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とりあえず感情論はやめよう

例の『お家騒動』の件です。
極力フラットにまとめますので、まとめとしてご利用ください。

1.時系列の整理

11/30(月) 臨時取締役会にて、松本保博前社長の解任が決まる

12/1(火) 13:55 松本酒造の取締役で杜氏の松本日出彦氏が退職を報告

12/1pm以降 日本酒界隈のタイムラインが荒れ始める

12/2(水) 12:26 特約店関係者から以下のコメントが出る

12/2(水)午後 松本酒造から特約店関係者宛に、経緯を記載したFAXが送付される

12/2(水)夜? 松本酒造から届いたFAXについて、特約店関係者が自らのメッセージ付きで公開
 佐野屋:松本酒造代表取締役及び杜氏変更について


2.登場人物の整理

人物と退職経緯を中心に。

松本酒造

解任と自主退職はごっちゃにしないようにしましょう。

保博氏
11月30日の臨時取締役会で社長を解任され、12月8日に取締役も解任となる。先代の頃には『日出盛(ひのでざかり)』『桃の滴(もものしずく)』等の既存ブランドを担当していた。

日出彦氏
現杜氏で、保博氏の息子。父の解任を受け、12月31日付での自主退職を公表。メディア露出が多く、固定ファンがついている。元DJ。
庄平氏から『澤屋まつもと』ブランドを任されて引き継いでいた。

庄平氏
『澤屋まつもと』
ブランドを立ち上げた、"幻の料理人"。
松本酒造での本職の他、2014年10月までは横浜で「澤屋まつもと 酒道場」という飲食店を営んでいた。
今回、体調不良を理由に自主退職した(明確な退職日は不明)。

正治氏
新社長。
明確な期間は不明だが、20年近く卸営業の担当として東京に居た模様。


3.飛び交った憶測

とりあえず、あくまで憶測なので話半分に。
(掲載時点の記事なので、後日出た追加情報との矛盾点は未検証です。この項はあくまで憶測のまとめです)

・創業家内での不和?
・分家である黄桜酒造と関係?
・ベンチャーキャピタルからの圧力?
・税金対策?

感情論抜きで、フラットで読みやすい推論はこのあたりかな…

あと『税金対策』って推論、何処かの酒蔵関係者が言ってたみたいなのですが、今回の件を抜きにして、どういうロジックなのか興味ありますね。
誰か詳しい方、解説してくれないかな…


4.今回の件で発生していること

まぁ、大きく言えば「ブランドの毀損」ですね。
もはや、SNS上では既に酷いことになっていますが、これから徐々に売り上げへの影響が出てきてしまうのでしょうか…

①ブランドの毀損
日出彦氏が現在の松本酒造の看板として露出していたこともあり、日出彦氏に肩入れする一般消費者・日本酒業界関係者、『澤屋まつもと』ブランドのファンを中心に、『(名はさておき、実として)ブランドが終了する』という憶測や感情論が飛び交ってしまっている。

②特約店の解約
既に、一定期間後の解約を宣言している特約店がある。また、今後の経緯(蔵側の対応、品質や売れ行き等の推移でしょうか)によっては解約検討もあると発言する酒販店も出てきている。

③不買運動
直接的には①に関連し、蔵側への不信による不買宣言や、不買運動を示唆する発言がSNS上で見受けられる。


5.個人的に気になる点

休造期ではなく、酒造りの本番である冬季に今回の件が起きてしまったことについて、創業家と直接の関係がない蔵人さん達への影響を気にしています。
SNS上では「職人は、上が変わったくらいで揺らぐようなヤワな酒造りはしてねえよ」という趣旨の発言も見かけましたが、それでも心配は心配です。

あとは、『解任を決めた側が、日出彦氏の離脱を予期していたか』という点ですね。
今回の件に至るはっきりした経緯が見えていないので憶測になりますが、保博氏の解任について、息子の日出彦氏の反発は確実に予想していたのではないかと思います。
退職すること、火種を撒くことなどまで予想できていたか、直近の看板となっていた日出彦氏がどれだけブランドイメージと結びついていると見られていたかを分析できていたかなど、日出彦氏離脱によるブランド毀損リスクをどのレベルまで想定して動けていたのでしょうかね…

あとは、『今後の松本酒造の味がどうなるか』ですね。
「杜氏が変わったら不味くなる」なんてことはこれっぽっちも思っていませんが、「上も杜氏も変わったら、蔵人さん達はそのまま残ってても味は変わっちゃうんだろうなぁ」とは思います。
そもそも私は『今までの松本酒造のファン』ではないので、そこはフラットに結果で判断したいと思ってます。

既存のファンの方も、『今後の松本酒造は、味を見てから判断する』と『日出彦氏が他で新たな酒造りを始めるなら、あらためて応援する』の2本立ての気分で、ドンと構えてはいただけないでしょうか。


6.最後に

なんかもう、この件に関連して終始感情論ばかりが飛び交っていて、短期間なのにやたら疲れました。

今回の件も含めて誰かがぽろっとこぼしてましたけど、

「日本酒業界って、ビジネスとしての実よりも、人の感情に左右されすぎじゃね?」

とは言っとかないといけないのかな、と思います。


『国酒』といいつつ、国内での酒類の中でもシェアが雀の涙になってしまっている現状だったりとか、
競争原理が働くべき市場が、謂われの無い感情論が制度上の国内新規参入障壁を堅く補強してしまっていたりとか、
新規市場開拓はスタートアップや一部の先進的な蔵に丸投げにしてるくせにて、『日本酒が売れない』と喚きながら誰の方を向いてるのかよくわからない酒造りをしている蔵がぼろぼろあったりとか、
そういうのいい加減そろそろ勘弁していただきたい。

私は、一人の日本酒/SAKEファンとして、もっと様々なまだ見ぬ美味い酒に出会って感動したいだけです。

私は、一人の唎酒師として、まだ知られていない美味い酒があったら、もっといろんな人に出会って感動してもらいたいだけです。

なんかあったらとりあえず足引っ張ったりとか、足引っ張られたりとか、そういうのやめませんか。
今は、日本酒業界全体や日本酒ファンが、みんなで一緒に『どうやったら日本酒のファンを増やせるか』、『どうやったら世界中で日本酒/SAKEが当たり前に呑まれるようになるか』を考えて行くべき時なんじゃないんでしょうか。

特に不買運動とか、松本酒造に残った蔵人の方達の首を絞めるだけだから、日本酒を愛しているなら、今までの『澤屋まつもと』を愛していたなら是非ともやめていただきたい。
彼らだって、上に振り回されただけの被害者かもしれないのに。

酒に文句をつけるのは、『好みの味から変わってしまったことが、自分の実感としてわかった時』までは、ひとまず止めにしておきませんか。
そう、まだ慌てる時間じゃない。


とりあえず今回の件は、私個人としてはここに書き殴ったことで感情としては区切りを付けたいと思います。
皆さんも、くれぐれも冷静に、ね。


【12/25追記】
SAKETIMESにて新社長のインタビュー記事が出ています。

【1/27追記】
日経ビジネスに前杜氏が寄稿しています。

【7/29追記】
長野県の杉の森酒造にて前杜氏が新ブランドを立ち上げるようです。

"歌う唎酒師"、ヒューぽん@よいどれクソメガネです。SSI認定唎酒師、情報処理安全確保支援士、日本酒/焼酎/ビア/ワイン/スピリッツナビゲーター。都内東側在住のよっぱらい男子です https://huepon.tumblr.com/