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「宇宙がすき」制作裏話 #1

宇宙

「ねえねえ聞いてる?」
「うん、聞いているよ。」
とは言ったけれど私の友達の話は長い。隣のクラスのイケメンが誰と付き合っているかとか、昨日、体育館裏で誰々が告白したとかの話をしている。まあお年頃の私たちからしたらあたりまえなのだろうが、あまり興味がない。

「誰か気になる男の子いないの?」
「う〜ん…。」
「そうよねぇ、うちのクラスの男子は、ちょっと子供っぽいよね。」
「別に子どもっぽくてもいいんじゃない?」
「なになにショタ好き?」
「そういうわけでもないけど…。」

もうめんどくさくなてきた。半分うわの空である。
「そら」といえば、私は宇宙が好きだ「宇宙」と書いて「そら」と読ませるのがいい。目の前の「空」の向こうに広がる無限の「宇宙」。それにあの真っ黒な世界に転々と散りばめられた星。あの中に浮かんでみたいと思う。

ふわふわとした無重力の中浮かんでいる夢をよく見るからだろうか。重力に縛られ安定するのもいいが、心も体も重力から解き放たれるのは人間にとって悪くないのではと思う。一度地球を出て宇宙から見下ろしてみれば、みんなもっと地球を大事にするのではないかと思ってしまう。

小さい頃、宇宙に行きたいと思ったことがある。親に聞いてみると「宇宙飛行士ぐらいね宇宙に行けるのは。」と言う。これはもう人類のトップだ。学校で真ん中ちょっと上ぐらいの成績の私にそんな道は残されていないのである。しかも宇宙に行く理由として、ふわふわとしたいだけなんて許されるわけない。貴重な宇宙にいる時間を様々な実験や体験をしなくてはいけないのである。宇宙にバカンスに行くわけではないのだ。

ため息をつきながら今日も夜空を見上げる。お気に入りは「シリウス」。地球から見る星で一番明るい一等星である。小さかった私でもすぐに見つけられた。それからお気に入りである。夏には見えなくなるのは残念だが、澄んだ空気の中、冬の大三角形の一つの星というのもいいなと思ってしまう。

この間学校で聞いたのだが、今の暦の太陽暦、これはシリウス真夜中南中するときを1月1日の0時と定めたらしい。そこから1年を365.25日と計算し、半端な0.25を4年分集めると1日になるのでうるう年ができたという。私の好きな星が出てきたのももちろんだけれど、少なからず地球に影響を与えているのがなんだか嬉しかった。

失踪

のんびりとした日曜の午後、両親とむかし話をしていた。どうやら私は不思議な子どもだったらしい。昔からしゃべる方ではなく、じっと他の子どもを見ている子どもだったらしい。騒々しくもなくただ親の手をぎゅっと握ってあまり離れなかったので、親としては楽だったようだ。同い年の男の子の親御さんは常に追いかけっこをしているのを笑って話している。そのとき、

「でもあるとき一度あなたいなくなったのよ。」と母親。
「そうそう、あのときはまいったよね」と父親。
「え、どういうこと?」

私には全く記憶がない。

「あれはクリスマスイブの夜よ。サンタさんが来るから早く寝なさいと言って寝かしつけたあと、もうそろそろ熟睡したかなと思いプレゼントを持って行ったら、あなたいないのよ。」

「えっ、なんで?」

「こっちが聞きたいわよ。あなたの靴がなくなっていたのとカギが開いていたから外に出たんだろうと思って探したわ。お父さんといっしょに探したけれど見つからない。」

「え〜、そんなことが…。」

「お父さんもお母さんはもう探したわ。ありとあらゆるところをね。」

「でも私ここにいるってことは見つかったんでしょ。」

「当たり前じゃない。お父さんとお母さんが疲れ切った三日後、夜にあなたの部屋から物音がするから見にいったら、あなた寝てたのよ。」

「え〜、なんで〜。」

「なんで〜って、ほんとこっちが聞きたいわよ。その日はもうお父さんとワンワン泣いて、各所に連絡して3人で寝たわよ。あれほど幸せなことはなかったわ。お父さん、思い出して泣かないの。」

「そんなことあったんだ…。全く覚えてない。」

「少し大きくなってからその夜のこと聞いたら、お友達といっしょにサンタさんと夜空を飛んだって言っていたわよ。お友達誰って聞いたら、名前は忘れたって言っていたわ。」

「それも記憶にない。」

それにしてももったいない、もしかしたら夜空を、いやさらに上の宇宙まで行ったかもしれないのに記憶がないなんて。

「それからかしらね。あなたが星空を見て宇宙に行きたいなんて言い出したの。」

「そうなんだぁ…。」

「本当にサンタさんに連れられて空を飛んだのかもしれないわよ。」

「まっさかぁ。」

その日のことを思い出そうとしても全く思い出せないので諦めることにした。

午後の授業

午後の物理の授業。宇宙飛行士になりたいなぁなんて思っていたから、なんとなく取っていた。もう物理なんて完全に数学じゃないか。いろいろなものが数式で表され、それに基づいて理論を固める。人ひとりを宇宙に飛び出させるのに膨大なエネルギーが必要なことも知った。

今日は学期終わりの少し余った授業なのだろうか、先生が作ってきた資料や動画を見ながら説明を入れている。もちろん部屋は暗い。午後の授業お腹いっぱいで部屋を暗くされたらもう寝るしかないではないか。

私はいつの間にか夢の世界に入っていた。そこはなんだか宇宙空間のよう。ふわふわ無重力で足がつかない。手足をバタバタさせても前に進めない。だんだん重力が加わってきて下の移動し床に寝ている。

起きるとアップのアインシュタインがあかんベーをしながらこちらに走ってくる。「なんだか怖いんですけど。」と言って逃げる。いろいろ逃げたけれど追いかけてくる。何なんだろうか。先の角を曲がったら永遠に続くような長い廊下。その両側に扉がついている。なんだか永遠に続くホテルの廊下のようだ。もう後ろからアインシュタインが迫ってくる。

この長い廊下ではすぐに見つかってしまう。どこかに入らないと。でもみな鍵がかかっている。走っているうちに「シリウス」と扉に書いてある鍵が壊れかけている扉を見つけた。ここだ!と慌てて入ると雷に打たれたようにビビビッ!と電気が走る。驚いて立ち上がってしまった。そこはいつもの教室。みんなに笑われてしまった。でもそのときあの夜の記憶が一気に流れ込んできた。

あの夜

あの夜はクリスマスイブの夜だから、私はサンタが来るのを楽しみに待っていた。こっそり寝たふりをして姿を見たいと思っていた。サンタが入れないといけないので玄関の鍵を開けていた。それでもこないので、窓の外を眺めていたら、泣きながら歩いている男の子がいた。

ちょっとかわいそうだったので外に出て話してみた。同い年くらいに見えたその子は家に帰りたいという。家から出てきたら帰れなくなってしまったみたいだ。サンタさんには会えないかもしれないけれどプレゼントは置いて行ってくれるかな。そんなこと思いながらその子の言う家を探しに行った。

あちこち回っているけれど、全然見つからない。ここにあったんだと言うところはただの畑。もう何も作っていない。歩き回った二人は夜空を前に座りこんでしまった。その子に連れられてきた私も実は家に帰れなくなっていた。あの子がベソかいたのを見ていたら、私までベソかいてしまった。ポケットにあったビスケットを半分こしていっしょに食べた。いつもよりしょっぱい気がした。そして二人はハモったように「パパ〜、ママ〜、どこ〜!」と叫んでしまった。

その瞬間星が光るのを感じ何かが飛んでくる。「パパとママだ!」とあの子が叫んで目の前に何かが降りてくる。それを見た今の私はつぶいた。「それってUFOじゃない…」当時の私はサンタさんだと思っているが、まさしくそれは空飛ぶ円盤。その子のパパととママがかけ降りてきて抱きつく。

完全に私はサンタだと勘違いして浮かれている。UFOの中に招待されて、歓迎をうける。先ほどあげたビスケットのお礼がしたいと言われてご馳走になった。そのあともUFOで無重力を体験したり、木星土星まで接近して飛んでもらった。今思うと初めて見たはずの木星と土星の写真、すでに見た気がしたのは、このとき実物を見ていたからなのかと気づく。

その子と遊んでいるときは自分の家のことをすっかり忘れていた。もうそろそろその子のパパとママが自分の星に帰ると言うのでやっと自分の両親を思い出したぐらいだ。薄情な気もしたが、それだけ楽しかったということにしておこう。じゃあ私のことを家まで送っていこうとすると、あの子が

「いやだ!もっと遊ぶ!」

とわがままを言った。パパとママがなだめているがますます男の子はダダをこねている。あげくのはては

「この子と結婚する!それまで帰らない!」と言っていた。

まだ結婚というのが分かる年頃でもなかったが、なんとなくは理解していた。その子と結婚したいとは思っていなかった。だから

「泣き虫は嫌いよ!強くなったらいいわ。」といった。そのとたん、また目に涙をためる男の子。でも頑張って唇かんでこぼれないようにしている。そのときその子のママが

「ありがとう、でもこの記憶は消させてもらうわね。」

と言いながら何か唱えていた。その向こうであの子が何か言っている。

「…….シリウス……..。」

そのあとのことは思い出せなかった。ただ一つだけ思い出せた。それは自分の部屋で自分の両親が自分のことを抱きしめているときのことだった。あの子と同じように私もギュって両親を抱き返した。

宇宙がすき

もしかしたら、このことがあったからであろうか。私の宇宙好き、宇宙でふわふわしたい欲求があるのはこのせいだろうか。これは夢?夢にしては現実味があるし細かい。こんなこと言っても誰も信じてもらえないだろうし、まず聞く耳持ってもらえないだろう。かわいらしい幼い頃の記憶として、なんとなく心の隅っこに置いておこう。

そうだあの子元気かなぁ。私も元気なのだから元気かな?今ごろどうしているかなぁ。また冬の大三角形を見ながらそんなこと思っていた。そういえばあの子最後に言っていた言葉に「シリウス」があったな。私もシリウス大好きだよ。

続く


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