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村上春樹の新作小説から「直喩表現」を書きだしたらとんでもない数になった

「お腹は空いてる?」「かなり減っていると思う」「あなたは私に対して異性としての関心みたいなものを抱いている?」「そう言われれば、確かに抱いていると思う」
それくらいハッキリ言えや。こんばんは、アンチ春樹15年のおじさんです。

村上春樹先生の『街とその不確かな壁』、皆さんはお読みになられましたでしょうか? 作品の性質的にはRPGの新作のように消費されている春樹先生の長編小説ですが、今回も「謎」と「metaphor(寓喩)」に彩られた、とてつもない"失敗作" "問題作" でありました。
待ってましたとばかりに腕をまくって謎をていねいに解き明かしていきたいところなのですが、今回は読んでいて「まるで~~のような」といった春樹先生が大得意とする「Simile(直喩)」が非常に多いな? と感じたので、再読ついでに"それら"をすべて書き出してみることにしました。今回だけが特別多いのではないかもしれません。

正直、骨が折れました。まるで、自分の思想と相容れない信仰の経典から、教祖の口癖を抜き出すような作業でした。
これに何の意味があるかというと、特にありません
ただ、先生の美しい直喩表現たちを降り注ぐ春の陽光のように浴びてほしくて。
あとがきも含めた661ページから、すべて ー多少の見落としや誤りもあるのかもしれないがー 290個ほど挙げました。登場順。
では比喩(イ)ってみよう!!

[本編]
・まるで数千本の目に見えない糸が、きみの身体とぼくのこころを細かく結びあわせているみたいだ
・古代の哲学者や宗教家たちが、それぞれの忠実で綿密な記録係を、あるいは使徒と呼ばれる人々を背後に従えていたのと同じように
・柳の緑の枝が春先に一斉に芽吹くのと同じように
・古いコートのポケットからぼろぼろになった何かを、少しずつすくい出していくみたいに
・まるで話の筋を辿るためには、そこにある手相(か何か)を丹念に読み解くことが必要不可欠であるかのように
・大事な秘密をいくつか奥に隠し持つみたいに
・「誰かが来たぞ」とあたりに警告を発するように
・足音を殺して塀の上を歩いて行く細身の猫のように
・ビタミンなんとかみたいに?
・そう、ビタミンなんとかみたいに
・記念写真のポーズでもとるみたいに
・断片を出鱈目に継ぎ合わせた録音テープやフィルムを逆回しに魅せられているみたい
・希少な生物の卵を扱うのと同じように
・それがすごく大事な結末をもたらす行為であるかのように
・『アンネの日記』みたい
・普段の生活で地球の重力を実感することがまずないのと同じように
・脱ぎ捨てられた古い長靴みたいに
・赤ん坊のヘソの緒が切られるみたいに
・幼児の乳歯が生え替わるみたいに
・首輪につけた紐を外し、犬にしばしの自由を与えるように
・まるで何か重要なことを思い出しかけているみたいな
・まるで干されたシーツが風にそよいでいるみたいに
・大理石でできたみっともない形の置物みたいに
・それは大きな黒い畏怖みたいなもの
・書き込みのない真っ白な白いノートのようなもの
・たとえば瓶の蓋を捻って開けるとか、夏みかんの皮を剥くだとか
・まるで巨大な臓器の内壁みたいに
・地球に住む我々が月の同じ側しか見ていないのと同じように
・まるで砂漠の真ん中で水を求める人のようにな
・浜辺で潮がだんだん引いていくみたいに
・大きな波のようなものが
・厚い雲間から僅かに日差しがこぼれるように
・心の奥のほうで紐がぐしゃぐしゃにもつれて、固まってほどけなくなる、みたいな
・ものごとの別のあり方を伝える比喩的な信号のように
・そこにあるすべての事物が前よりもどこか寒々しく、荒涼とした色合いを帯びているよう
・瓶の底に長く溜まってい古い塵が、誰かの息吹によってふらりと宙に舞い上がるみたいに
・執拗な狩人のように
・木切れが潮流に運ばれるように
・鼻先でドアをバタンと閉めるみたいに
・煙のように
・人間の脳が左右に分割されているのと同じように
・休日のピクニックに出かけるみたい
・雪に同化するかのように
・何らかの疾患を抱えた巨大な呼吸器の喘ぎのように
・まるで獲物を吞み込んだ蛇のように
・人の目みたいに
・書き割りみたいな
・外から頑丈な鍵をかけられてしまったみたいな
・まるで割れた厚い雲のすきまから、太陽の明るい光線がさっと差したみたいに
・風のない朝、晴れた空からなにかきれいなものがひらひらと舞い降りてくるみたいに
・しぼんだ風船の空気みたいに
・タイタニック号みたいな
・真っ暗な底に向かって語りかけているような
・たとえばドアを押し破って冷たい海水がなだれ込んでくるといったような
・心の残響みたいなもの
・心の種子みたいなもの
・疫病のたねのような
・文字どおり煙のように
・小型のブラックホールみたいなものが
・木の葉が排水口に吸い込まれるみたいに
・無意味な紙くずになったように
・透明人間になったように
・重い鈍器にも似た
・氷の粒のような
・洞窟の奥のこだまみたいに
・理解不能なものごとを、理解できないと改めて確認するかのように
・山間に沈んだ泉の底を探るように
・分厚い雲の中を放心状態で、ただ前に歩み続けているような
・煙のように
・まるで巻き上げられる太いロープのように
・なまめかしく威嚇的に光り
・砂漠の植物が水分を必死で吸収するように
・針先で衝かれるように
・まるで柔らかなゼリーの層をくぐり抜けるみたいに
・不揃いな粒が混じったような
・うまく嚙み切れない食物を、諦めて喉の奥に送り込むみたいに
・古い記憶の小さな破片のように
・沈みかけた帆船の乗組員が船のメイン・マストにしがみつくみたいに
・朝の最初の光のように
・この場所の空気が自分の呼吸器に合っていない、というのと同じように
・地面に放置された重い鉄球になったみたいに
・まるで日向で眠り込んでしまった老いた猫のよう
・まるで親しい個人間で心を込めたメッセージが交わされるときのように
・まるで私自身の分身のように
・言葉を一時的に失ったかのように
・森の奥で見知らぬ動物に話しかけるような
・こなれた柔らかな生地の肌触りを思わせる
・水鳥が物音を聞きつけたときのように
・森の樹木のように
・自分が美しい詩の数行になったような
・私自身の内側を水が流れているような
・まるで用心深い森の小動物のように
・何か間違えてしまったものを口に入れてしまったときのような
・物語に挿入されたいくつかの断片的なエピソードのように
・鎮守の森の祠を決して開いて覗いてはならない、とでもいうような
・虫を間違えて喉の奥に呑み込んでしまったときのような
・ちょうど夜が明けて、やがて窓から日が差してくるみたいに
・不適切な秘密を吸い込んでいるかのような
・誰かがここで何か大事な秘密を、誰かにこっそり小声で打ち明けたみたいな
・まるで湖の底に沈んだ小さな鉄の重しのような
・それが何より大事な儀式ででもあるかのように
・知らず知らず深い深い夢想の世界に誘っていくように
・これから行う発言の予行演習をしているかのように
・そこにあったはずの言葉を残らず吸い取ってしまったかのよう
・固まった関節をひとつひとつほぐすみたいに
・まるで見計らったみたいに
・発言者に警告を与えるかのように
・鉤を鉄の輪っかに通すみたいに
・まるで音がみんな頭上の雲の中に吸い込まれていくみたいに
・まるで戦争中の灯火管制みたいに
・よく訓練された王宮の衛兵みたいに
・呪縛が解かれたかのように
・密やかな朝霧が太陽の光に消えてしまうみたいに
・たくさんのこびとたちが遠くの丘の上にずらりと並んで、それぞれに力の限りに太鼓を打ち鳴らしているような
・賢い猫のように
・自分自身に言い聞かせるみたいに
・必要なこと以外は何ひとつしゃべるまいと心を決めているかのように
・読み取ろうとするかのように
・いつも気持ちはどこかよその場所にあるような
・大事な意味を持つ分水嶺を踏み越えてしまったみたいに
・岩の隙間から水が湧き出すみたいに
・ただの空箱に成り果ててしまったみたいに
・まるで青春が戻ってきたみたい
・見晴らしの良い平らな台地にも似た
・すべての音がどこかにすっぽり吸い込まれてしまったような
・何かの抜け殻のように
・何か言いかけたまま果たせなかったみたいに
・時ならぬ突風を受けた小さな炎のように
・内側から鍵をかけてしまったかのよう
・まるでどこかの見知らぬ不作法な男に手を触れられたみたいに
・録音されたエンドレス・メッセージのように
・すべての生き物はどこか屋根の下で息を潜め、嵐が過ぎるのを待っているかのよう
・天使が一瞬にして悪魔に変貌するみたいに
・なんだかそのまま違う存在に変わっていくような
・暗いじめじめした部屋に春の陽光がふんだんに差し込んだみたいに
・まるで身なりを一変することを機会に、別の人格に乗り換えられたかのように
・建物の太い柱があっさり取り払われてしまったような
・まるで私が目覚めるのを、長い間そこで静かに待ち受けていたみたいに
・腹話術師に言われるがまま口を動かす人形のように
・まるで力尽きて手を離した人のように
・雨だれのように
・モノリスのように
・スライド写真を眺めるように
・まるで足元の茂みから鳥が飛び立つみたいに
・大事な客をもてなす賢明なホストのように
・まるで私が長い鮮やかな夢でも見ていたかのように
・まるで強いバネに弾き返されるみたいに
・一時的な頭ののぼせみたいな
・頭が空白になってしまうような
・白昼に深い夢を見ているかのような
・他のことなど何ひとつ考えられないような
・自分がただの影のように
・巧妙に自分のふりをして生きているような
・まるで何か異物を呑み込んだときのように
・向こう側がいくらか透けて見えるみたいに
・まるで紙に印刷された文章を棒読みしているみたいに
・深い穴の底にある何かを、じっと集中して覗き込んでいるような
・伝染病にかかった人を避けるみたいに
・まるでついさっき世界の裂け目を目撃してきたかのような
・物音という物音を厚い雲がそっくり吸い込んでしまったみたいに
・その進行に確証を与えるかのように
・文字通り墓場のように
・幼虫のように
・まるで海の水をバケツで汲み上げているような
・まるで地球の創世の現場を見守る人のように
・そのいかなる細部をも見逃すまいと心を決めた人のように
・秘密を共有する共謀者のような
・熱を持ちすぎたものを冷ますみたいに
・まるで生き物のよう
・何か堅いものでもので背中を思いきり打たれたような
・部屋全体がぐらりと揺れるような
・ジグソーパズルを組み立てるように
・いつか見た鮮明な夢の中身を思い出して語るように
・その夢をもう一度くぐり抜けるように
・まるで眠っている大きな猫が、深い眠りの中でひとつ吐息を吐くみたいに
・配電盤のブレーカーが自動的に落ちるみたいに
・特殊な幻想装置のように
・今実際目の前にあるもののように

・純粋な幻想を求めて阿片を常用する十八世紀の耽美的な詩人のように


・見取り図しての役割を果たしているよう
・アメリカン・インディアンの煙管の受け渡しみたいに
・記憶を正確に刻み込もうとするみたいに
・満開の花の蜜を一滴残らず飲み干そうとしている蝶の姿を私に思い起こさせ
・起動力のようなものが
・隙間風に吹き寄せられる木の葉のように
・海亀が鯨が呼吸するために定期的に水面に顔を出すみたいに
・励ましを与えるように
・空気圧がいくらか高まったみたいに
・用心深い猫のように
・薄い仮面を過ぶったうに
・昼下がりのサロンのような

・ポール・セザンヌが鉢に盛られたリンゴの形状を見定めているときのような


・太陽が沈んでしまったあとの水平線を、一人デッキに立っていつまでも眺めている孤独な船客のように
・ぴったり隙間なく封をするみたいに
・仮係留された気球のような
・大地についた白いしみのように
・食欲の旺盛な人が、店でいちばん分厚いステーキを注文するのと同じ
・子猫たちがある時点で母親から引き離され、自立していくのと同じように
・季節が巡るのと同じように
・スーパーマーケットで買ってきた食材を仕分けし、冷蔵庫に収納するのと同じように
・地底の底の闇に聳える、巨大な鍾乳洞の柱のごときもの
・満潮時の河口で、海の水と川の水とが上下し、前後し、入り混じるように
・その上に字が書けそうなくらい
・その沈黙は宙に浮かぶ白紙の息というかたちを
・まるでどこかの熟練した腹話術師が、私の口を勝手に動かしてしゃべっているみたいに
・バッテリーが切れるように
・深い沈黙に句読点を打つように
・声を発する能力がまだ自分に残っていることを確かめるように
・まるで真冬の上空に重く腰を据えた分厚い雨雲のように
・総合的衝動のような
・これから会いに行く少女の衣服を脱がせていく様子を、電車の中で想像したときと同じように
・映画のフェイドアウトの最初の段階みたいな
・煙のように
・吞み込みにくい形のものを、なんとか喉の奥に呑み込もうとしてる人のように
・まるで石像に向かって話しかけているような
・いわば知識の巨大な貯水池
・温度を持たない無色の水のように
・まるで私の怠慢を責めるかのように
・何かが喉につっかえたみたいに
・ヘミングウェイの短編小説の出だしみたい
・まるで神隠しにあったみたいに
・まるで何かの埋め合わせをするたいに
・ふらりと戻ってきた迷い猫みたいに
・春の到来を約束するような
・その失地を回復したかのように
・ささやかな儀式みたいに
・満々と水をたたえた巨大な貯水池のように
・繫茂する植物のように
・まるで神隠しにあったみたい

・海の底の牡蠣みたいに


・何かしらの通路を見つけて、その街に入り込んでしまったように
・言うなれば水面下深くにある、無意識の暗い領域に
・まるで森の中の生き物たちに重要な警告を与えるみたいに
・身体を巡る血液に何か見えない異物が紛れ込んだかのように
・いったん笑いかけたが思い直してやめたときのような
・何かを語ろうとしているかのように
・腹話術師の操る人形と同じように
・壊れた古いふいごの立てるような
・槌で平板を打つような

・食料品店でブロッコリーを点検する主婦のように


・新しい陽光に照らされた朝露のように
・刻印を捺すかのように
・部屋全体がまるで臓器の内壁のように
・いったん別のところに移された家具が、もう一度同じ位置に並び直されたような
・確かな熱を持った刻印のごときもの
・ジェリー・マリガン・カルテットの演奏する曲のタイトルを思い出しているときと同じように
・まるで日常的な当たり前の出来事みたいに
・差し迫った危険から身を潜めているみたいな
・衣類と呼ぶにはいささか硬質すぎる素材で作られているよう
・ぴったりした特製の鎧でも身につけているみたい
・なんていうか、もっと仮説的なものごと
・まるで強い潮の流れに運ばれていく漂流者のように
・言うことを聞いてくれない元気いっぱいの大型犬のように
・たとえば高い煉瓦の壁のようなものに
・与えられた骨をしゃぶる痩せた犬のように
・まるで生き物のように
・どろりとしたゼリー状の物質を半ば泳ぎ抜けるみたいに
・おもりが取り除かれたみたいに
・私がそこに存在していることなど目に入らないように
・誰か別の人間のよう
・振り子のように
・眩しく光る精緻な細工ものでも眺めるみたいに
・まるで催眠術でもかけられたかのように
・何かを思いついたみたいに

・舌が蜂に刺され、膨らんで麻痺してしまったみたいに


・間違えて何かを壊してしまわないように
・そっと身を休める小動物たちのように
・まるで深く澄んだ泉の底をのぞき込むみたいに
・不穏な何かの---たとえば頭上高く旋回する暗い色合いの大きな食肉鳥たちの---目を逃れるかのように
・木立の中でキツツキが立てる音のように
・何かを訴えるように
・ひとりの大人のように
・梯子の段がひとつ取り払われるみたいに
・水と水が混じり合うように
・空を飛ぶ鳥のように自由に
・いつもの朝と同じように
・まるで洞窟の奥の谺のように
・まるで外国語で語られる話を聞いているみたいに
・本の活字をたどるみたいに明らかに
・まるでさなぎから蝶が羽化するみたいに
・まるで新たな知識を待ち受けるサモアの島の住人のように
・喉の奥に堅く小さな空気の塊のような
・若い兎が初めて春の野原に出たときのように
・まるで彼の影のような
・何かを確かめるように
・生まれて初めてその言葉を耳にしたみたいに
・トレースされた画像が原型から微妙にずれていくみたいに
・まるでこれまで見たこともない食物を初めて口に入れる人のように
・自分の身体が半分透明になってしまったような
・闇に紛れる夜の鳥のように

[あとがき]
・両側から掘り進めていたトンネルが、中央でぴたりと出会ってめでたく貫通するみたいに
・まるで<夢読み>が図書館で<古い夢>を読むみたいに
・まるで喉に刺さった魚の小骨のような

思わず個人的に面白かったものベスト5を太字にしてしまいました。
いかがでしたでしょうか。腹話術が3度出てきました。
こうした"スパイス"もまた、村上春樹作品の愉しさですね。次回作ではどんな表現が出てくるのでしょうか。いまからワクワクしてしまっております。

ではまた。

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