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CP固定厨が『悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される』をプレイした結果

*『悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される』の原作小説(スピンオフ含む)、漫画、ゲームなどのネタバレが盛大に盛り込まれています。

 2024年3月21日
 スマホの時計が零時になった瞬間、私はswitchを掴んでいる手を必死に動かし購入ボタンを押した。中々進まぬダウンロードに胃が更にキリキリと痛む。
 大好きな小説がゲーム化された。それは大概喜ばしい事だ。
 それが『乙女ゲーム』でなければ・・・
 否、乙女ゲームが問題なのではない。原作でCPが成立している作品を乙女ゲーム化する事がCP固定厨の自分にとって大問題なのだ。
 最初から乙女ゲームとして展開されていたなら、他ルート、バッド、メリバ何でも美味しくいただける。
 
 推しCPの片割れが別キャラと恋愛するなんて考えただけで心が酷く痛む。二次創作なら自衛すれば問題ない。妄想は自由だ。だが公式がそれを提示するのは次元が違う。不安に苛まれる中、三日かけてフルコンした結果。


 どうあがいてもアクアスティード√一直線

 終始アクティアを拝められる素晴らしいシナリオ。
 選択肢よって変わるオリジナルストーリーも本当に少し。
 スチルとキャラデザ、メイン声優は凄く良かった。予算はそれに全振りしたんですね。それ位システム周りが残念だった。デバック作業とかしてないのかな。年度末に滑り込みで発売したかったのか。
 はっきり言って値段とクオリティ、ボリュームは見合ってない。乙女ゲームを期待していた人は落胆しただろう。攻略対象が一人とは(調べたら攻略対象が一人のゲームはあるようだ)。そもそもこのゲームは乙女ゲームなのか? 原作を再現したノベルゲームと紹介した方が適切ではないか?

 アクアスティード推し、自分の様な原作ファン及びカプ固定厨なら買っていいかもしれない


  • 簡単なまとめ

    • スチル、キャラデザ、メイン声優は素晴らしい

    • システムが不便、音楽周りもイマイチ

    • ストーリーは原作に忠実

    • 誤字・バグが多い(早急修正を求む)

    • 特典ストーリーは賛否別れそう

以下、荒ぶった心を鎮める為の長い自分語り及び細かい感想


動揺

 事の発端は2023年11月1日。一年以上音沙汰がなかった原作小説の続刊と共に報じられた乙女ゲーム化決定の知らせ。
 まさかの公式展開に唖然となっている私に追い打ちをかけるゲーム説明。

 『アクアスティードからの溺愛だけでなく、ゲームならではのもしも・・・なストーリーも』 

悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される | 特設ページ | ビーズログ文庫 (bslogbunko.com)

 私の中のアクアスティード陛下が自分以外の溺愛は許さないとおっしゃっております

 理想のカップルと崇めている二人を公式が引き裂くだと
 
 え、まさかのキースルート爆誕!?
 確かに2020年、池袋駅で掲載されていたラッピング広告ではアクアスティードと並べられて「どっちがいい」とかなんとかあったり、声優も人気どころを起用し、ボイスドラマ等でも絡みが多く需要が高い事が伺える。
 だが、いくら需要があろうと自分の需要はゼロだ。
 キース単体は好きだが、正直あまりティアラローズと絡むなと思ってしまう。アクアスティードの嫉妬が見れるのは嬉しいが美味しい所を取り過ぎな所がCP固定厨である私の狭い心を刺激する。

 キース以外のルートの存在も想像し難い。
 現在、原作小説は十四巻まで刊行されており(2024年3月時点)、九割のキャラは相手を見つけているという、総CP化の道を辿っているこの作品。相手が決まっているキャラと主人公の恋愛ルート・・・複雑すぎないか。
 

 原作ファンは喜んでいるのか? 現にここにいる一人のファンは動揺を隠しきれないでいる。非常に気になる所だが、私はCP固定厨と化した作品は検索しないと決めている。自衛の為だ。自分で折り合いをつけるしかない。これは私と公式の闘い。
 そんな私がまずした事は『乙女ゲーム』の定義を改めて調べる事だった。

乙女ゲーム(おとめゲーム)とは、女性向け恋愛ゲームのうち、主人公(プレーヤー)が女性のゲームの総称である

乙女ゲーム - Wikipedia

 割と幅広いという事しかわからなかった。

 私は乙女ゲームをあまりプレイしたことがない。『ジャックジャンヌ』と『へい!恋愛一丁』くらいと乙女ゲームの解像度は低い。
 原作付乙女ゲーム化の実例を探してみれば【はめふら】【華鬼】【ふしぎ遊戯】の例を見つけた。ふしぎ遊戯のみ原作漫画を読んでいるが、どうやら主人公は美朱ではなくオリジナル主人公を起用しているようだ。この作品でいえば本家「ラピスラズリの指輪」をゲーム化しましたという所だろう。このパターンは正直嫌だなぁと思いつつ、この可能性は公式のゲーム説明で主人公は転生したティアラローズとあるので除外。
 【華鬼】【はめふら】は主人公は変わらず色んなキャラクターと恋愛できるようだ。私が懸念するパターンだ。はめふらは逆ハー要素の強いイメージがあるのでまだ乙女ゲーム向きだと思う。公式CP以外の救済と考えれば他CPファンは嬉しいのかもしれない。
 更にはめふらに至っては攻略対象の一人にオリキャラが存在していた。
 目から鱗だった。そうか、攻略対象がいなければ新たに作ってしまえばいいんだ。え、アクアスティードと同等のキャラを作る・・・。 
 サラヴィアみたいなキャラが登場したらどうしよう。アクアスティードが失恋するかもしれない。駄目だ耐えられない。
 ネットの海に沈むほど、様々な妄想が掻き立てられてしまう。
 
 これ以上調べても公式発表以外の情報は得られない。私ができる事は続報を待つことだけ。

 次の新情報は小説の新刊のあとがきにあった。

基本的にはアクアスティードとの恋愛

悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される14巻

 【基本的】ってどういう意味ですか!? なんか例外もあるとも取れてしまう便利な言葉、基本的。 
 日本語って難しいなぁ
 これは伝家の宝刀『ゲーム化なんてなかった』を抜く時がくるのか。
 やはり相手は妖精王なのか。楽天コレクションのくじの時もちゃっかりいたし。俺様キャラだし。特典イラストにも良く描かれているし。
 もしかして想像以上に需要はあるのか。
 私の心が狭いだけなのはわかってはいる。

 その後は毎月発売される乙女ゲーム専門雑誌や公式サイトで得られる情報を中心に、あらゆる可能性を立て心の準備をした。雑誌の詳細は後述する。

シナリオ

 さて散々心をかき乱された五ケ月間。いざ蓋を開けてみれば、恐れる事は何もなかった。冒頭にも言及したがこのゲームは原作小説一巻~三巻の内容を再現したものだった。
 ティアラローズとアクアスティードの恋愛ゲーム。乙女ゲームだという説明に嘘はない。だが乙女ゲームプレイヤーにとっての大事な説明が不足している。
 攻略対象だ。
 
サイトを見る限り誰が攻略対象なのか不明だ。
 答えはアクアスティード一択なのたが「もしものストーリー、オリジナルエンディング」の文言が答えの導きを阻害している。
 そもそも攻略と言っても開幕どころかゲーム開始前からアクアスティードの好感度はMAXだ。加えてどの選択肢を選んでも好感度が下がる事はなく全部ハッピーエンド。攻略のへったくれもない。もしかして攻略対象の概念自体ないのかもしれない。

 私はそれで非常に喜んだが、他プレイヤーは乙女ゲームのカタルシスの皆無さに肩透かしを食らうだろう。これもメーカー側の説明不足が原因だ。サイトに嘘はないが、あまりのシンプルさに売る気はあるのか心配になる。

 もう一度言うがこのゲームにはバッドエンドやノーマルエンド等は存在しない。そのことを知らなかった一週目の自分はバッドエンドの可能性に怯え、胃を痛くしながらボタンを押し続けたものだ。奇しくもその恐怖は乙女ゲームの強制力に怯えるティアラローズと重なり、妙な一体感があった。
 
 選択肢は全部で三択。一番上を選ぶとピンク、真ん中は青。一番下は黄色の魔法陣が浮かびあがる。恐らくそれが分岐に繋がるパロメーターに関わるのだろう。とはいえ同じ段の選択肢を選べばいいのでゲーム自体の攻略要素も薄い。
 全三巻あるゲームはそれぞれ原作の巻と対応した内容を収録している。一巻ごとに独立しており、各巻につき三種類のストーリー、全九種類のシナリオが楽しめる。一番上は原作と同じセリフなのでゲームオリジナルストーリーは六種。
 バッドエンドがないと分かったとはいえ、自分はその六種のストーリーにどんな爆弾が仕組まれているかハラハラしながらプレイした。
 その不安も杞憂に終わった。分岐したオリジナルストーリーもほんの少しの違いでエンディングは原作と全く同じだったのだ。
 同じ路線で始発と終点が同じ、停車する駅が終点手前の一駅だけ異なる、そんな感じのシナリオだった。

 オリジナルストーリーはアカリ、ハルトナイツ、キース、アイシラが好きな人の為のスチルがある、サブキャラを深堀した内容。
 一巻と三巻のもしもはアクティアの絆を別角度で拝めたので個人的に良かった。
 一巻はハルアカ好きの為のもしもの内容。ティアラローズにこれ以上被害が出ないようにハルアカの中を取り持つアクアスティードが印象的だ。あと一巻のもしもは個人的に見てみたかった内容だったのでとても満足した。焦る殿下ご馳走様でした。
 二巻のキースのもしもは少々許容しかねた。美味しい所摂りすぎだろうこの男。折角の結婚式なのに参列者の印象は完全に妖精王に持ってかれたことだろう。ただでさえ原作でも結婚より祝福の方が注目を集めているのではないかと殿下と共に少し妬いている。
 まぁ三巻のキーススチルもカプ固定厨としてはくっつきすぎだと思ったが、焦るアクアスティードを拝めたから良し。三巻アイシラスチルも原作とは少し違う感じで洗脳されても抗うアクアスティードを拝めたので良い燃料。アイシラのモノローグも彼女の純粋さと強さが表現されて良かった。
 

スチル・キャラクター

 個人的にほぼ満点の出来だ。ゲーム化発表時のキービジュアルでスチル周りの不安は一切なかった。小説・漫画とはまた一味違うキャラデザ。このイラストを使用したグッズが欲しいが、残念な事に今のところ公式からの発表はない。
 毎月発売された雑誌を捲る手は不安で震えたが、美麗なイラストに心が癒えゲーム化に対する支えになったのもまた事実。
 電子と紙、両方買う程。
 原作ファンならスチルの為だけでもゲームを買っても損はしないと思う。

 特に第二巻のスチルは本当に素晴らしかった。ある一枚のスチルが本当に神々しく、これだけでもゲーム制作に関わった全ての人に感謝した。
 百点満点をあげられなかったのはメインキャラ以外のキャラクターの扱いだ。特にタルモとカイル。
 ティアラローズの専属護衛騎士であるタルモ。原作でも出番は準々レギュラー位の頻度だが、フィリーネとエリオットと同じく主人を支えるキャラとして随所に活躍しており個人的に好きなキャラだ。
 このゲーム、メインキャラ十人以外の作り込みが物足りないと感じた。キャラデザ、声の違和感。モブより少し毛の生えた程度の作り込みに少しガッカリした。
 そしてカイルは今後アイシラと結ばれる事となるキャラだ。実の所、原作小説一巻~三巻ではカイルは登場しない。彼はスピンオフで活躍するのだ。キャラデザもコミカライズが先。だからゲーム三巻でカイルが登場したときはテンションが上がった。もしものストーリーで活躍するのではないかと。しかし、そんな期待も虚しく彼の出番はこれ以上なかった。
 折角の立ち絵がワンシーンだけで終わった(これはマリンフォレスト国王夫妻もだったが)。もったいない。非常にもったいない。
 ゲームだからこそ一層存在感をだしてアイシラとの絡みを増やして欲しかった。私が求めていた『ゲームならでは』はそういう所だったのだ。

ボイス

 個人的にこのゲーム一番の収穫。
   これまでこの作品はドラマCDを始めとしたボイス作品をいくつか世に送り出してきたが、そのストーリーはどれも平和な内容だった。二人の性格上、非常に穏やかで甘い会話が交わされる。
 甘いボイスドラマも良いが、自分としてはもっといろんな声色で互いを呼び合って欲しい、もっと焦った声等が聴きたいと常々思っていた。
 ゲーム説明にフルボイスの文字を確認したとき歓喜した。聴きたかった原作のセリフがたっぷり堪能できると。

 特に第二巻、ティアラローズが妖精王に攫われ、アクアスティードが取り戻しにくる一連のボイスは本当に悶えた。
 『ふざけるな』『妖精王』と怒鳴り声をあげるアクアスティードは正に私が聞きたかった声色。焦った声で互いを呼び合いシチュエーション。声が付いた時の破壊力の高さに休みながらプレイせざる負えなかった。
 
 原作と違う選択肢を選んだ時に聴けたオリジナルボイスも非常によかった。ティアラローズが何を言っても甘い言葉しか吐かない殿下に拍手を送りたい。中には原作より好きなセリフがあり、このゲームの価値を上げている。
 様々なバリエーションの声を長時間聴いたおかげで小説や漫画を読む時、余裕で脳内再生できるようになった事は正に僥倖。

システムの問題点

 これは本当に令和のゲームですか? そこまでゲームをプレイしない自分でも【これは不便だ】と思わせてしまうシステム。乙女ゲームを多くプレイしている人は更にイライラしただろう。
 テキストを見直す際のスクロールが遅い、既読テキストの早送り機能も遅い。ロードも遅い。なんだろう全体的にもっさりしている。あと立ち絵が動かないのも気になった。折角のキャラデザを生かせていない。
 だがシステムの不便さはまだ可愛い。ゲームができないレベルではないし、不便は慣れてくるからだ。
 一番の問題点はバグだ。ゲームでバグが生じてしまうのはある程度仕方のないことだと思う。
 しかし・・・

 結婚式でバグるのはあんまりではないか

 ティアラローズの立ち絵がゲーム開発段階に使用していたと思われる仮りのモノになっていたのだ。一部だったが、思わず爆笑してしまった。まさかこの作品でこんなにも笑える日が来ようとは思わなんだ。
 自分のswitchが壊れたのかと疑ったが二度三度と同じ現象が起こったので完全にバグです。
 他にもテキストとボイスがズレていたり、誤字があったり、早送りボタンが反応しなかったりと後半あたりの不具合が多い。自分が少しプレイしただけでボロボロ出てくる。ゲーム開発がどのような工程で行われるか良くは知らないが、デバック作業を怠っているとしか思えない出来だ。
 原作を知らない人からしたら、システムの不便さやバグが気になってストーリーに専念できなかったのではないか。そこも非常に残念だ。
 

フルコンプ特典ストーリー

エンディングコンプリートによるゲームオリジナル特典ストーリーでアクアスティード以外のあのキャラとの「もしも……」をご堪能ください

悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される ダウンロード版 | My Nintendo Store(マイニンテンドーストア)

 この説明文がずっと枷だった。
 特典ストーリーはアクアスティード、ハルトナイツ、キース、エリオットの四種。
 深呼吸をし、まずはハルトナイツを選択。胃痛で憂鬱な自分の視界に広がる導入。

これはティアラローズの物語とは別の物語。転生、転移して来なかった世界

 これは、もしや・・・
 ストーリーを読み、他三人のストーリーも確認する。どれも同じ導入。
 セーーーーーーーーーーーフ!
 良かった。ここでも恐れる事は何もなかった。
 自分は例えば
『もしも、断罪イベントで助けてくれたのがオリジナルキャラだったら』
『もしも、ティアラローズの前世の記憶がアカリの転校前に戻っていたら』
『もしも、ティアラローズがマリンフォレストに留学していたら』
 等々、そんなIFストーリーがくるのではないかと身構えていた。
 そこまでの『もしも』じゃないと他ルートは難しいと思っていたからだ。でも違った、特典ストーリーは私が推すティアラローズは全く関係ない。
名前も『あなた』固定。私は両手を上げて喜んだ。
 アクアスティードのストーリーもあったけど、全然問題なし! だってこれは本編でさんざん出てきた『ラピスラズリの指輪』という元ネタゲームはこんな感じですよ、というプレイヤーに向けた紹介ストーリー。乙女ゲーム要素を期待、別キャラ推しに向けたフルコンありがとうストーリー。しかもとても短い。
 そう特典ストーリーのアクアスティードも全くの別物。こういう事もあろうかと多元宇宙論等を勉強した私の心に隙はない。

 と、歓喜に舞う私の視界に気になる説明があった。どうやら、アクアスティードは特典ストーリーでも隣国に留学し、そこで失恋したそうだ。
 原作小説にそのような設定あった?
 でもエリオットやキースの特典シナリオにも留学をしたとある。
 もしかして元ゲームのアクアスティードの初恋もティアラローズ……?
 だとしたら本編のアクアスティード、改めて本当におめでとう。

 ちなみに他プレイヤーはこの特典ストーリーをどう受け止めたのだろう。

新たな解釈

 長きに渡った推しカプ破局危機を乗り越えた自分はようやくゲーム自体を楽しめるようになった。
 人間、心に余裕ができると視野が広がるものだ。改めて一巻~三巻の物語をプレイする中で思ったのだが、このゲームのティアラローズ、選択肢のせいなのか青ざめる表情の多さのせいか、原作よりネガティブ思考がかなり高まっている。
 アクアスティードが一途に愛を注いでも、中々不安を消せない彼女。ある意味一番手強い。
 もしものストーリーに怯えていた己を棚に上げ、大丈夫だと不安がる彼女を鼓舞し、殿下に同情しまくった結果、最終的に私はアクアスティードにとても感情移入しながらプレイしていた。最推しはティアラローズなので、元々彼と共に彼女を愛でるゲームと化していたのだが、それ以上にアクアスティードを応援している自分がいた。
 
 更に、分岐ストーリーに行く為とはいえ、別のフラグが立ってしまう様な選択肢が出現し、それを選ぶと案の定思わせなセリフが吐かれる。勿論ティアラローズの気持ちはアクアスティードに向き続けているのだが、アクアスティードが聴いたら嫉妬や誤解で大変な事になりそうなセリフがちらほらと。聴いているこっちが別の意味でハラハラした。
 立ちそうになる度、全力でフラグをへし折った彼の働きは大きい。

 思い返せば、折角婚約したのに他の女性に言い寄られるわ、王太子としてのしがらみ、情緒不安定な婚約者は自分より貴い存在に狙われ、結婚式には乱入され、海は濁り、惚れ薬を飲まされたり等々・・・・・・間違いなくこの物語で心身ともに一番苦労し頑張ったのはアクアスティードだ。
 
 アクアスティードの言動は全てティアラローズの為かつ、自分の腕の中に落とすことに集約されていた。逆に彼女はその性格も相まって受け身であることが多かった。
 
 ここで、一つの仮説を提示したい。

 このゲーム・・・もとい『悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される』という作品は、ティアラローズをアクアスティードが攻略する物語なのではないか?

 本来のストーリーであれば結ばれる事がない二人。しかし、その恋はアクアスティードの求婚によって幕があげられた。そう、望んだのも始めたのも彼だ。だから一連の試練の対象はティアラローズではなくアクアスティードに向けられたのもだと思えば、彼の苦労の多さはどこか腑に落ちる。

 そして、この仮説を裏付ける要素の一つが、ゲーム中出現したアクアスティード視点の選択肢。たった一回。でも唐突に現れた選択肢に拭いきれない違和感を覚えた。
 出現したタイミングがティアラローズが前世の記憶を取り戻す前、つまり過去の回想。もっと言えばゲームが始まる前。その時の選択肢が、今更何に影響を及ぼすというのか。
 まぁ制作時の方向性の変化の名残。作り込みが甘いと受け取れる事もできる。
 しかし自分はこの一回の選択肢がアクアスティードこそ、この乙女ゲームの世界で最も戦わなくてはならない真の存在だという証左に思えてならない。
 
 悲しい事に、この物語に於いて乙女ゲームはある種の呪縛だ。
 
 ヒロインという存在。悪役令嬢という自分の存在。起こってしまった断罪イベント。ティアラローズを縛る乙女ゲームのトラウマが彼女の信じる心を蝕み、この世界の障害となってしまった。
 何も知らないアクアスティードは彼女がどんな選択肢を選んでも、正解を導き出すしかなかった。ひたすらに愛を注ぎ、なにものからも守り抜くという強い誓いとその実行力だ。その結果が、どんな分岐を辿っても一つのエンディングに帰結するシナリオ。

 アカリの襲撃、妖精王とのバトル、結婚式のあれこれ、海の秘薬等。今回のゲームで分岐したシナリオ及び原作ストーリー全体的な事件。
 全て主人公であるティアラローズよりアクアスティードの方が頑張って対処していた。だってこれはアクアスティードが始めた物語。乙女ゲームから彼女を解放できるのは彼しかできないのだ。
   
 そして、すべての試練を乗り越えた先の三巻目のエンディング。
 やっと彼女の不安は払拭され、完全にアクアスティードの腕の中に落ちた。何の憂いもなく彼女から紡がれる愛の言葉。あの瞬間こそ、ティアラローズ完全攻略のハッピーエンドなのだ。

 このゲームはティアラローズになって体験するとある。私は体感した、思い知った。アクアスティードのティアラローズに対する深い愛を。

CP固定厨がプレイした結果

 恐らく・・・否十中八九、このゲームに対する大多数の評価は低いだろう。
 しかし二人を見ているだけで多幸感を得られるカプ固定厨の自分は買って良かったと心から思う。確かにゲーム性は悪い。酷いバグもあった。演出も褒めるところは少ない。でもそれ以上に推しカプの新規絵、会話、新たな気づき等、得られた事の方が圧倒的に多い。ゲーム化で悩んでいた日々も今となっては楽しい思い出。

 今後このゲームはスチル絵を眺めたり、お気に入りシーンをリピートして楽しむことに役立つだろう。
 長きに続いた胃痛と別れを告げ、原作小説と漫画の更新を楽しみにする日々に戻るとしよう。