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「ワガママ魔法使い」製作裏話 #6

新しい命

ある日、魔女が体調を悪くした。大抵が治癒魔法で治してしまうので治らないことはない。何日かたったあとでも良くなる気配はない。食欲まで落ちてきたので旅人は心配になる。いてもたってもいられなくなったので医者に連れて行こうかと思ったが連れて行ける状態ではない。

熱も出てなかなか引かなかったが、三日目の朝熱が引いたようだ。魔女はお医者さんを呼ぶように頼んだ。ならばということで、お医者さんを連れてきた。医者はしばらくみたあと看護師に任せて部屋を出てきた。心配そうな旅人を横目に笑みを浮かべていた。

しばらくして看護師さんが出てきた。医者に目で合図を送ると医者はこう言った。「おめでとう。彼女のおなかの中には新しい命が宿っているよ。」と言った。世界の破滅の前に彼女がいなくなるのではないかと思っていた旅人は拍子抜けしたような顔をしていた。しばらくぼおっとしていたが、彼女のいる部屋に入り手を握りいった。
「おめでとう」
「何言っているのあなたの子供でもあるのよ。」
「しばらく君は休んでいなくてはいけないね。」
「大丈夫?」
ううん、と咳払いが聞こえたので部屋の外を見ると、お医者さんと看護師さんがたっていた。旅人はこれからのことを看護師さんからみっちりレクチャーを受けた。終わる頃にはすっかり生気を失っていた。

その晩魔女は旅人に話した。
「ねえ。」
「なんだい?」
「ずっと考えていたんだけれど...」
「何を?」
すこし言い淀んでいた魔女だったが、意を決して話し始めたようだ。
「私、世界を救おうと思う。もう魔力はそんなに残っていないしできるかどうかわからないけれど。落ちる星のための魔法があることは知ってた。でも使ったことない魔法だし、もうこの世界に魔法はいらなくなった。だから初めはこの世界とともになくなるつもりだった。」
「そうだね。」
「でもね、この子に世界を見せてあげたいの。魔法の無い世界かもしれないけれど、あなたから聞いた世界はまだそんなに悪く無いのかもと思ったわ。」
「そうだね。君はきっとそう言うと思ったよ。」
「世界のためじゃない、この子のためだけに命をかけようと思うの。」
「それじゃあ、僕に手伝わせてもらおうかな。」
「でも失敗したらあなたまで...」
「大丈夫、君は失敗しない。三人で一緒に暮らそう。」

そうして森の奥の小さな小屋で世界を救う算段が始まったのだった。


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