人の口に戸はたてられぬ ロボットあみちゃんはアイドルです

 「月プロ」の大月さんは、ロボット研究所にたのんで、歌手ロボットをつくってもらいました。コンピューターでうごく、かたちも声も人間そっくりのロボットです。ただし「六時間ごとにやすませ、充電すること」と、ちゅういがきがありました。
 大月さんは、そのロボットに、あみと名まえをつけて、ロボットなのをかくして、新人歌手として売りだしました。
「すきとおった、いい声だねえ」
「おどりかたも、おもしろいわね」
 あみちゃんは、どんどん人気があがって、みんなのアイドルになりました。
 きょうも、あみちゃんがテレビ局からでてくると、ファンがよってきました。
「あみちゃん、かわいい!あくしゅしてえ」
 大月さんはファンをさえぎり、あわてて、あみちゃんを車にのせました。
 あみちゃんは、つぎのテレビ局でも、リズムにのってうたいました。
 司会者がききました。
「あみちゃんは、としもしゅみもおしえてくれないけど、ひみつ主義なの?」
「はい、ひみつ主義です」
「じゃあ、なんにもきけないね。わからないのもみりょくのひとつだけど」
「はい、みりょくのひとつです」
「ハッハッハッ...、あみちゃんには、かなわないや」
 あみちゃんは、またまた人気があがりました。ドラマ出演も、たのまれましたが、大月さんがことわりました。
 あみちゃんは、コンサートもひらきました。どれも、大せいこうで、大月さんはついつい、しごとをふやしました。
 ある日、とうとうあみちゃんは、テレビ局のひかえ室で、たおれました。
「わたしは、あみです。わたしは、あみです。わたしは、あみ・・・・・・」
と、あみちゃんは、うわごとのようにくりかえしました。
「あみちゃんたら、へんねえ。こわれたテープみたいな声だして」
 わかい歌手が、首をかしげてつぶやきました。
 大月さんが、あわててあみちゃんのせなかをおすと、プツッと声がとまりまあした。いあわせた人たちが、「あれっ」と、顔を見あわせました。
「ちゅうしゃしてもらえば、すぐなおるから。だいじょうぶ。あみがたおれたことは、ないしょにしてね。あさっての音楽祭は、かならずでるから」
 大月さんは、みんなにくりかえし、口どめをしました。でも、人の口に戸は立てられないものです。
 ひかえ室にいた、歌手やマネージャーが、口ぐちにいいはじめました。
「あみちゃんは、やっぱりおかしかったわ。機械みたいな声だったもの」
「そういえば、おどりかたもへんよねえ。人形みたいにぎくしゃくしてるわ」
「あみちゃんは、ロボットだったりして!」
「まさかあ。でも、食べたりのんだりしているの、見たことないねえ」
 そこへ、カメラマンがはいってきました。
「あみちゃんはロボットだって?それほんとうなの?」
「あ、そうじゃないかなあって、話だけだから、本気にしないでね」
 わかい歌手は、あわてて手をふりました。
 でも、このうわさは、たちまちテレビ局じゅうにつたわりました。芸能ニュースのレポーターの耳にもはいりました。
 レポーターは、あみちゃんとおなじひかえ室にいた人たちに、たしかめてまわりました。でも、ほんとうのことはわかりませんでした。
 レポーターは、月プロの事務所にも、ききにいきました。事務所の人が、こまった声でいいました。
「わたしはるすばんで、なにもわかりません。大月さんもあみちゃんも、まだかえっていません」
 うわさをききつけて、ほかのレポーターまで、さわぎはじめました。
「もし、あみちゃんがロボットなら、大月さんがまるもうけだよ」
「ファンだって、だましたことになるよな」
 そのころ、大月さんは、あみちゃんをロボット研究所にはこびこんでいました。
「大いそぎで、あみをなおしてください。あさっての音楽祭にでなくては」
「こんなにはやくこわすなんて。どんなつかいかたをしたのかね」
と、研究所の人はあきれたけれど、こわれた部品をとりかえてくれました。
あみちゃんは、もとどおり元気になりました。
 音楽祭の日、あみちゃんが会場にいくと、レポーターたちがおしかけてきました。レポーターたちは大声でききました。
「あみちゃん!あみちゃんは、ほんとにロボットなの?」
「はい、わたしはロボットです。でもそれはひみつよ!」
 あみちゃんは、にっこりわらって、そうこたえました。
 

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