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絵のない絵本⑰ おじいさんからのプレゼント

空はグレー。今にも消えそうな雪がちらちらしていた。

ぼくは、たいくつな今日を

さらにたいくつにさせて過ごしていた。


コンコンコン


ドアをたたく音がした。


ぼくの体に“たいくつ”がまとわりついて動けない。


ドンドンドン!


!?


ハッとした。

目が覚めたようだった。



ドアをあけると、そこには

赤いセーターを着た、まんまるな体の大きなおじいさんが立っていた。

白いひげで口が隠れて見えないけれど、目がビー玉みたいにきらきらしていて、目尻には深いしわが何本もあった。


一目で、なんだかワクワクする気持ちになった。


おじいさんは目尻のしわを深め、にこりと微笑むと、

赤いリボンの白い小さな箱を、ぼくに手渡した。

??


顔あげると、おじいさんはいなくなっていた。

「おじいさん!?おじいさん!どこにいったの?おじいさん!…」

「…。」


箱をあけると、そこには何も入っていなかった。

「え?何も入ってないけど… もしかして、ぼくに何か入れてってことかな。」


どうしよう?でもたいくつだったし、丁度いいや!


でも、こんな小さな箱。何を入れよう?
誰へのプレゼントだろう?


ぼくには、プレゼントをあげたい人なんていない。

あげる人がいないのに、あげるものを考えるなんてむりだ。

「やーめた!」


ゴロンと天井を見上げ、“たいくつ”がまたまとわりつきそうになった時。


「そうだ!さっきのおじいさんへのプレゼントにしよう!」


たいくつがふきとんだ。


おじいさんのほしいものはなんだろう?

好きなものは?

頑張っていることは?

夢中になっていることは?


何をプレゼントすれば喜ぶかな?



今日おじいさんが来てくれて、ぼくはたいくつな日がたいくつじゃなくなって、

本当に嬉しかったから、“ありがとう”が伝わればいいんだけど…

だけど、こんな小さな箱じゃ入らない。


悩みながら、なんとなくまた箱をあけると、さっきは気付かなかった声が聞こえた。


「メリークリスマス。」


優しい声だった。

この小さな箱は、おじいさんからぼくへのプレゼントだったんだ!


ぼくは、ていねいに、少し不恰好な白い箱を作り、その中に大きな声で精一杯の“ありがとう”を詰め込んだ。

この時にとくに気をつけたのは、ありがとうを箱に叫んだあと、サッと蓋を閉めること。

とても緊張した。


赤いリボンのかわりには、ぼくの赤いニット帽の毛糸を使おう。



「できた!」



外は星がきらきら瞬いていて、ぼくの深く白い息でも隠せないほどだった。

ドアのすぐ近くに椅子を置いて、“おじいさんへ”と大きく書いた紙を張り、小さなプレゼントを椅子に置いた。



今日は、本当に楽しい1日だったなぁ。


まだワクワクしていたが、

スッと眠りについた。



朝目が覚めると、一目散にドアをあけた。

椅子の上のプレゼントがなくなっている。 


「やったぁ!」


張り紙の“おじさんへ”の下には、

“ありがとうをありがとう”と書いてあった。



ぼくは、

【“ありがとうをありがとう”をありがとう】

って思いながら、


赤いリボンを穴のあいたニット帽にくくりつけていた。


つぎはどうやって“ありがとう”を伝えようかな。



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