると悔しくなってきた。
魔法の勉強をしないサリアとあれだけ勉強しているトールは釣り合わない。むしろ私の方が釣り合うはず。絶対そう。何だか二人がくっつくのは嫌。そんな気持ちになってきた。
それよりも何よりも何か胸が痛いのだ。今日の学校でもそうだ、二人が仲良く話しているとなぜか胸が痛む。トールとサリアが仲良く話すのは昔からなのに、最近二人の楽しそうな笑顔を見ると心が痛む。胸が焼けそうなので、魔法で水を出そうとしたら、魔法が発動しない。一瞬かかっても持続しないのだ。
「どうしたんだろう。こんな簡単な魔法使えないなんて。」
私は焦った。まさか魔法が使えなくなっている?自分が魔法を使えなくなることなんて一度もなかった。魔女になるための学校に通っているのに魔法が使えないなんてありえない。だけど今魔法が使えない。他の魔法も試したがいくつかかからないものがある。
なぜ?そのとき私は気がついた。
”恋”に落ちたのだ。サリアではなく私が。
彼といっしょにいたい。彼に褒められたい。いつも彼のことを考えてしまう。冷静になって考えるともうこれは恋だ。なぜ今まで気づかなかったのだろう。まさか自分が恋に落ちてしまうなんて。
ライバルさリアに勝つための作戦が、自分にかかってくるなんて思わなかった。
かからない魔法
日に日に魔法が使えなくなってきた。かからない魔法が増えた。このことを誰にも相談できない。どうしよう。もうこれはトールのことは好きではないと思うようにした。サリアをのことを好きなトールなど好きではないと思うようにした。
でもかえって逆効果だった。言葉に出して言えば言うほど、心は意識してしまうのだろう。魔法はどんどん弱くなっていった。でもどちらも諦めたくない。魔法は小さい頃からの夢。家のためにも自分自身のためにも諦めるわけにはいかない。トールのことは忘れようとしても忘れられない。まだ二人は付き合っていないのだから、トールのことを思うのは悪いことではないよね。と心に言い聞かせた。
絶対魔法も恋もうまくいく世界があるはずと思い今まで以上に勉強に力を入れることにした。
上弦の月が沈む真夜中にそんなことを考えていた。
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